第108話 祝言

市との祝言の日、

目の前に信長がいた。


信長に出した使者が帰って来たのだが、信長が僅かな供を連れて一緒にやって来た。

本来なら当主たる信長が来ることはないのだが、彼曰く、俺が信長に危害を加えることはないという信頼の元、最大限の礼の為にやって来たとの事だった。


俺達は信長を最大限にもてなしつつ、盛大な祝言を準備する。


「市、綺麗な花嫁姿だな、父もきっと喜んでおるぞ。」

「兄上、市はヒロユキさまの元に嫁いで参ります。

どうか御体にお気をつけてくださいませ。」

兄妹が別れの挨拶を済ませ、市は俺の横に座る。

俺を含め、家臣達もその美しさに目を奪われているようだった。


「市、綺麗だよ。まるで天女のようだ。」

「ヒロユキさま、御世辞を言わないでくださいませ。

恥ずかしくなるではないですか。」

俺が本心を告げると、市は少し赤くなる。


「信長殿、市を幸せにいたします。

織田家と土御門家が共に歩めるよう精進致します。」

「うむ、今後は同盟者としてだけでなく、義兄弟として、天下に挑もうぞ。」

信長も上機嫌で祝言は進んでいった。


「ヒロユキ、これからお前はどう動くのだ?」

信長が話しかけてくる。

「暫くは動けませんね、まずは数年内政に費やすかと。

その後は武田が敵になるか、北条が敵になるかといった所かと。」

「うむ、信玄には上洛を薦めていたようだが、ヒロユキは目指さぬのか?」

「俺自身は1度京には行きたい所ですが、天下を望む気はありません。

出来れば信長がおさめて平和になった後で行きたいですね。」

「楽な道を選びおって、上洛する時は手伝え。」

「なるべく援軍は出しますよ。ただ、その時の状況次第ですね。」

俺と信長は酒を酌み交わしながら、今後について話しあった


祝いの席が終わり、俺と市は二人きりとなる。

「市、良かったのか、俺に嫁いできて。

信長には俺から伝えるから、今ならキズつけずに帰る事も出来るぞ。」


「ヒロユキさまはお優しいのですね。

確かに私にはまだヒロユキさまの事を知りませぬが、私の身を案じてくださる、優しい方ということはわかります。

今はそれで充分にございます。

これからもっと教えてくださいませ。」

「わかった。俺にも市の事を教えてくれ。」


その夜、俺は市と交わり会い一つとなった。

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