第129話 武田の残党の行方

「盛信殿、まずはご無事で何よりです。」

俺は落武者狩りにあった盛信と会談していた。

「ヒロユキ殿、温かい言葉に感謝致す。

私の首はどうなってもいいから、伯父、一条信龍と土屋昌次、そして、姉の見の身の安全を保証願いたい。」

盛信は深く頭を下げる。

幼くも家族をそして、忠義の家臣の為に身を張るその姿に俺は感心する。


「盛信殿、貴方は武田当主に未練はあるか?」

「いえ、私は信廉伯父上の傀儡でございました。当主という意識はございません、ただ、望むなら武田の血を絶さぬようだけ願いたい。」


「見事な者だ、どうだ盛信が良ければ信永の配下にならないか?」

「信永の配下にですか?」

「そうだ、同じ武田の者とした、そして、従兄弟として支えてやれぬか?」

盛信は考える、現在武田の主流は信永だろう。

血を残すには信永を支えるのが一番早い。

「喜んで承ります。」

「そうか!そなたの才気に期待しておる、まずは良く学び、身体を鍛えるのだ。」

「はい!」

そして、盛信を信永の元に送った。


服部正成が微妙な顔をしてこちらを見ている。

「正成どうした?」

「よろしいのですか?盛信殿は形だけとはいえ、武田当主になった者、いつ裏切るか・・・」

「あの者は裏切るような性分ではないだろう、それが裏切る時は俺の差配に大きな間違いがあった時だろう。」

「家臣として過ぎた事を述べました。」

「いや、正成の気持ちはありがたい、俺が見落としてしまうことも多いからな、いつでも忠告してくれ。」


一条信龍、武田盛信を武田信永の傘下につける。

そして、穴山信君の妻であった見は、夫に捨てられた悲しみから離縁し、寺に入る事となる。


こうして、大名としての武田は滅びるのであった。


「信君、城が見えるぞ。」

「おお、八王子城か?取り敢えず北条殿に保護していただこう。」

武田信廉と穴山信君は落武者狩りを振り切り、北条家にたどり着く。

何とか氏康との面会は叶ったが、


「信廉殿、信君殿といったかな?どのような縁で北条を頼られる?あなた方が望むように土御門家に挑む理由がない。」


「なんと、武田とは同盟関係な上に縁戚でもござろう!」


「確かに信玄殿のご息女は当家に嫁いでおられるが、信玄殿亡き後、当家との縁は切れておるものだと思っておったのだが?」


「何を申される、信義に篤い北条家当主氏康殿の言葉とは思えませぬな、

先の上野攻めの恩を忘れたのですか!」


「確かにあの戦の恩はある、だが、それはヒロユキ殿にもある話だ、ほとんどヒロユキ殿の手柄でないか。」


「それは・・・」


「土御門家に対する恨みは忘れるのですな、氏政の室の伯父ということで信廉殿には禄で良ければ仕官していただいても構いません、しかし、信君殿、貴方は当家で雇う気にはならない、信廉殿に仕えるなら見逃してもよろしいのですが。」


「なっ、なぜ!私も武田の一門、氏政殿とは義兄弟にあたる筈!」


「それは異なことを、当家にも見殿からの離縁の話が聞こえてきておりますぞ、奥方を見捨てて逃げた代償ですな、そのような卑怯者を雇う気にはならん、信廉殿に仕えぬのなら好きな所に行くがよい!」


氏康に叱責され、プライドを傷つけられた信君は北条家を後にし、浪人の道を歩む、

一方、信廉は姪の縁故に頼り、北条で禄をはむ、色々な人に指差されながら・・・

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