第172話 浅井とぶつかる。
「さて、浅井とやり合いますかね。
善住坊、敵の出だしを挫く。
鉄砲隊で待ち構えろ。」
「はっ!お任せあれ。
奴らを蜂の巣にしてくれましょう。」
「康政は善住坊の援護を頼む、清興は迂回し側面に回ってくれ。景久はいつも通り指示を出したら突撃してくれるか。」
「かしこまりました。」
「お任せを。」
「正成は周囲、特に後方に注意してくれ、勝家殿が頑張ってくれているとは思うが多勢に無勢、いつ朝倉が来てもおかしくない、警戒をしておいてくれ。」
「はっ!」
「元忠には本陣を任せる。」
「誠に光栄にございます。」
「いいか、後方に朝倉軍が迫る以上、今回は短期決戦となる。
各々、油断なきよう心得てくれ。」
「「「はっ!!」」」
俺が命令を出したあと各自部隊に戻り動き始める。
浅井の先陣を任されているのは磯野員昌だった。
員昌は浅井家でも世に聞こえた猛将である。
騎馬を駆り、比類なき武勇でこれまで先陣をきり、敵を葬ってきた。
土御門軍についても同じようになると信じていた・・・
「土御門など恐れるに足らんわ!
朝倉殿のチカラを借りずとも、我らの手で葬ってみせようぞ!
皆、我に続け!!」
員昌は兵を鼓舞しながら進む。
勢いそのままに蹂躙するつもりであった。
「これまた猪武者が来たものだ、狙いを定めよ。」
杉谷善住坊は鉄砲隊に狙うように指示を出しながら、自身も先頭を行く武者、磯野員昌に狙いをつけていた。
「今だ、撃て!」
善住坊の指示とともに一斉に撃つ。
前線を走る馬群が倒れていく。
その中には磯野員昌もふくまれていた。
「一陣下がれ、二陣射撃準備!」
善住坊は一陣を下がらせ、既に弾込めが終わっている二陣と入れ替える。
一方、指揮官である磯野員昌は善住坊の射撃を額に受けて絶命していた。
「磯野様!磯野様!
だめじゃ、既に亡くなられておる。」
「おい、どうするんだ!」
「どうもこうもあるか、大将がやられたんだ、逃げるしかあるまい。」
「まてよ、浅井はまだ負けていない、後軍に入れば。」
「入れるかよ、早く逃げないとその後軍に踏み潰されてしまう。」
磯野員昌の配下と兵士は急に倒れた大将にどうしたらいいのか右往左往している。
そこに善住坊の2射が放たれた。
「だ、だめだ、ここにいるとやられちまう。俺は逃げるぜ!」
一人また一人と逃げ始めると釣られたかのように兵士達は逃げ出す。
そこには勇猛で名高かった磯野軍の姿は無かった。
「ちっ!なんだ、磯野のあのざまは!」
浅井久政は先陣で崩れる磯野軍に舌打ちする。
「さすがは土御門と言ったところでしょうか。」
久政の側に使える赤尾清綱はヒロユキを褒める。
「何を褒めておる、我軍がやられておるのだぞ。」
「なに戦は始まったばかりにございます。
数はまだまだ我らが上でございます、焦る必要などございません。」
「そ、そうよなぁ、うむ、磯野めが不甲斐ないせいで少々動揺したようじゃな。」
久政は清綱の言葉で落ち着きを取り戻すが、反面、清綱は冷や汗が流れているのを感じていた。
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