第9話 赴任
俺は信繁の領地、飯田に向かっている。
「いきなり城主代理とは出世だな。」
マサムネはからかってくるが・・・
「責任が重いよ。しかも飯田なんて重要拠点じゃないか。」
「そうなのか?」
「飯田は美濃にも、三河、遠江にも出れるからね、今は敵はいないけど、打って出るなら重要だよ。」
「そうか、なら早めに開発しないとな。」
「うっ!胃が痛くなってきた・・・」
俺は先が思いやられていた。
「お兄ちゃん大丈夫?」
俺の馬の前に座らせていたユメが聞いてくる。
それを羨ましそうに籠の中からミユキが見ていた。
「ユメちゃん、大丈夫だから。それより、馬に長時間乗ってるけど疲れてない?」
「うん、大丈夫。おにいちゃん、と一緒だし、楽しいよ。」
「そうかい。ならいいんだけど。」
「ユメちゃん、お姉ちゃんと一緒に籠に乗りましょ?」
「ううん、馬がいいよ。おにいちゃんと一緒だし。」
ミユキとユメは笑顔でお互いを牽制していた。
「二人とも、もう到着だよ。」
目的地である飯田城が見えてきていた。
「あなたが信繁さまの家臣、ヒロユキ殿であるか?」
「はい、私がヒロユキですが、あなたは?」
「失礼、私は秋山虎繁、今日までこの飯田を管理していた者です。」
俺は歴史に名を残している秋山虎繁に会えて少し興奮していた。
「あなたが!御高名聞き及んでおります。今まで御苦労様にございます。」
秋山は少し照れながら、
「高名などとは・・・私は若輩の身、まだまだにございます。」
「謙遜をなされますな、あなたさまの活躍が武田家の飛躍に繋がるのです。
今後も宜しくお頼み申す。」
「もちろん粉骨砕身努力する所存であります。ヒロユキ殿、話はそれぐらいにして中へ、道中大変でしたでしょう。ささやかながら酒宴の準備をしております。
どうぞ中へ。」
「これは忝ない、旅の疲れを癒さしてもらいます。」
俺達は案内され城の中に入る。
酒宴の場にて、
「ヒロユキ殿、飲んでますかな?」
「虎繁殿、飲んでますよ、おっと、虎繁殿、まずは一献。」
俺は秋山に酒をつぐ。
「おっと、忝ない。して、ヒロユキ殿は今後如何に飯田を治めるのですかな?
おっと、返杯を。」
秋山に酒をそそがれながら、俺は話をする。
「そうですね、町をみてからというのもありますが・・・基本的には町を豊かにして兵を鍛えるといった所ですね。」
「ほう、口にするのは容易いですが、何かお考えが?」
「ええ、思い付く物も幾つかございます。それをやってみようと。」
「それは如何に?」
「そうですね・・・まずは酒を旨くしましょうか。他にない旨い酒は高く売れるでしょう。」
「何?酒を旨くですと?」
「ええ、楽しみにしててください。完成したら送りますよ。」
「ほう、それは楽しみだ。ワシはこの後、高遠に所属することになっておるので、出来たら送ってくれんか?」
「わかりました。待っててください。」
俺は秋山に軽く約束した。
酒宴の翌日、秋山は高遠に向かって行った。
そして、俺は・・・
「気持ち悪い・・・」
初めての酒に負けていた。
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