第178話 氏政暴走
北条氏政は各地の城主に河越城に集まるように使者を出していたのだが、集まりが悪い事に苛立っていた。
「くそっ!なぜ来ない、どいつもこいつも長年北条家から恩を受けていながら返そうとしないとは!
恥を知れ!!」
あまりの剣幕に小姓達も距離をとり遠巻きに見ている。
「落ち着け兄上。」
氏政を止めたのは北条氏照だった。
氏照は滝山城主をしていたのだが今回の招集に応じていち早く河越城入りを果たしていた。
「氏照、だがな・・」
止められても氏政は尚も不機嫌であった。
「来ない者は仕方ないだろう、無理に呼び出したところで籠城中に裏切られたらたまったもんじゃない、それなら最初からいないほうがマシだ。」
氏照の言葉に一理を見たのか氏政の怒りは少しおさまる。
「だかな、この戦のあと追及はするべきであろう。」
「・・・まあ、そうだろう。」
氏照は戦に勝てるとは言えなかった、自身が落とせなかった城をいとも簡単に落し、功を誇る事無く瞬く間に上野を制圧したヒロユキの武功を忘れてはいない、ましてや北条自慢の小田原城ですらもたなかったのだ、河越城に籠城したとて何日持つか・・・
「しかし、氏規め、やはり裏切っておったか!」
氏政の怒りは招集に応じなかった弟氏規にも向う、追放後八王子城の北条幻庵のもとに逃げ込み保護されていた事は知っていた、なのに八王子から来たのは幻庵のみであり氏規は八王子城を守るという名目のもとに河越城入りを拒んでいたのだ。
「兄上、それはあまりに無体な話だぞ、追放された身でこちらに顔を出せないだろう。」
「何を言う、お家の危機にこそ身を立てる好機ではないか!まったく使えぬ奴だ!」
氏政は思い通りにならない苛立ちを周囲にぶつけていた。
河越城は戦う前に内部から軋み始めていたのであった・・・
北条綱成のもとには氏政からの命令書を携えた多目元忠が来ていた。
「援軍に来いとな?」
上野の箕輪城で上野を任されている北条綱成は渋い顔をする、上野とて信濃から土御門軍が攻めてくるという情報がある、安易に離れては全てを失う可能性がある。
「今一度氏政に確認してくれ、信濃からヒロユキの軍が準備をしている、俺はそれに備えるつもりだが上野を捨ててでも河越城の救援に迎えとのことか?」
「綱成様、氏政様は河越夜戦を今一度行えば全てが上手くいくとお考えにございます。」
「愚かな事を言うな、状況が違う、あの時は小田原、伊豆と領地があったからこそ兵も逃げる事が無かった、だが今河越城に全軍で立て籠もれば全ての領地を失う事になる、それこそヒロユキの手に全てを渡す事になるぞ。」
「ですが、氏政様は我等家臣の意見をお聞きしません。どうか綱成様が説得していただけませぬか。」
「元忠、お主の進言も聞かぬのか?」
多目元忠は北条家創設からの重臣の家である、当主であれその意見を重く受け止めなければならないのが家訓であるのだが・・・
「はい、我等の声は聞き入れられません、このままでは北条家が終わってしまいます。
どうか綱成様から進言を!」
「致し方ない・・・
元忠、俺が戻るまで暫し箕輪城に滞在してくれぬか?」
「ありがたい、箕輪城の事はお任せあれ。」
「氏繁、俺は河越城に向う、留守の間土御門家への注意を怠るな、くれぐれも元忠の意見を聞き戦に備えよ。」
「はっ、父上もお気をつけて。」
「ああ、そうと決まれば急ぐぞ。」
綱成は急ぎ河越城に向う、氏政の考えを改めれるかどうか、それは綱成にもわからなかった・・・
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