第82話 織田信広
「本当に陣を設営していないのか?」
安祥城の城主織田信広は偵察に出たものを問いただしていた。
「はっ、何故かまではわかりませぬが、警戒も少なく、近くまで偵察する事が出来ました。
柵もなく、備えもほとんどしてないようにございます。」
「信じられん・・・何故・・・罠か?」
信広は考えるが答えは出ない。
「考えても仕方ない!夜襲の準備を致せ、丑の刻に夜襲を行う。」
「はっ!」
信広は夜襲を敢行する。
「音を立てるな、いいか、兵糧を焼くのだ、無理に攻めるなよ、ある程度被害をあたえたら撤退する。遅れるな!いくぞ、かかれ!」
信広の夜襲に備えのない武田軍は大混乱を起こす。
「行け!なるべく被害を出してやれ!」
信広は辺りに火をつけながら、二時間ほど暴れまくった。
「そろそろ良いだろう!撤退だ!撤退するぞ、遅れるな!」
信広は風のように去っていく。
引き際まで見事であった。
夜襲の報告を受けた義信は本陣の守りを固めただけで有効な手をうてていなかった。
せめて、本陣に集まった兵を率いて、信広と対峙すれば戦況は変わったのだが、自分の身を案じて、動かなかった。
その為、被害が増し、ろくに戦う前に兵が二万八千と減らしており、兵糧も二割を焼かれてしまった。
「おのれ、信広め!」
義信は怒りのあまり指揮棒を地面に叩きつける。
「よいか、信広の首に金百をつける、必ずや討ち取れ!」
翌日から武田の猛攻が始まる、夜襲の失敗を生かし、陣の設営は別部隊がおこなっていた。
武田の猛攻に信広は二週間耐え続けていた。
「信広様、もう、城は限界にございます。
そろそろお覚悟を・・・」
「ならぬ、最後の一兵になるまで守り抜くのだ。
此処で粘れば粘るほど尾張に残した家族の命が助かることになる。
皆の命を俺にくれ!」
信広の覚悟に士気が上がるが、既に形勢はついていた。
「もはや、これまでか・・・最後の突撃を行う、死での共をするものは我に続け!」
信広率いる残兵百は最後の突撃を敢行した、一兵に至るまで見事な最後を遂げたが信広のみ生かされ捕縛される。
信広が本陣に連れてこられる。
その戦い振りに飯富虎昌や馬場信春などの名将と呼ばれるもの達は感心しており、無体な扱いをするべきでないと義信に進言していたが・・・
「貴様が信広か!よくも我が軍に被害を出してくれたな!」
「ふん、武田の小倅が。大軍率いてお山の大将か?
未熟な将に率いられる兵士が可哀想で仕方ないわ!」
「貴様!よくぞほざいたな!この者をノコビキの刑に処せ!」
義信の言葉に虎昌は反対を述べる。
「この者は誠の武士です、どうか名誉の死をお与えになるように。」
「うるさい!こやつのせいで多くの者が討たれたのだぞ。」
義信は頭に血が上り、周囲の声を聞いていなかった。
「ははは、このような者に仕えねばならぬ、武田の者も不幸であるな。同情致す。」
信広は煽るように義信を馬鹿にする。
「よくぞほざいた!不愉快だ!良いかこの者を楽に殺すな、痛めぬいた後に刑に処せ!さっさと連れていけ!」
兵士は信広を連れて外に出ていく。
「くそっ!なんだアイツは!」
義信は不機嫌に椅子を蹴る。
「落ち着きくだされ、ともあれ城は落としたのですから、まずはゆるりとなさったらよろしいのでは。
あのような下賎の輩には義信様の偉大さなど理解が出来ないのです。」
不機嫌な義信を宥めるように板垣信憲が告げると、多少、機嫌が戻った義信は城に入城する。
その姿に飯富虎昌、馬場信春、三枝昌貞等は顔をしかめることとなった。
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