第112話 岐阜城
「よく来たな、此度はよろしく頼む。」
信長は町の外まで俺を出迎えてくれた。
「信長殿、こちらこそ頼みます。それと市。」
俺は一緒に来ていた、市を呼ぶ。
折角の機会だから岐阜に行き、家族と会う時間をつくろうと思ったのだ。
「おお、市、息災であったか。」
信長は嬉しそうにそして、優しい目をして市を出迎えた。
「兄上、お久し振りにございます。
市は日々幸せに暮らしております。
此度はヒロユキ様の御配慮で家族に会えるよう手配していただけました。」
「おおそうか!母も喜ぶであろう。
ヒロユキ、配慮に感謝するぞ!」
「いえ、家族に会えない不便をかけてますからね。
こういった機会には会えるようにしたいと思っております。」
「うむ、さあ、城に案内しよう。」
信長は上機嫌で俺達を城に招く。
「市、折角だから。」
俺は市を馬に引き上げ一緒に乗る。
「ヒロユキ様。」
市は頬を赤く染めながらも、嬉しそうに俺に寄り添う。
「仲が良いようだな。よし参るぞ。」
俺と市、そして、信長は町の人にゆっくり見せつけるように城に入った。
「市、息災ですか?」
城に入ると信長と市の母である土田御前が慌てたように門の前まで来ていた。
「お母様、お久し振りにございます。」
「さあ、早くこちらに」
土田御前は市を抱きしめ、再会を喜ぶ。
「もう大丈夫ですよ、夫に不満があり帰って来たのでしょう。
私がいますからね、信長!市は私が引き取ります
以後政治に利用しないでくださいませ!」
「お母様違います!私はヒロユキ様に何も不満などございません!」
市は土田御前を引き離す。
「市?あれ程嫌がっていたではありませぬか、もういいのですよ。」
「それは・・・最初はそうでしたが、今は違いますから!」
市は少し慌てた様子で否定する。
「へぇ~市はいやだったんだ。」
俺は少しからかう風に市に話しかける。
「もう、意地悪言わないでください。
今はヒロユキ様のお側に居ることが幸せなのですから。」
その光景に土田御前は固まっている。
「土田御前、市の夫の土御門ヒロユキです。
此度はご挨拶出来て、嬉しく思います。
これはささやかながら市の母上たる土田御前への贈り物にございます。
どうぞお納めを。」
俺は真珠、珊瑚、絹織物、櫛、布団など多くの物を贈り物として用意していた。
「これは・・・」
「市は良くしてくれていますからね、そのお礼でもあります。」
俺が市を大事にしている事が伝わったのか、土田御前は身を正し、
「先程は失礼いたしました。
どうやら、私の勘違いで不快な思いをさせた事をお詫びします。
どうか末長く、市をよろしく頼みます。」
下が土ということもかまわず、足を地面につけ、頭を下げる。
「お立ちください、市を大事に思っている為の言葉と思っておりますれば、不快になど思っておりません。
そのように義母さんに頭を下げられた方が困ってしまいます。」
俺は土田御前の手を取り、立ってもらう。
「ありがとうございます。どうか市を・・・」
「わかってます。さあ市、土田御前を御部屋にお連れして。」
「はい。」
市は土田御前の手を取り一緒に部屋に向かった。
「母が失礼した。」
信長が謝ってくる。
「いえいえ、気にしていませんので。」
「実は婚姻にあたり、市は少し嫌がっておってな、最終的には納得していたのだが。
母からすれば無理やり行かされたと思っておったのだろう。」
「見ず知らずの私に嫁ぐのですから、嫌がるのも当然かと。
今は受け入れてくれてますので、嫁ぐ前の事でとやかく言うつもりは有りませんよ。」
「すまんな、助かる。
さあ、此処ではなんだ、家臣も待っておるし城に入るぞ。」
俺は信長と共に城内に入る。
「皆、義弟のヒロユキ殿である。
粗相無きようにな。」
「皆さん、土御門ヒロユキにございます。
此度は義兄信長殿を手助けすべく、参りました。
共に京を目指しましょう。」
俺は挨拶を済ませ、祝宴となる。
「ヒロユキ、のんでるか?」
「ええ、多少ですが、あまり酒は強く無いので。」
「うむ、ワシも苦手だな。」
「それより、義昭様はこの場におられないのですか?」
「・・・誘いはしたのだがな、田舎者と飲む酒は無いようだ。」
信長は少し不満そうにいう。
「これはいささか困った御輿ですね、誰を頼るべきかもわからぬとは。」
「ヒロユキは足利義昭をどう思う?」
「よろしく無い御仁かと、苦難を分ける事はあっても栄華を分けることはしないでしょう。」
「御主は見てきたようにいうな。」
俺は史実を知っているのでカンニングの状態ではあるが、人格に変わりは無いだろうと考えていた。
「ヒロユキ様、兄上、飲んでいらっしゃいますか?」
市は俺の横に現れる。
「市、このような場所に来るとは珍しいな。」
信長は驚いたようにいう。
織田にいる頃、市は祝宴に顔を出すことはほとんどなかった。
幼き頃より持ちかけられる縁談に嫌気がさしていた為であったが。
「土御門家ではこれが普通にございますよ。」
市は俺に挨拶に来たあとは織田の家臣達にも酒をついで回っていた。
柴田勝家は涙を流して感動しており、
木下秀吉は末席の自分まで酒をついでもらえると思っていなかったのか、感動で固まっていた。
「ヒロユキの軍が強いわけがわかるな。」
信長は感心するように市を見ていた。
「ええ、家臣を大事にそれこそ家族のように接するのが一番いいことにだと思っております。」
「耳が痛いわ、だが、気に止めておこう。」
俺と信長が話している最中、騒動が起こる。
来ないと思っていた足利義昭が祝宴の場に顔を出したのだ。
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