第159話 帰路
織田と浅井の連合軍が形成されている中、俺と景虎は帰路に着いていた。
「景虎殿、帰路もうちを通るのですか?」
「もちろんだ、お主の領内を通る方が楽で安全であろう。」
日本海を使う行路は織田と朝倉が戦争になりそうな状態で織田に味方した景虎が移動するのは危険であり、俺の領内を通るのは至って普通のことなのだが、少しソワソワしている上杉家臣を見ると、酒の飲み放題を期待しているようにしか見えない。
「接待は程々にしますよ。」
「・・・な、なにゆえ?」
「あんたらは飲みすぎだ!また蔵を空にするつもりか!!」
景虎とその家臣は目を逸らす。
何故か俺の家臣も目を逸らす者が多数いる。
「飲み過ぎは身体に悪いから、量を減らす、これは決定事項。
いいですか!」
「仕方ない・・・」
景虎は肩を落とす、どれだけ楽しみにしていたのやら・・・
吉田の城に帰るとミユキ達が出迎えてくれる。
「みんな帰って来たよ。」
「お帰りなさい、無事で良かったです。」
ミユキは嬉しそうに俺を抱きしめ、帰りを喜んでくれる。
「あはは、仲がいいのは素晴らしいな。」
景虎は俺達の姿を見て、楽しそうに笑っていた。
「お恥ずかしいところを見せまして・・・」
俺は少し気恥ずかしくなる、ミユキも同じなのか頬を赤らめる、俺から離れていた。
「お気になさるな、こちらとて奥の雰囲気がいい事は清を頼むのに良いことだからな。」
景虎は更に機嫌よく笑っているが俺としては恥ずかしい気持ちで一杯だった。
その夜は当然のように宴となる。
俺は酒の量を減らすことを提案したがミユキの、
『帰宅を祝う宴でケチくさい事は無しにしましょう。』
この一言で俺の家臣たち及び上杉家臣達は歓喜の声を上げていた。
「ヒロユキはいい奥方をもっておるな。」
景虎は上機嫌で俺の肩に手を置き、盃を口にしていた。
「酒が飲みたからって・・・」
「ぼやくな、ぼやくな、してヒロユキ、お主はどう動く?」
笑っていた景虎が真剣な表情で聞いてくる。
「まあ、北条との戦いを終わらせることが先決ですね。信長殿と景虎殿との関係も良好ですから、兵力を集中して回すつもりです。」
「領内が手薄になることを堂々と言うのだな。」
「景虎殿は攻めて来ないでしょ?
それに人を動かせば自ずとバレるものです。」
驚く景虎を尻目に俺は戦略を語る。
「長年北条の支配地だったところを武威と治世により、こちらの支配下に塗り替えているところですが、そろそろ先に進もうかと。」
「北条か、ワシも長年やりあったが一筋縄ではいかぬ相手ではあるぞ。」
「たしかに手強い相手ではありますが、景虎殿が苦戦した北条氏康はこちらで捕縛しております。
相手が氏政なら付け入る隙がありますね。
元に弟氏規を追放したことで家中にヒビが入ってます。
一族、家臣が当主を疑うようになれば、かつての強さを見せることはありますまい。」
俺の戦略を聞いた景虎は目を丸くする。
「話してくれたことにも驚きだが、そこまで考えておるとは・・・」
景虎は戦略をここまで話してくれるとは思っていなかった、戦略は機密である、本来なら他家の景虎に明かす必要などない。
つまりヒロユキが景虎をそこまで信じてくれていると証明のように感じたのだ。
その事に景虎は感動を覚えていた。
「なるべく被害は少なく勝ちたいですから。」
「見事だな、家臣達が纏まるのもわかる話だ。」
景虎が感心している中、俺は歴史上の名将である景虎に褒められて嬉しい気持ちであまり飲まないと酒が進んでいた。
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