第177話 氏政ノ策

「ついに動いたか!領内に触れをだせ、土御門家を返り討ちにしてくれようぞ!」

北条氏政は領内全てに徴兵の触れを出す。


「氏政様、此度の戦は如何になさるおつもりか?」

松田憲秀は氏政の意向を確認する、北条氏康と違い感情的になることの多い氏政の意向にそわなければ難癖をつけられるのだ、憲秀は氏政の意向を第一に考える。

「憲秀、この河越城は父氏康が躍進した城だ、私もそれにあやかり、河越城にヒロユキを引き付け、城外に綱成叔父上に伏せてもらい挟み打ちにて憎きヒロユキを葬り去る。」

氏政はかつて十倍の兵力差を翻し大勝した河越夜戦を思い描いていた。


くしくもこの苦境において自身が河越城にいることに運命を感じていた。


「氏政様、あの時とは事情が違いますが大丈夫でしょうか?」

憲秀は不安をおぼえる、河越夜戦の時は少なくとも家中が一つに纏まり、一丸となり攻め寄せる上杉軍に立ち向かう事が出来た、だが、弟の北条氏規を疑い遠ざけ、本拠地の小田原を取られ今の状況で家中が纏まるのか、ましてや相手は天下に名を轟かせているヒロユキが河越夜戦の時のように家名を鼻にかけるだけの無能ではないのだ。


「なんだ憲秀、父上に出来た事がこの俺に出来ないというのか!」

氏政は声を荒らげてくる、若い当主はどうしても一つ先代と比べられてしまう、ましてや氏康は名君なのだ、氏政の口調からはその劣等感からの苛立ちが感じられた。


「滅相もない、ただ相手は手強い者にございます、慎重に検討すべき事と考えまする。」

「ふん、ヒロユキなど運が良いだけの男だ、たまたま時勢に乗り、様々な物を得たようだが所詮出自も怪しい忘恩の輩では無いか、そのような者に俺が遅れを取るはずもない。」

憲秀は氏政の考え違いに気づくのだが、それを指摘すると先程のように怒るのが目に見えている。

「そうですな、義は我等に有り、天は我等に味方することでございましょう。」

「そうであろう、今回の戦で俺の名を天下にひろめるのだ。」

氏政は河越夜戦で氏康が得た名声に心を馳せ、自身もその頂きに登れると思って違わなかった。


その日から松田憲秀の姿が城内で見かけられる事は無かった・・・

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