第81話 織田に向かう・・・前に
秋がきた、普通なら収穫を喜ぶ声で満ち溢れる所だが三河領内は警戒状態だった。
尾張侵攻軍が通る街道には警備兵が見張り、住人達はこぞって城に避難していた。
ヒロユキが侵攻軍の略奪を恐れての事だった。
その頃、武田義信は意気揚々と進軍していた。
甲斐から八千、駿河から一万、遠江から一万四千の総勢三万二千の大軍勢であった。
しかし、その実は無理矢理出陣に駆り出された者が多く、特に支配下に成り立ての駿河、遠江の人からすると不満でしかなかった。
そして、浜名湖に船橋をかけ、新居に着くと、武田軍の諸将は冷や汗をかく。
義信とヒロユキの不仲は既に有名であり、実際いつ裏切ってもおかしくないと考える者が多かった。
そんな中で、ヒロユキが建てたであろう、見慣れぬ城、街道を挟むようにそそりたつ壁の間を通る事に恐怖を覚える。
実際、自分が攻めるなら・・・
考えてみるが、直角に十メートルの高さがある壁を越える方法が思い付かない、壁を触ってみても材質がわからない。
人はわからない物に恐怖するのである。
新居の城を越えた時には多くの者が疲労していた。
「義信様、皆が疲れております。今宵は吉田にて休みましょうぞ。」
義信に飯富虎昌が進言するが、
「吉田でなんぞで休んでおったら寝首をかかれるわ!疲労しているなら野営の陣を張れ!」
義信は吉田郊外に野営するように命じる。
町も近いのに野営・・・兵の士気は下がる。
そして、兵の中には近隣の町に略奪に向かう者もいたが・・・
とある兵士の会話。
「どうした?お前らもう帰ったのか?」
略奪に行った奴の一人が帰ってきた。
「や、やばい、この地は何かおかしい!」
「どうしたんだよ?」
よく見ると帰ってきた兵士は震えていた。
「く、熊だ、熊が町の中を徘徊している。」
ヒロユキは夜出歩く者を全て始末するように熊と狼に命じていた。
そして、住人達には絶対に出歩かない事、
そして、正規に国境で手続きをしたものには事情を説明して、夜間の徘徊を禁じていた。
それは各将達にも伝えられており、略奪するなら始末するとハッキリ宣言していた。
ただ、各将は実際に取り締まれないだろうとタカをくくっており、放置していたのだが・・・
初日に多くの兵士が熊と狼の餌となる。
この事は翌日には広まっており、何故知らせなかったのかと各将に対しての不信感が増す。
そして、三河領内での休息が心休まるものではなかった。
その為に逃亡兵が出だし、織田と対峙する前に三万と数を減らしていた。
そして、その状況にも関わらず、軍は織田の最初の城、安祥城に来ていた。
「さっさと落として尾張に向かうぞ!」
義信の言葉に陣を設営する事も無く、攻撃が開始される。
しかし、兵士の疲労は溜まりきっており、動きが悪い、そして、士気も低いことから、その日に落とす事は出来ず、陣を設営しなかった為に、その夜はろくな防備の無いまま、宿営となった。
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