第173話 浅井と決戦?

浅井の先陣のみならず、二陣の一門衆でもある浅井正澄にも壊滅的ダメージを与えて善住坊は部隊を下げる。

「これ以上は砲身が歪んじまう、少し休ませろ。康政任せたぜ。」

善住坊が部隊を下げると同時に榊原康政が前に出て防御陣を形成していた。


浅井軍は先陣、二陣と手痛いダメージを受けていたが、久政からの命令は突撃のままであった。

「殿は何を考えているのだ、突撃と言われても困るぞ。」

三陣を任された宮部継潤は変わらぬ命令に困っている。


二部隊がなすすべもなくやられたのだ、何らの対策をしなければ自分もやられてしまう。

だが、浅井長政に仕え始めたばかりの新参者でもある宮部継潤が先代当主浅井久政に意見しても通るとは思えない。

そもそも継潤としてはこの戦に反対なのである。

どう考えても朝倉に未来は無い。

それなのに長政を押込み朝倉に味方するなど狂気としか思えなかった。


「宮部様、本陣の久政様から突撃しろとの命令が来ております。」

「・・・転進致す。」

「転進ですと!」

「私は長政様の家臣である、先代とはいえ久政殿の命令を聞く気はない。」

「な、なりません!それは必ずや怨恨を残しますぞ!」

「構わん、浅井はもはや終わりよ!」

「殿、浅井が有利にございますぞ。」

「この戦で勝ったところで織田はまだ健在である、その上、土御門も本国に多数の兵がおろう。

北近江一国の浅井がどれほどもつか。」

家臣達も宮部の言葉で眼の前の戦だけでない、どう足掻いても覆せない国力差に気付かされる。


「久政殿が何を考えているかは知らんが、織田との同盟を破棄した時点で終わりよ。

せめて信長殿を討ち、土御門殿と手を結べれば可能性があったやも知れんが。

まあ、土御門殿に野心が無いようだから、無理だろうがな。」

「して殿は如何になさるつもりですか?」

「知れたこと、戦場から離れ領地に戻りしあと、織田に降る。」

宮部の言葉に決心がつかず、固まる者もいるが・・・


「急げ、土御門殿の攻撃に情けがあると期待するな、急ぎこの場を離れるぞ!」

宮部は部隊を引き連れて戦場を離脱していく、その姿は周囲の浅井軍に動揺が走る。


その動揺を待っていたかのように島清興が側面から攻撃を仕掛けた!

「おら!裏切り者の浅井に天誅を!」

清興を先頭に激しい猛攻は本陣の浅井久政に迫る勢いだった。


「ひぃぃ!ふ、防げ!防がぬか!」

久政は怯え、家臣に指示するものの、既に陣は崩壊しており、各自それぞれ撤退を開始していた。

「久政様、無念ですが、今はお逃げくだされ!

さあ、お早く!お前達、殿を城までお連れせよ!」

赤尾清綱は久政を馬に乗せ、近習に命じて久政を逃す。


「さて、時間を稼ぐか・・・」

赤尾清綱は崩れる浅井軍において最後まで戦い、その命をもって久政が小谷城に入るまでの時間を稼ぐのであった。

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