第89話 馬場を迎えいれる
馬場信春が岡崎城に着くと其処にはヒロユキが怪我人の治療を指揮していた。
「ヒロユキ殿、此度の救援感謝致す。」
「これは信春殿、私自身が救援に行けなくて申し訳ない。
速さを重視した次第でございまして、御容赦ください。」
俺は頭を下げる。
「頭を上げてください、ヒロユキ殿のお陰で私も部下も助かったんです、謝罪されることなんてありません。」
「ありがとうございます。
さあ、こちらにどうぞ、休めるように部屋を準備しております。」
「忝ない、ヒロユキ殿に世話になる。」
俺は信春を用意した部屋に案内する。
部屋に入り、信春と二人になったところで信春から話を切り出してきた。
「ヒロユキ殿、私を救ってくれたのは忝ないが、よろしかったのですか?
板垣は筆頭家老、彼と交戦すれば義信様から、反逆者扱いされるのでは?」
「ご安心を、交戦しようがしまいが義信からすれば私は反逆者でしょう。
それなら信春殿を助けた方が何倍もいい。
それより、信春殿はこれからどうなさるか?」
「出来れば信玄様に弁明をしたいのですが、まずは書状を送るつもりです。
そして、暫くは滞在させていただけませんか?
信玄様が引き渡しを求められたら引き渡して貰っても構いませんから。」
「構いませんよ、それに何があっても引き渡したりしません。」
「しかし、それだとヒロユキ殿に御迷惑が・・・」
「大丈夫です。信春殿を義信ごときの諫言で処分するなら武田家に未練はありません。
それに信春殿の書状と一緒に私も書状をつけます。
それでも駄目なら、覚悟しますよ。」
「ヒロユキ殿・・・忝ない。」
信春の目には涙が浮かんでいた。
「まあ、その話は信玄公からの返事があってからでいいでは無いですか。
それより、今宵は祝宴を用意しております。
信春殿の武勇伝をお聞かせください。」
俺は目を輝かせ、信春を見ていた。
今、目の前にいるのは武田四天王の一人、馬場信春、不死身の馬場とも呼ばれる名将だ。
歴史好きとしては、いろいろ聞いてみたい事も沢山ある。
俺の目の輝きに少し引きながらも信春は深い感謝と共に祝宴に参加してくれることになった。
その夜、俺は家臣達を集めて信春の祝宴を開く、そして、信春の家臣達も呼び盛大に開く。
「これは・・・」
信春の息子、昌房は食事を食べて驚きの声を上げる。
「これ、昌房、失礼だぞ!」
信春は昌房が口に合わないせいで声を出したと思い嗜める。
「違います、父上、凄い美味しいのです!」
「何?」
膳にはミユキが開発した醤油を使用した日本料理が並んでいた。
信春も食べてみるがあまりの旨さに言葉が出ない。
「お口に合いましたか?」
信春の元にヒロユキが来る。
「いや、こんなに旨い飯を食べたのは初めてですな。」
ヒロユキが酒をつぐ。
「これが澄み酒か・・・話には聞いていたが透明なのだな。」
「ええ、信玄公にはかなり納めていましたが飲んで無かったのですか?」
「うむ、武士として高い物を食するのはどうかと思っておるので、つい避けていたのだ。」
「それは失礼を。
しかし、この地では澄み酒も高く無いですから、じっくり味わってくださいませ。」
「うむ、しかし、旨い。」
信春は旨い酒を飲み、旨い食事を食べる。
「喜んでいただいて何よりです。」
「しかし、私だけ楽しむのもどうかと思う。
ヒロユキ殿、謝礼は払うから私の部下にも振る舞ってくれないか。」
「謝礼はいりません、既に皆さんにも振る舞ってますから。」
「何と・・・つくづく忝ない。
ヒロユキ殿には頭が上がらないな。」
信春は頭を下げる。
「いえいえ、頭を上げてください。
信春殿のような名将を接待できるのですから、こちらとしては光栄にございます。」
「ヒロユキ殿、この食事はどんな味付けをしているのですか?」
信春と話している所に昌房が口を挟んでくる。
「これ昌房、失礼だぞ!」
「しかし、このような美味しい物を食べたら、帰ってからも食べたくなるでしょう。」
「よろしいですよ、でも、俺は料理に詳しくなくて、妻に聞いてみます。」
俺はミユキを呼ぶ。
「ヒロユキの妻のミユキでございます。
この料理についてですが、この調味料で味付けしているのです。」
ミユキは醤油を見せる。
「これは?」
「私達が開発した調味料にございます。」
昌房は醤油を少し手に取りなめてみる。
「ふむ、なかなか味わい深い・・・」
「ありがとうございます。」
「どうだろう、これを分けてくれないか?」
「これ!昌房、失礼すぎるぞ!」
ミユキは俺を見てくる。
「良いですよ、帰る時にご用意致しますのでお持ちください。」
「ありがたい!」
昌房は喜ぶが信春は頭を抱える。
「すまんな、ヒロユキ殿、ただでさえ迷惑をかけるというのに、息子が失礼をしている。」
「お気になさらず、これ程喜んでいただいて妻も喜んでいますから。」
信春が横にいるミユキを見ると凄く嬉しそうにしているのが目に映った。
しかし、ミユキとしてはお客さんに妻と紹介されて喜んでいるだけであったのだが・・・
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