第121話 京を去る前に
俺は撤退にあたり、島清興を呼び出していた。
「清興、京に残り宮城の建設を頼んでいいか?」
「そのような名誉ある仕事を某に任して貰っても宜しいのですか?」
「勿論だとも、三千の兵を預けるから立派な建物にしてくれ。」
「お任せあれ。」
俺は清興に京の滞在を命じて、本軍は撤退する事を決めた。
その事を朝廷に伝える為に登城する。
「なんと、土御門殿が帰国なさると!」
「はい、国許を留守にしすぎるのも問題がありますので。」
「うむ、事情はわかるが・・・いてもらう事は出来ぬか?」
「申し訳ございません、ただ部下を残していきますので何かあれば頼ってください。」
「おお、流石は忠臣であるな、その気配りに感謝致す。」
「いえいえ、それに織田殿も朝廷をないがしろになどしませぬので、何かあれば相談なさるのも宜しいかと。」
「そなたの言葉だ、何かあれば頼る事に致そう。」
朝廷への挨拶は無事に終える事が出来たのだが・・・
「なに?帰国するだと?」
足利義昭の元に挨拶に行くと明らかに不機嫌そうにしている。
「ええ、国許が不安ですので。」
「そうか、ならばこれを命じるすみやかに遂行せよ。」
俺は義昭が出してきた書状を見る。
駿河を今川氏真に、遠江を斯波義銀に渡すように書かれてある。
「これはいったい?」
「秩序を取り戻す為だ、すみやかに明け渡すように。
そうだ、市姫も余に差し出すのだぞ。」
義昭は下卑た笑いを浮かべている。
義昭の近習はいつでも斬れる構えをとっている。
ここで一旦承諾し、無視するのは簡単だが、市を、家族を引き渡せと言われて黙ってはいられなかった。
「・・・そうですか、これが足利家のやり方ですか?
ならば、私は足利家と縁を切りましょう。」
「なっ!この数が見えぬのか、断れば斬るぞ!」
「武家の棟梁を称する人が暗殺ですか?情けない!武士なら弓馬を持って相手をせんか!」
俺の気合いに一瞬義昭は怯んだが・・・
「き、きれ!この痴れものを斬り、足利の力を示すのだ!」
近習が斬りかかって来るが大量の鼠が現れ、俺と近習の距離を空ける。
「まあ、俺は武士でもないから弓馬で相手はしませんが。」
「この卑怯者が!」
「どっちがだ、挨拶に来た者を暗殺しようとは情けない。
だが、お陰で遠慮なく始末出来る。」
「なっ、将軍の我を殺すと言うのか!」
「俺は手を下しませんよ、ただ、鼠に喰われるだけです。」
近習を含め、義昭の顔色が青くなる。
既に入り口は鼠の大群に囲まれており、一斉にかかられて勝てる筈がなかった。
「や、止めてくれ、謝る、謝るから命は助けてくれ。」
「知らん、これも戦国の世だろ?じゃあな。」
俺は部屋を出た。その後、義昭と近習の悲鳴が聞こえてきた・・・
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