第174話 撤退

「逃したか、敵ながら見事。

赤尾殿の遺体を小谷城に届けよ、くれぐれも丁重に扱え。」

俺は浅井久政を逃がす為に命懸けで戦い切った赤尾清綱の忠誠心に敬意を払う。


「殿、この後は如何になさいますか?」

「そうだな、勝家殿と合流して美濃まで退却する。

正成、勝家殿に退路は確保出来た、こちらに合流するように伝えてくれ。」

「かしこまりました。」

「殿、朝倉はどうするのですか?」

「山の中を素通りさせるつもりは無いからね、俺達を追撃は出来ないだろう、まして浅井が敗れた事はすぐに伝わるだろうからね。」

挟撃狙いの朝倉が浅井が敗れた今こちらに向かってきても対処のしようはある、ましてや木の芽峠を越えないとこちらには来れないのだ、山の中なら動物達の領域である安易な行軍をさせない自信があった。


「なに、ヒロユキ殿が浅井をやぶり退路を確保したと。」

「如何にも、勝家殿も早く引上げなされよ。」

「だが、朝倉を誰かが抑えねばなるまい。」

「それも大丈夫とのよしにございます。

我が殿は神に守られておられる御方にて、この木の芽峠に入れば動物達が朝倉に牙をむくとの事です。」

「ヒロユキ殿のちからか・・・

承知した、全軍ヒロユキ殿に合流致す、正成殿道案内を頼み申す。」

「お任せあれ。」

正成は勝家を小谷城近郊で浅井に睨みをきかしていた俺の所まで案内してくる。


「勝家殿、よくぞご無事で。」

「ヒロユキ殿のおかげにございます。」

「いや、勝家殿が時間を稼いでくれなければ私とてどうなったことか、誠に助かりました。」

「そう言っていただければ、身をとした者達も浮かばれるでしょう。」

「美濃に帰ったら信長様にも亡くなられた方々の武勇をしかと伝えておきましょう。」

「忝ない。」

勝家は深々と頭を下げる。


「勝家殿、さあ美濃に帰りますか。」

「ヒロユキ殿、浅井をこのままにしておくのですか?」

「残念ながら落としても維持する事は難しいでしょう、俺としては飛び地になりますし、信長様とて今北近江を守る事はしんどいかと、それに今回の戦で浅井はボロボロでしょう、ここは調略で領地を削っていくのが賢明かと。」

「うむぅ、調略か・・・」

勝家は調略のような絡め手が苦手であり、自身の戦略には無いものであった。


「武略だけが戦ではありません、勝家殿が苦手なら部下に得意な者を雇えば良いのです。

今後、信長様が天下を取るためにも一軍を任せられる将が必要になるでしょう。

信長様の信厚き勝家殿がその筆頭になられる為にも今のうちに苦手な戦略も学ぶ時だと進言させてもらいます。」

「天下に轟くヒロユキ殿の忠告しかと胸にとどめましょう。」

「偉そうな事を言ってすみません。」

「いや、某と織田家の事を思ってのお言葉、感謝致します。」

その後、俺と勝家は馬を並べ、戦略について語り合いながら美濃への帰路につくのであった。

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