第86話 兵糧焼失の裏側
水野信元
「武田の御曹司は愚かな者よ、降ったばかりの者を信用するとは・・・
木下殿に伝えよ、今回の輸送隊は囮である。手出し無用だと。」
囮がばれていたのは水野信元が逐一知らせていたからであった。
そして、大規模な輸送の際には秀吉傘下の兵を潜り込ませ、武田軍の兵糧を焼くことに成功する。
「くくく、信長様の作戦はお見事ですな、笑いが止まらん。」
信元は上手く行きすぎて怖いぐらいであった。
これでこの戦の功績は一番だろう。
信元は戦後得れる物を妄想し始めていた。
そして、木下秀吉も戦後に想いを馳せる、武田軍の輸送を止め、兵糧を焼いたのだ、農民上がりの俺でも 出世の糸口になる。
「秀吉、行き掛けの駄賃に岡崎の町も襲わないか?」
秀吉の部下として来ていた蜂須賀小六が提案してくる。
「小六、それは信長様にきつく禁止されているだろ?」
「わかりゃしないよ、ちょっと行って、パッと盗って逃げりゃいいんだからな。
どうせ、次の作戦まで時間があるんだろ?」
「まあ、そうだが・・・」
「なら決まりだな。岡崎は栄えていると聞くからな、一儲け出来るぞ。」
小六はウキウキしながら部下に指示を飛ばすが・・・
その瞬間、小六の首が落ちる。
「なっ!」
秀吉は腰が抜ける、さっきまで話していた小六の首が急に落ちたのだ、恐怖で座り込んでしまう。
「何処をどうするというのだ?」
暗闇から声が聞こえてくる。
「だ、だれだ・・・」
「土御門軍の服部と言えばわかるか?」
「・・・岡崎、いや三河を守っている軍で、伊賀者を纏めている・・・」
「それならばわかるであろう。岡崎を襲う輩を見逃す訳にはいかん。」
「ま、待ってください!岡崎を襲うと言ったのは小六だけでおいらはそんな気なんてないんです。
信長様からも禁止されてますので、絶対に行きません!」
「ほう、ならば岡崎には近付かん事だな、織田とやり合う気は今はないが、かといって、織田がやりたいなら何時でも相手になってやろう。」
声が遠ざかっていく。
秀吉は安堵したが立ち上がるまでには時間が必要だった。
その頃、俺は三河にいる商人を使い尾張、伊勢、美濃の兵糧を買い漁っていた。
織田が兵糧攻めをしてくるとわかってからは、戦後、敗残兵達に食べさせる分を集めていた。
まあ、もしかしたら、頭を下げて援助を求めて来るかも知れないからな。
そんな中、兵糧の海上輸送を依頼した縁から九鬼嘉隆と知り合う事になる。
彼は歴史上名高い九鬼水軍の頭領になる男だが、彼はこの時、城を追われ、船仕事で食い繋いでいる状態であった。
だから俺は彼を専属で雇う提案をする。
「九鬼殿、俺の元で再起をはからないか?」
「土御門様、それはどういう事でございましょう。」
「なに、九鬼殿の腕を見込んで水軍を作って貰いたい。その為の港と城、そして、船を用意しよう。」
「好条件ではございますが、土御門様の利益は?」
「もちろん、売上の一部と俺の海上での作戦に従って貰いたい。」
「それは当然にございますが、その程度でよろしいのですか?」
「その程度と言うが九鬼殿の腕を考えれば安いと思っているよ。
何せ九鬼殿には日本一の水軍頭領になって貰うのだからね。」
「日本一の水軍頭領ですか?」
「そうだ、だがそれだけではないぞ、ゆくゆくは南蛮船のように世界に出て貰うからな。」
「・・・これはいい、俺達も大法螺吹きだが、土御門様は俺達以上だ!」
「大法螺じゃないぞ、九鬼殿にはそれを目指して貰うだけだ、
為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の、為さぬなりけり、
って言うからな。」
「為せば成る・・・」
どうやら上杉鷹山の言葉は九鬼嘉隆の心に響いたようだ。
「そうだ、どうだ受け入れてくれないか?」
「わかりました、流浪の俺達をそこまで買っていただいたのです。
この身尽きるまでお仕えいたします。」
「そうか!それなら直ぐに港と城を用意しないとな、少しだけ待ってくれよ。
いや、九鬼殿、いや水軍衆のみんなも一緒に考えてくれ、港も城も九鬼殿達が使いやすくないといけないからな。
さあ、城に入って一緒に考えよう。」
「よろしいのですか?」
「何がだ?」
「いや、海賊の俺達が城に入って・・・」
「何を言うか、俺に仕えてくれるんだろ?
それなら仲間じゃないか、気兼ねなく入ってくれ。
あと、俺の事はヒロユキと呼んでくれよ。
土御門なんて他人行儀な呼び方は止めてくれ。」
「はい、わかりました。それならば私の事も嘉隆とお呼びください。」
「わかった、嘉隆これから頼むぞ!」
「はっ!」
俺は思わぬ縁で九鬼嘉隆を仲間にする事が出来た。
これにより、海上輸送が更にスムーズになり、吉田の地に兵糧が余る程たまる事となった。
そして、嘉隆の為に渥美半島の先端にローマンコンクリートを使用した海城と港を作る事となる。
ただ渥美半島の目の前には九鬼の旧領志摩がある故に、城を作りつつ。
嘉隆には知り合いの海賊達を集めてもらい、戦力の増強をはかってもらっていた。
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