第101話 飯富虎昌!

「何故だ、何故だ集まらん!」

義信は自身が招集をかけたのにも関わらず武将が集まってこない事に苛立ちを感じていた。


「義信さま、小山田様の居城、勝山城が陥落しました。

小山田信茂様は城を枕に討死とのことです。」

そして、急報が入ってくる。

ヒロユキによる武田攻めが開始されたのである。

「今一度諸将に使者を出せ、武田の恩顧を忘れるなと伝えよ!」

義信はもう一度使者を出すが、誰も集まることはなかった。



義信は諸将が集まることをただ待ち続け、無駄な時間を過ごしているうちに躑躅ヶ崎館は囲まれてしまう。

「なんだ、あの数は・・・」

城を二重にも三重にも囲む兵の数に恐怖を感じる、そんな中、諸将の旗が包囲する軍にあることに気付く。


「あやつら、裏切ったのか!!」

義信は激怒する、

義信の中では諸将は源氏の名門武田家に従うべきであり、

何処の馬の骨かもわからぬ、ヒロユキにつくなどあり得ない事であった。


「虎昌、裏切り者を始末せよ!」

義信は怒りに任せて飯富虎昌に命じるが・・・

「義信様、この大軍を相手に突撃したところで誰も討てませぬ、それより、お覚悟を。」

虎昌は義信に切腹をするように言う。

此処にきて、戦える筈はなかった。

躑躅ヶ崎館は籠城にむかない城であり、兵も二千、相手は不可思議な手段で城を落としていくヒロユキが相手だ、どんなに頑張っても持たないと感じていた。


「虎昌、何を言う!何故私が腹を切らねばならん!」

「義信様、既に勝敗はついております。

ここは潔く、腹を召されよ。」

「いやだ!」

その時、ヒロユキの攻撃が始まる。


「来たか・・・義信様、私は防戦に向かいます、時間を稼ぎますのでその間に。」

虎昌は手勢五百を連れ防戦にはいる。



「虎昌殿、降られよ。」

マサムネは虎昌に降伏を促す。

「マサムネ殿、私は時間を稼がねばならぬのです。どうか、義信様が腹を召される時間を貰えませぬか?」

「俺としては聞いてもいいんだが、義信に直接手を下したい者もいる。

その頼みは聞けないな。」

「ならば致し方ありませぬ、私が時間を稼ぐまで!」

虎昌は槍を構える。


「他の者は手を出すなよ!

武田随一の猛将、赤備えの飯富虎昌殿、お相手つかまつろう。」

マサムネも槍を構えた。

マサムネと虎昌の一騎討ちが始まった。


マサムネと虎昌は幾度と互いに槍を繰り出す、時にはかわし、時には受け止め、見るもをの足を止めるぐらいの激戦であった。


「惜しいな、虎昌殿、その力未来に向かって使わないか?」

「私は義信様の傅役、今更見捨てる訳にはいかん。」

「信玄を殺したのにか?」

「・・・道を誤ったのは傅役の責任でもある。」

「そうか、ならば、先に逝って義信を待つがいい!」

次のマサムネの一撃は今までにない鋭さを持っていた。


「お見事・・・」

虎昌は倒れる。

マサムネは軽く手をあわし。

「惜しい男だった、仕える主君が良ければ、天下の名将にもなり得たであろう。」

マサムネはその死を惜しんだ。


義信は虎昌が稼いだ時間の間に腹を・・・

切っていなかった。

義信は板垣信憲、甘利信忠を呼び寄せ、此処にきて逃げる算段をしていた。


「信憲何処逃げれる場所はないか?」

「北条などは如何ですか、義信様の妹御もおられることにございます、きっとお力になられるのでは?」

「うむ、そうだな、よし北条に向かうぞ!」

「我等もお供致します。」

信憲、信忠共に逃げるつもりであった。


「しかし、義信様如何にこの場を切りぬけますか?

既に囲まれておりますし、抜け道も皆が知っておりますぞ。」

「この城には当主と嫡男しか知らない抜け道が有るのだ、其処を使う。」

「なんと!そのような物がございましたか。」

「うむ、家臣が知っておる抜け道はいわば囮よ。」

「流石にございます。武田家の深慮遠謀、我等の及ぶところではございませぬな。」

義信は信憲、信忠と僅かな共を連れて城から離れる。


其処には、義信の近辺を守る者と、今川から嫁いできていた今川義元の娘、松の姿があったが、

足手まといになりそうな自身の娘である、まだ幼い光の姿は無かった。

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