第117話 天下の野心
俺が観音寺城に戻る頃には信長が既に城を抑えており、片付けをしているところだった。
「信長殿、お見事にございます。」
「よく言うわ、お主、見ているだけでは無かったのか?」
「どうも堪え性がないようでしてな、ついつい動いてしまいました。
いやお恥ずかしい。」
「いや、お陰で被害が少なく済んだ。礼を言おう。」
信長から礼をされるが長政は憎々しく見ている。
「ヒロユキ殿、抜け駆けとは些か失礼ではござらぬか?」
「長政殿、すみません、
ただ、私は信長殿の配下ではございません。
攻めるなと言われても、大人しくするつもりはありませんよ。」
「なっ!一人の勝手が敗戦を招く恐れがあるのですぞ!それをどう考えるのか!」
「負けねばよいのです、それに例え信長殿が負けたとしても我が軍だけでも上洛を完遂します。」
俺と長政の話を聞き信長が間に入る。
「長政殿、ヒロユキにしても長政殿にしても同盟相手だ、やりたい事があれば遠慮なく言ってくれ。
それにヒロユキからは後詰めに入ると連絡があったのだ、ちゃんと我にも配慮してくれていた。
あまり責めないでくれ。」
「信長殿がそう言われるなら・・・」
「それにだ、本来の目的は京にはびこる三好を討つ事だ。
どうであろう、三好攻めの先陣は長政殿が引き受けてくれないか?」
「おお、京への先陣を任せて下さるか、わかりました。浅井の力をお見せ致しましょう。」
長政は上機嫌で引き受ける。
そして、長政が引き上げた所で信長に呼ばれる。
「ヒロユキ殿、此処まで見切っていたのか?」
「何がですか?」
「三好への先陣は被害が大きくなろう、あの様子では浅井は被害を気にせず攻め込むであろう。」
「考えすぎです。
それに信長殿も狙ってましたよね?」
「お主も含めてな。
本当に喰えぬ奴だ。」
「まあまあ、代わりに信長殿には手土産もあるのですよ。」
俺は連行した六角義賢を引き渡す。
「なっ、捕まえておったのか!」
「ええ、これで統治が楽になるでしょう。」
「うむ、見事だ。しかし、よく城を捨てるとわかっていたな。」
俺はただの歴史のカンニングだが・・・
「まあ、可能性の一つですからね。
それに信長殿が頑張ってくれないと俺も忙しくなりますから、是非畿内を安定させてください。」
「ヒロユキは天下を望まぬのか?
御主の才覚ならワシを倒して天下を狙えよう。」
信長は真剣な目を向け、俺に問いかけてきた。
「俺には必要ありません。俺は自分と仲間が平和に暮らせたらそれで良いのです。」
少し信長は考え込むと・・・
「そうか、ならばワシと共に天下を歩んでくれるか?」
「ええ、信長殿と争う気はありませんよ。
争うと市が悲しみますしね。」
俺は信長の誘いをうけた。
「ふっ、市のお陰であるか、つくづく大事にされているのだな。」
「家族ですからね。あれ、そうなると信長殿も家族なのか?」
「そうなるな、よし、出来のよい義弟にワシも楽させて貰おう。」
「それは勘弁してください。義兄に頼って自堕落に生きていきますので。」
「よく言うわ」
信長と俺の笑い声が木霊していた。
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