第130話 前鬼ふたたび

俺は甲斐と南信濃の開発に集中する。

武田信廉の政治のせいか、かなり国が荒れていた。

甲斐の国は水害が多い地だ、俺はまず堤防を作る。

使う人材は山にいた熊達だ、人と違いパワーがあり、文句も言わず黙って作業をしてくれた。

お陰で台風シーズン前に何とか堤防を作る事が出来た。


そして、南信濃では街道整備を中心に行う、特に三河から続く道を高遠まで伸ばした。

これにより三河の物資が素早く届くようになる。


開発を進めながら、俺は三河に戻っていた。

伸ばし伸ばしにしていたイベント、前鬼さんの招来だ。

月の光は充分に当てていたが、俺が戦や京に行っていた為に後回しになっていたが、戦が一段落した所を狙い行者さんから切実な依頼が来た。

その為、吉田城で招来することになるのだが・・・


「これはまた凄い数が集まったね。」

俺は集まった数に驚く。各地からお偉方が集まって来たのは前回も同じだが、一目でも見れないか、せめて、近くでと思う者が町中に溢れていた。

「お兄ちゃん、ちょっと怖い。」

「まあまあ、敵意は無いんだし、もう一度呼ぶだけだからね。」

ユメが祈りを捧げ、


俺は前回と同じようように呪文を唱える。

「天元行躰神変神通力、我願い奉る、かの地を清め、加護あらんことを!」

ユメのネックレスが光、再び、前鬼が現れる。

前鬼が現れると行者からは感嘆の声、拝む者がいたり、様々であった。


「おお、呼び出しか、それで、何かようか?」

「そうですね、少し話を聞かせて貰えますか?」

「うむ、言ってみよ。」

「後鬼さんはどうやったら呼び出せますか?」

「後鬼か?呼び出すには対の宝具を見つける必要がある、それを同じように日の光にさらし、そなたのような術師が唱えれば叶うであろう。」

「その宝具は何処に?」

「それは解らぬな、人の世で何処に行き着いておるやら、だが、資格者以外は触れぬからな。

持つべき者が持つであろう。

そして、それは必ずやそなた達の前に現れる。」


俺が話していると一人の僧侶が前鬼に話しかけてきた。

「前鬼様、どうか我が寺院にお越しくださいませ。

此処より良き祭壇で奉りましょうぞ。」

しかし、前鬼は答える事は無い。

だが、僧侶はしびれをきらしたのか前鬼に更に近づく。


「前鬼様!」

雷が僧侶を貫き、灰になる。

「誰がワシに話しかけて良いと言ったか?

人風情が舐めるでないわ!」

周囲に緊張感が走る、


「前鬼さん周囲を威圧するのはやめて、みんなが怖がってる。」

ユメが震えながらも前鬼に訴えかける。


「すまなんだな、ふむ、御主は良き心の持ち主だ、術師よ、娘を守るのだぞ。」

「言われなくても守るが、前鬼さんを長時間召喚するにはどうしたらいい?」

「契約をかわせば条件はあるが呼び出せるようになる。」

「それはどうすれば?」

「娘の術力が上がらねば話にならんな、結界を張った清められた部屋で瞑想をするが良い。」

「結界ですか?どうやれば?」

「なんだ、それも知らんのか?仕方ない、御主にやり方を伝授しておく。」

前鬼は俺の頭に手をおく、

すると知識が流れ込んでくる。


「これでわかったであろう。しかと娘の術力をあげるのだぞ。」

そして、前鬼は消えていく。


消えたあと、灰になった僧侶の身元を確認する。

どうやら空誓上人という三河にある本證寺という一向宗に属する寺の住職のようだった。

俺は領内広くに事の経緯を詳しく伝え、俺が殺めたのではないことを伝える。


そして、前鬼に逆らい、雷にうたれ灰になった話は行者や高僧達から広く全国に知れ渡り、いつしか一向宗は裁きの雷にあうという噂に変化して、広まってしまった。

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