第39話 長野降伏
マサムネが信綱と戦っている間に守綱は追撃戦を開始していた。
本隊の長野業正が撤退を始めていたからだ。
逃げる業正を追い箕輪城に迫る、長野軍は門を閉めようとするが、既に正成の手の者が門を閉めれないように破壊していた為に籠城も出来ず、あっさり陥落する。
そんな中、意識を失っていた。長野業正が目を覚ましたのは夜になってからであった。
「ここは・・・」
「父上、目を覚まされたか!」
「業盛か、戦はどうなった・・・」
「申し訳ございません、見事に敗北致しました。」
業盛は涙を流し、悔しがる。
「なに、箕輪に籠り上杉の援軍を待とう・・・」
「・・・無理にございます、既に箕輪と我等も敵の手の内にございます。」
「なに!どういう事だ!」
業盛は城の陥落の経緯を話した。
籠城も出来ず、自害も出来なかった。
業正の目から涙が出た。
「失礼、業正殿が目を覚ましたと聞いて参りました。」
そこに訪れたのは守綱を連れたヒロユキだった。
「貴殿が敵将か?」
「ええ、武田信繁が配下、土御門ヒロユキにございます。」
「我等を生かして如何する?」
「出来れば降伏してもらいたいのですか?」
「すると思うか?」
「業正殿、あなたは何の為に戦ってきたのですか?」
「何だと・・・?」
「領民の為、家族の為、家名の為ではないのですか?」
「・・・」
「上杉を見てください、関東から多くの人間を奴隷として連れて行きました。これが業正殿のしたかった事なのですか!」
「・・・いや、ワシは領民の為に・・・」
「我等、武田の関東での人気はご存知か?何故上杉が指示されないのかは言わずとも解るでしょう。」
「それは・・・」
「此度我等は北条の要請の為に関東に参っております。落とした城も全て北条の支配下になる予定にございます。
そして、北条は民の為の政治を行っております。
我等はその心にうたれ、北条の味方をしておるのです。
他国の我等ですら上杉のあまりの非道に思う所があるのに、当事者たる業正殿は何も感じることがないのか!」
業正にしても奴隷として連れていかれる人々に思う所があった、そして、それを見るしかなかった自分の不甲斐なさも感じていた。
「業正殿、あなたには三つの道がございます。
1つは我等に降らず、このまま長野家ごと断絶する道、
2つは北条に降り、上野を守り、上杉と戦う道、
3つら武田に降り、上野を出て天下の為に戦う道です。」
「1と2は解るが3の天下の為とは?」
「我等武田は上洛を目指します。これは一時的な話ではありません、京を手にするのです。」
「なんと!」
「今、戦乱が続くのは京が混乱しているからです。この長きに渡る戦乱の世を鎮めるには武力を持って天下を制し、治世をもって天下を治めるのです。」
「武田にそれが出来ると?」
「確かに信玄公は英傑ですが、何より我等がやるのです。
信玄公には後ろから我等のケツを眺めてもらいましょう。
そして、天下人にした暁には笑い飛ばしてしまいましょう。
まあ、敵対する気も反逆する気もないですが笑うぐらいはいいでしょう。」
「くくく、面白い、面白いが無念でもある。」
「父上?」
「業盛、ヒロユキ殿に降れ、以後はヒロユキ殿の家臣として仕えるのだ。」
「武田ではなくヒロユキ殿にですか?」
「そうだ、武田になど仕えてやるか!しかし、無念だ、ワシがもっと若ければワシが一緒にいった所を・・・よいか業盛、ヒロユキ殿の傍でワシの代わりに天下を見るのだ。よいな。」
「はい、しかと!」
「うむ、ならば思い残す事はないな、ヒロユキ殿、息子を宜しく頼みます。」
「父上!!」
まるで遺言のような言葉に今すぐに死んでしまうかに感じた業盛は叫んでしまう。
「まだ、死なんわ!夜も遅い、寝かしてくれ。明日からは忙しくなるのだからな、業盛も早く寝ろ!」
業正の言葉に業盛と共に部屋を後にした。
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