第38話 信綱とマサムネ

「貴様が大将か・・・」

上泉信綱が飯田から一緒に来た兵を斬り伏せて俺の前に立っている。

流石に多少の疲労は見えるがろくなケガも負わずにヒロユキの前に現れていた。


「来たか・・・流石ですね。」

「ほう、ワシを知っているのか?よかろう御主の名は?」

「土御門ヒロユキ、この軍の大将をしているよ。」

「うむ、ワシは上泉信綱、冥土の土産に覚えておくとよい。」

「・・・見逃してもらえるなんてないよね。」

俺は一応聞いてみた、この状況で逃げれる別けもなかった。


「ないな、大将なら潔く覚悟なされよ。」

信綱に気力が満ちてきていた。


「仕方ないか・・・ごめん、マサムネ、ミユキさん、ユメちゃん俺は此処までみたいだ。」

俺は自分の最後を覚悟し、両手を合わせ、みんなに謝る。


「一太刀で楽にしてやろう。」

信綱が俺に刀を振り下ろす瞬間!


マサムネの投げた槍が信綱に向かい飛んでくる。

「ぬっ!」

信綱は槍をかわす為に距離を開けた、その間にマサムネが俺と信綱の間に立つ。


「ヒロユキ、お前はさっさと逃げろよ。」

マサムネは笑顔で俺に話しかける。

「マサムネ!助かったよ!あれ?」

俺は安堵から腰が抜ける。


「くくく、これが本当の腰抜けだな。」

「笑うなよ!」

俺達が話していると信綱がマサムネと対峙する。


「貴殿がマサムネか?そなたの武勇は聞き及んでおる。いざ尋常に!」

信綱が刀を構えた。


「いいぞ、俺の親友に死を覚悟させたんだ!その落とし前をつけさせてもらう!」

マサムネも刀を構えた。


・・・両者、構えたまま、動かなくなる。

だが、よく見るとマサムネも信綱も汗が吹き出していた。

どうやら、俺のわからない世界で二人はやりあっているようだ。


二人の膠着もふとした切っ掛けで壊れる。

最初に突撃した猪の1部が戻って来て、信綱に向かい突進してきた。


「邪魔だ!」

信綱は自身に当たりそうな猪だけを斬っていく。

しかし、それは間違いであった。


マサムネはその隙を見逃さない。猪を飛び越え、上段から斬りかかる。

体勢の崩れていた信綱はそれを受け止めるがマサムネの力は尋常ではなかった。

「こ、これは!」

受けた信綱を刀を力ずくで押し込んでいく。

単純な力比べだとマサムネに軍配が上がる。

しかし、流石は信綱、押し切られる手前で身を引き、最悪の事態は避けたが、右肩から腹にかけて、浅くないキズを負っていた。


「ちっ!仕留め損なったか。」

「や、やりおるな!しかし、今度は此方から参る!」

信綱は深手を負った今長期戦は無理と判断して一転攻め始めた。

マサムネに攻める暇を与えず打ち込んでいく。

そのあまりの太刀筋にマサムネの体にもキズを作っていく。


「マサムネ!」

俺が心配して叫んだ瞬間!

信綱が狙いすましたかのような上段斬りでマサムネの頭を狙う。

どうやら意識が此方に逸れた瞬間を狙ったようだ。

俺は声をかけてしまった、自分の浅はかさを呪ったが・・・


「うおぉぉぉぉ!!」

マサムネは刀を受け止めつつも横蹴りを繰り出し、信綱を吹き飛ばした。

どうやら信綱は蹴りを想定していなかったようでまともにくらっていた。


信綱は地面に転がり、顔を上げた瞬間!

距離を詰めたマサムネの刀が信綱の首をはねた。


「上泉信綱、討ち取ったり!!!」

マサムネの声が戦場に響き渡る。

各所で戦っていた者達は上泉信綱の討死を聞き、戦意を失い逃走、降伏を始める。


これにより、長野との初戦は勝利することが出来た。

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