第8話 恩賞

甲斐に着いた俺は信玄と面会していた。

「面をあげよ。これが約束していた恩賞である。」

拳ぐらいの大きさの袋に入った砂金を渡される。

「ありがたき幸せ。」

俺は深々頭を下げる。


そして、面会は終わった。

思ったより呆気ないもので仕官の話も無かった。



「ヒロユキ殿!」

俺が城を出ようとすると信繁がやって来た。

「これは信繁さま。」

俺は頭を下げる。


「いや、下げなくていいよ。それより、顔も合わせずに出ていくのは寂しいじゃないか。」

信繁とは甲斐に来る道中、いろいろ話す機会がありかなり打ち解けていた。


「いえ、恩賞も頂きましたので、これでお別れなのかと。」


「それは兄上がくれた恩賞だけだからね、私からも礼があるんだよ。ちょっと来てくれるかな?」

「はい、わかりました。」

俺は信繁に連れられ再度城の中に、


「ヒロユキ殿、今回私を助けてくれたお礼に私の重臣にならないかい?」

信繁から突拍子のない提案をされる。


「重臣?」

「うん、今回の戦で私の重臣はいなくなったし、君には筆頭家老を任してもいいと思っているんだ。」

「いや、筆頭家老って、身分が高すぎませんか?」


「いや、陪臣になるしね、肩書きは立派だけど、それだけだよ。

それに私は今まで領地を持たなかったからね、着いてきてくれる人はあまりいなかったんだ。」

「しかし、余所者の素性もわからない者を重臣に据えて宜しいのですか?」


「命の恩人の素性がわからなくても関係ないよ、信じれる事に変わりはないからね。」


「・・・わかりました、お引き受けします。」

「ありがとう!

領地の事は全部任せるからよろしく頼むよ。」

信繁の言葉に耳を疑う。


「うん?領地?」

「そうだよ、今回の事を兄上が重くとらえてね、自前の家臣と兵を持てとの事でね。領地を与えられたんだ、それならと兄上に許可を貰って、ヒロユキを召し抱える事にしたんだ。」


「えっ、じゃあ、俺がやることは?」

「領地の運営をお願いするね。」

「えーーー!!」

俺は驚きを隠せなかった。


「信繁殿、それは些か厳しいかと、私は領地の経営などしたこと有りませんが。」


「ヒロユキ殿は色々な知識を持っているようだからね、それを領地にいかして欲しい。

責任は私がとるから君の好きなようにしてくれ。」


「宜しいのですか?成功するとは限りませんよ。」


「構わない、少しでも武田が豊かになる道が有るなら試してみたいんだ。」


「わかりました、微力ながら尽くさせてもらいます。これよりは殿と呼ばさせてもらいます。」

俺は改めて頭を下げ、信繁の家臣となることになった。

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