第148話 宴
景虎を迎えたのはミユキを始め、梅、お市、笛、そしてユメだった。
「ようこそお越しくださいました、長旅お疲れでしょう、さあ、中へどうぞ。」
ミユキが正妻として代表して、景虎を迎えつつ、みんなで上杉家臣を広間に案内する。
広間には国境を守る者以外で手の空いていた家臣たちが集結し、上杉を出迎える。
「うむ、精強な家臣団であるな、武田の、いやヒロユキの強さがよくわかる。」
景虎は武田の旧臣の顔を眺めつつ、俺の家臣団を褒める。
「景虎殿、まずは一献。」
俺は清酒を景虎につぐ、
「忝ない、さあヒロユキ殿も。」
互いに盃を交える。
「よいな、ヒロユキは我が盟友である。今宵は両家の親睦をはかる宴である。くれぐれも粗相せぬようにな。」
「景虎に先に言われたが、我らは歓待する側だ丁重にもてなせ、
ただし、清酒は我らの酒だ、上杉家中に呑み負けるなよ。」
「ほぅ、上杉は酒豪が多いぞ。みな城の酒を呑み干してやれ。」
「「おお!!」」
俺と景虎の冗談を交えた宣言に一気に呑み会が盛り上がる。
・・・冗談なんだよね?ほんとに空にする気かな?
あまりのペースに少し怯えながらも、宴は円満に進んでいく。
俺は景虎とゆっくり呑みながら、戦略、戦術について語り合っている。
「景虎は天下を望まないのか?」
俺は気になっていた事を聞く、今回の同盟で天下を取るのは畿内を治める信長となる。
俺はいいが、景虎の上杉はそれでいいのかと疑問に思ったのだ。
「越後は遠い、京に上がるだけでも一苦労よ、上杉に天下を治める力はないな。
それよりヒロユキこそ天下を望まぬのか?
お主なら織田を制して天下にも手が届こう。」
「無いですね。俺にそこまでの野心はありませんし、そこに至るまでに失うものが怖いです。」
「小心なのだな、もっと望めば手に入る物を。」
景虎は酒を呑み干す。
俺は酒を注ぎつつ。
「俺は天下の名将と酒を酌み交わしたい。
会って話してみたいんです。」
「欲のない話だ。
だが、信長は助かったな。ヒロユキが野心を持って敵に回れば天下など吹き飛ぶからな。」
「わざわざ義兄に攻撃したりしませんね。
俺は東の安定に尽くします。」
「ワシに娘がおればヒロユキに嫁がせるのだがな。」
「あはは、それは勘弁してください、これ以上増やすと妻に怒られてしまいます。」
「既に多かろう、今更一人、二人増やしても変わりあるまい、そうじゃ、姪の清を養女にしてから嫁がせよう。」
「姪って・・・」
俺はふと考える、上杉謙信の姪といえば、姉の仙桃院の娘ぐらいの筈、この年代なら父親の長尾政景を失い・・・そういえば謀反の疑いからの謀殺説もあったけ。
俺が考え込んでいたので、
「うむ、その様子では知っておるようだな、姪の清は父親を無くしたばかりでのぅ、しかも、何故かワシが謀殺したことになっておる。
だが、決してそのような事は無い、あれは不幸な事故だったのだ。」
「少しお伺いしても?」
「かまわん、嫁に出すのに謀反者の娘だと些か問題になるからな。」
「いえ、そのようなことは・・・」
「確かに父親の長尾政景とは過去に争った事もあったが姉が嫁いでからは良好な関係だったのだ、だが定満・・・ワシの家臣だった宇佐見定満と船遊びの最中、急な心の病で苦しんでおったのは介抱しようとして池に落ちてしもうたのじゃ。
政景も苦しさからしがみつく定満をどうしょうもなく巻き込まれてしもうたのだが、そのせいで二人とも命を落とし・・・」
景虎の表情からは二人を惜しむ涙が見えた。
「心中お察しします。」
「うむ、じゃが話はそれで終わらなかった、政景は家中の取りまとめを任せておったせいで恨む者も多くてのぅ、陰口から居場所が無くなっておる。
頼む、このままだと清があまりにも哀れだ。
ヒロユキの元で幸せにしてくれぬか。」
景虎は頭を下げる。
「頭を上げてください。」
「いや、ヨシと言ってくれるまでは頭をあげん!」
「・・・わかりました。引き受けます。
上杉と縁組出来る事を光栄に思います。」
「おお、受けてくれるか!
皆、よく聞け!今日この日より上杉と土御門は縁戚となる!
めでたい日じゃ、呑め!」
「「おお!!」」
上杉家臣からは歓声が上がり、俺の家臣たちも祝の言葉を上げているが・・・
俺の右隣ではミユキが足を抓ってきており、
左隣のユメも足を抓っていた・・・
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