第103話 刑場
義信が連れていかれた後、甘利信忠、板垣信憲が連れて来られる。
二人とも命乞いをして、自分は役に立つとアピールをしていたが・・・
「二人とも、切腹を命じる。家は断絶とする。」
俺は厳しい沙汰を出す。
この二人が自己の保身の為、義信に甘いことを囁き、道を誤らせた。
武田の滅亡の一端を担ったのだ、許せる筈はなかった。
そして、義信の妻、松がやってくる。
「貴女には出家してもらいます。」
「何故私が貴方ごときの命令に従わなければならないのですか?
さあ、主人と私に謝るのです。」
松は汚い物を見るように俺を見ている。
「貴女は状況が見えていないのですか?」
「汚らわしい、謀反などを起こしておいて何様のつもりですか!跪いて喋りなさい!」
「・・・」
「重臣の方々も何をしているのですか?
この下賎の者を始末なさい!
まったく、そんな事も言われないと出来ないのですか!」
「はあ、どうやら恩情はいらないらしい。
出家はやめだ。
この者は当時同盟国だった武田に謀略をかけ、此度の状況を作った元凶である。
女性と言うことで出家で済まそうと思っていたが我等の名誉を侮辱する行為に出た。
よって、夫義信と共に打首とする。」
「えっ?何を言っておる?
名門今川の血を受けし私を打首ですと?
皆、この乱心者を斬りなさい!」
しかし、松の言葉に従う者は誰もいない。
「何をしているのですか!早くしなさい!」
松は誰も動かない事に怒り狂うが・・・
「見苦しい、さっさと連れていけ。」
俺の言葉に兵士が松を連れていく。
「離しなさい!誰に触れているのですか!
ちょっと待ちなさい!待てといっておろうに!」
連れていかれる最中もずっと騒いでいた。
刑場では義信、信憲、信忠、松が並べられていた。
まずは切腹の二人から始まる・・・
板垣信憲
「この期に及んでは致し方あるまい、つくづく間違ってしまったか。」
信憲は脇差を持ち、覚悟を決め腹に刺すがあまりに浅かった為に首斬りが躊躇い遅れてしまう。
「いたい、痛いではないか!早くしてくれ!」
その言葉に慌てて首を斬る、しかし、慌てた為か、骨に当たり、斬り落とせない。
「や、やめ・ろ、早く・して・く・れ・・・」
信憲は二度目の太刀で楽になれた。
しかし、その事が周りに恐怖を呼ぶ。
甘利信忠は怯えていた、覚悟は決めたつもりではいたが板垣信憲の死に方を見て恐ろしくなったのだった。
「い、いやだ、止めてくれ。なあ、今一度ヒロユキ殿、いやヒロユキ様にとりなしを頼む。
必ずやお役に立てると!」
しかし、引き摺られていく。
「や、止めてくれ!腹など斬りたくない!」
あまりに無様な姿に、介錯人は無理矢理腹を刺し、その上で首をはねた。
先程の介錯とは違いスムーズに出来たが、残された義信と松には恐怖しか残っていなかった。
松
「や、やめておくれ!私は出家を受け入れます。どうか!御慈悲を!お願いします!」
松は涙を流し、介錯人にすがり付き命乞いを始める。
介錯人も女性はあまり斬りたくない気持ちから今一度ヒロユキに取次をする。
「出家を受け入れると言ったのか?」
「はっ、如何に致しましょう。」
「・・・わかった、出家を認めよう、ただし、我等に危害を加えようと画策した時には迷わず、残虐な手段での処刑を行うと伝えよ。」
「はっ!」
こうして松は命だけは助けられる事になり、無事刑場から連れていかれる。
その表情は憑き物が落ちたかのように穏やかなものになっていた。
しかし、義信からすれば心穏やかなものではない。
「おい、松!私を見捨てるのか!そもそもお前の為に私はヒロユキと争ったのだぞ!」
連れていかれる松に声をかける。
「義信様・・・申し訳ありません、しかし、私は死にたくないのです。
どうか、お許しを・・・」
松は涙を流すが、刑場から早く出たいために足を止める事はなかった。
「待たんか!許せる訳がないだろう!お前も首を斬られろ!!」
義信の言葉に松は振り向く事はなかった。
「義信様、お覚悟を。」
ついに義信の番となる。
声をかけてきたのは馬場信春であった。
「信春!お主か。」
「はい、本来信永様の予定でございましたが、ヒロユキ様が光姫様の今後を考え、信永様に光姫様の親殺しをさせないということになりました。
そして、選ばれたのが私でございます。」
ヒロユキは信永に仇をとらせてやりたかったが、光が信永にしか心を開かない事を見て。
信永に頼み込み、義信を手にかける事をあきらめてもらっていた。
信永も自身の恨みを呑み込みヒロユキに従う。年端のいかないイトコの光が自分にすがり付くのを見て、堪えるしかないと思ったのだ。
「信春、そなたの武田への忠義はよく知っておる。
どうだ、私を逃がしてくれないか?」
「事の発端は我等の争いにございます。
その事が信玄様のお命を縮める事になってしまい、後悔の念がたえません。
最後の幕引きは某の手で行えることを感謝しております。」
「ま、待たんか!私はそなたが敬愛する父信玄の嫡男であるぞ、それを手にかけるのか!」
「義信様、お覚悟を。信玄様の嫡男として最後ぐらいは見苦しくないようお願いします。」
信春は刀を構える。
信春の覚悟を決めた目に義信は自分が助からない事を悟る。
「まて!せめて切腹させてくれ。武士の情けだ!」
最後が刑場で首をはねられたなど屈辱でしかない。
武士の名誉を願い出るが・・・
「お断り致す。義信様はやり過ぎました、信永様の御気持ちを思えば、切腹などさせれませぬ。
さあ、最後の御言葉を。」
「信永もわかってくれる!どうか切腹にさせてくれ。」
「さあ!」
「いやだ!こんな死に方など出来るか!」
義信は縛られていながらも逃げ出そうとする。
「見苦しい!」
信春は刀を振り下ろす。しかし、微妙にかわした為に首が浅く切れただけとなる。
「や、やめてくれ、せめて武田家当主としての名誉ある死を・・・」
信春は無慈悲に刀を振り下ろした。
「信玄様、仇は討ちましたぞ。」
信春は無念にも討たれてしまった。
信玄を思い手を合わせていた。
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