第88話 馬場襲撃される

馬場信春が軍を引き上げた事は直ぐに武田義信に伝えられる。

「やはりあやつは裏切っておったのだ!

追撃部隊を出せ!」

「お待ちを!信春殿が裏切る筈がございません!」

義信を止めるのは三枝昌貞であった。

昌貞はどうしても信春が裏切るとは考えられなかった。


「お前も裏切っているのか!」

義信に血走った目で見られる。

「そんな筈がございません!」

「ならば、黙っておれ!信憲、五千の兵を任せる裏切り者、馬場信春を斬ってこい!」

義信は板垣信憲に馬場信春の追撃を命じる。

「はっ!直ぐに向かいます!」


信憲は直ぐに追撃に向かった。


一方、追撃されるとは思ってもいなかった信春は今後を思い重い気持ちで岡崎に向かっていた。

安祥城近くまで来た時に後ろから騎馬の軍団が見える。

「あれは、何処の軍だ?」

信春が近習に聞くと、

「味方にございます。武田菱が見えました、あっ、板垣様にございます。」

遠目のきく近習が旗を確認して教えてくる。


「板垣殿か、何か用であろうか?」

信春は足を緩めたその時、馬場隊に板垣が襲いかかる。

「なっ!板垣殿、血迷われたか!」

味方と思い、油断していた馬場隊は混乱に陥る。


「信春様、此処は我等が防ぎますので急ぎ岡崎城に向かってください。」

「お前達・・・すまない!」

信春の部下は決死の覚悟で板垣隊を防ぐ、

その間に岡崎に向かおうとしたが・・・


「双方、戦を止めろ!」

戦場にマサムネの声が響き渡る。

「戦うなら俺が相手だ、次に刀を振るった者が敵となる。いいか、取り敢えず間を開けろ!」

マサムネは岡崎から三千の兵を率いて来ていた。


「倍臣の家臣風情が何をほざく、我等は義信様の命を受け、裏切り者を始末するところだ!

邪魔をするならお前も裏切り者として始末するぞ!」


「それは義信の命で俺達とやり合えと言うことか?」


「なっ、義信様を呼び捨てにするとは!この無礼者めが!馬場と一緒に始末してくれるわ!」


「やれるもんなら、やってみな。行くぞ、馬場殿を救うのだ!」

マサムネは板垣隊に突撃する。


マサムネの武勇の前に板垣隊はなす術もなかった。

板垣信憲は命からがら逃げ出すのがやっとであった。

それもマサムネがわざと見逃しただけだったが・・・


何とか全滅を免れた信春の前にマサムネが馬から降りて、挨拶をする。


「馬場信春殿とお見受けしました。ヒロユキの命により、お救いに参った次第にございます。

どうか岡崎にてごゆるりとなさってください。」


「忝ない、ヒロユキ殿の御厚意に感謝致す。

我が隊は少なくない怪我人が出てしまった。

手当ても頼めぬか?」

「もちろんにございます。応急手当は直ぐに行います。

動ける方は先に岡崎にて手当てを致しましょう。動けぬ方は我等の馬にてお運び致す。

景久!」

「はい、直ぐに!」

前原景久は応急手当を開始する。

そして、終わったものから自分達の馬に乗せ、岡崎に連れていく。


「なんと、馬の背をお借り出来るとは・・・

この御恩、生涯忘れませぬぞ。」

信春は部下の扱いに感謝していた。


普通歩兵の者を馬に乗せたりはしないのだが、マサムネの部下達は誰1人文句を言うこともなく、進んで信春の兵士を馬に乗せていた。

そして、怪我人がいなくなってからは、死んだ部下まで馬に乗せて運んでいた。


「なに、我等は当然の事をしているまでにございます。

それより、岡崎にて手当ての準備と休養がとれる準備が出来ております。

さあ、向かいましょう。」


マサムネは信春を岡崎まで案内して帰城した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る