第87話 責任転換

兵糧を焼かれた武田義信は鳴海城の攻略に力攻めを敢行する。

「今日中に城を落とすぞ!怠ける者は斬っても構わん、突き進むのだ!」

無理な力攻めではあったが、数に物を言わせ、三日で落とすことが出来たが・・・


「義信様!城の兵糧庫に火をかけられました!」

「何!早く消さんか!」

「しかし、まだ我が軍は其処まで届いておりませぬ!」

「急げ!」

城主佐久間信盛は信長の命令により、落城前に兵糧に火をかける。

そして、武田が消火に気をとられた隙に・・・


「撤退だ!退き佐久間の異名が伊達で無いことをみせてやるぞ!」

攻められていた、反対側の壁を壊し、

一気に全軍退却を行う。


「義信様!敵が逃げて行きます、追いますか!」

「そんな事より火を消さんか!」

義信にとっては敵軍の動向より兵糧の方が大事であった。


しかし、懸命な消火活動を行ったが、ほとんど燃え尽きてしまっていた。


途方にくれる義信の元に、馬場信春、飯富虎昌が進言に来る。

「義信様、ご決断を。」


「何がだ・・・」


「ヒロユキ殿に援助を乞うか、此処で撤退するかにございます。」


本来なら武田信玄に援助を乞いたいところだが、今回の侵攻の為に領内の兵糧を絞り出しており、これ以上の援助は望めなかった。

その為、今回、動いていない三河なら余裕があり、ヒロユキに兵糧を頼む事は変な話では無いのだが、義信は自分のプライドからヒロユキに頭を下げる事はしたくなかった。


「な、何を馬鹿な事をいうのだ!此処で撤退してどうする。

私が無能と世間に知らしめるだけでないか!」


「ならば、ヒロユキ殿に頭を下げられませ!彼は気の良い御仁、義信様が謝罪なされば無下にはしない筈、彼との仲直りにはいい機会にございます。」


「ふざけた事を言うな!何故私があやつと仲直りをせねばならぬ!

あやつが地面に頭を擦り付けて頼んで来ても許さぬわ!」


「義信様!」


「おぬし達はこの前からヒロユキ、ヒロユキと!もしや、奴と繋がっておるのか!」


「義信様?」


「いや、私の作戦が上手くいかないのも全てヒロユキが邪魔しているからに違いない・・・

つまり、お前らが情報を漏らしているのだな!」


「義信様、何を言っているのですか?」


「武田の重臣でありながら裏切るとはどういう事だ!」


「義信様、我等が裏切るとは!」


「我等は裏切ってなどおりませぬ!」

「うるさい!お前らの顔など見たくも無いわ!

さっさと出ていけ!

この事は父に報告しておく!覚悟しておくのだな!」

義信は頭に血が登り、ありもしない裏切りを考えつく。

ヒロユキが裏切って妨害していることは義信にとっては当然の事と考えていた。

それなのにヒロユキを信じている馬場信春と飯富虎昌を義信は疑い始める。


信春と虎昌は義信から追い出され、自身の陣に戻りながら・・・

「虎昌殿、私は引き上げようと思う。」

「信春殿、お待ちを。義信様は少々疲れておるのです!」


「部下を信じれない者についていく気にはならん、ましてや守役の虎昌殿すら信じれないような者に武田の当主が勤まるとも思えん。」


「ですが、引き上げて如何になさるのですか?信玄公の怒りを買いますぞ!」


「信玄公には説明の書状をだす。答えが出るまでは三河に滞在させてもらう。」

「信春殿、どうか御再考を!」

「虎昌殿も身の処し方に注意なされよ、義信様は何時虎昌殿を斬ってもおかしく無いですぞ。」

虎昌が引き留めるものの、信春は手勢千を連れて軍を離れた。

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