第5話 戸隠の里
「ようこそお越しくださいました、里の長、出浦種清と申します。」
里に着くと長たる種清さんが出迎えてくれた。
そして、自己紹介を行い、事情を説明する。
「神隠しですか・・・」
「はい、そして、俺達は未来から来ました。」
俺は種清さんに全てを話す。
「未来?」
「そして、あなた方が役巫女と呼ぶユメちゃんはあなたの子孫に当たるそうです。」
「なんと!」
「この護符も母親から一族の証として渡されたそうですが、出浦の家に伝わる物では無いのですか?」
「あなた方が未来から来たのなら、先の未来には手にするのかも知れんが少なくとも今の我等は持っておらぬ。」
「そうですか、何かわかればとも思ったのですが。」
「力になれずにすまん。その代わりと言っては何だが、好きなだけ里にいてくれかまわない。家も用意いたそう。」
「ありがとうございます。」
種清との挨拶も終え、与えられた部屋に戻り、みんなと話す。
「取りあえず、一息つけたけど、これからどうする?」
俺の質問にミユキが答える。
「どういうこと?」
「ここで暮らして生涯を終える、出浦家は戦国時代を乗り切ってるから、選択を間違えなければ死ぬことは無いと思うよ。
あとは何処かに仕官して、立身出世を狙う。
この里を中心に飛ばされた事を調べるとかもあるけど、戸隠の人にそれを依頼する対価がないんだよね。」
タエさんが不思議そうに聞いてくる。
「対価?頼んだら調べてくれるんじゃ?」
「それは頼りすぎですよ、あまり簡単にわかることなら教えてくれると思いますが、長期間の調べ事を無償でとかになるといずれ不満がたまってどうなることか・・・」
ミユキも提案してくる・・・
「ならこの里に貢献して豊かにしてから調べるとか?ほら、私達未来の知識もあるんだし・・・」
「俺達高校生の知識がどれぐらい使えると思う?たぶん1番適応出来るのは力自慢のマサムネだよ。俺も歴史には少し自信があるけどそれでも行動したら変わるしね。あとサブロウさん、失礼ですがご職業は?」
「農家をやってたぞ、じゃが、農薬を使うやり方じゃからのう。この時代に合うかと言われれば苦しいか・・・」
「ヒロユキ、それじゃあ、どうするんだ?」
「だから相談なんだ。俺達はたまたま居合わせた関係に過ぎない、まあ、マサムネとミユキさんは違うけど、でも、この時代の行動は自分の命がかかってるからね。自分で自分の生きる道を選んで欲しいと思う。」
「ヒロユキはどうするつもりだ?」
「仕官の道を探そうと思う。立身出世は漢の夢というのもあるけど、手に入る情報は身分が高い方が多いと思うからね。」
「じゃあ、俺はお前と共に行くよ。親友として支えてやる。」
「ありがとうマサムネ、まあ、お前はそう言うと思ったけどな。」
「ヒロユキくんが行くなら私も着いて行くよ。」
「ミユキさん、俺達が向かうのも安全じゃないんだけどいいの?」
ミユキは俺の手を握りしめ、上目遣いで、
「うん、私はヒロユキくんと一緒にいたいの。」
俺はドキッとするが、
『同じ学校の知り合いと一緒にいたいだけだ、勘違いするんじゃない!』
と思い、深呼吸して落ち着かせる。
俺が動揺している時、
マサムネとミユキは小さい声で話し合う。
「マサムネくん、今のよくなかった?」
「あー普通ならいいんだけどね、アイツ鈍感だから・・・」
「今のでもダメなの!」
「たぶんね、ほらアイツの顔見てよ、動揺はしてるけど、好かれてるなんて考えてもないよ。」
「えー」
俺が心を落ち着かせていると、ユメが袖を引っ張ってくる。
「お兄ちゃん、私はどうしたらいいと思う?」
「ユメちゃんは俺と一緒にくる方がいいと思うよ。」
意外そうにミユキが聞いてくる。
「ユメちゃんこそ戸隠の里に残った方が保護されるんじゃないの?」
「いや、逆だよ。保護はされるけど、武田と上杉で取り合いになるかも。」
「えっ?」
「どうも、この護符の影響は大きそうだからね、川中島の戦いが終わったら、どちらかがこの戸隠の里に攻めてきそうだ。」
「そんな・・・」
「だから、戦いが終わる前に離れないと行けないんだ。」
「じゃあ、なんでこの里に来たの?」
「護符についての情報と長距離移動の準備かな?路銀もない今のままだとどこにも行けないしね。」
「でも、対価はどうするの?」
「それは出世払いと言いたいけど・・・種清さん聞いているんでしょ?」
俺は庭に向かい声をかける。
「・・・よくわかったな。」
「怪しい俺達を見張るのは当然だし、種清さんも情報を得ようとしてたんでしょ?」
「その通りだが、ククッ、どうやら、ワシの動きは読まれていたようだな。」
「まあ、これぐらいはね、それで相談なんですが。」
「巫女さまと一緒に何処に行こうと言うんだ?」
「尾張を目指そうと思います。」
「何故尾張なんだ?」
「織田家が今後伸びてくるからですよ。それに出世の機会も多いですからね。」
「それは未来の知識というやつか?」
「そうですね。」
「武田では駄目なのか?ワシラは真田を通して武田につこうかと検討しているのだが・・・」
「武田は・・・今はいいのですが、長い目で見ると少々厳しいのと、諏訪御寮人の話は知ってますか?」
「ああ、知っておる。」
「ユメちゃんがそうなる可能性もありますからね。信玄公は些か近寄るのは危険かと。」
「ぬぅ。」
「勿論、種清さんが仕えるのは問題ないと思います。ただ、巫女を抱えている俺達がいたら戸隠の里にも迷惑がかかるかと。」
「巫女を差し出すわけにも行かんしな。よし、お主の話はわかった。路銀と旅準備は任しておけ。それまでは体を休めて旅に備えるのだぞ。」
種清さんは闇に消えていく。
「忍者すげぇー!」
「マサムネ興奮しすぎ。」
「お兄ちゃん、よかったの?」
「ユメちゃん、旅はキツいかもしれないけどいい?なんなら残るって決断もあるよ。武田に嫁に行くのを我慢出来るならお姫様扱いされると思うけど。」
「やだ!!お兄ちゃんといる!」
「わかった。じゃあ、一緒に行こう。」
「うん。」
ユメちゃんは俺にしがみついて、しばらく離れなかった。
「海野さんはどうしますか?」
「ワシラはここで畑をやらしてもらうよ。時代が違ってもここは故郷なんだ。ワシラはここから君たちの無事を祈らせてもらうよ。」
「そうですか、後で種清さんにも頼んでおきます。どうか身体にお気をつけて。」
「まだ、すぐに別れるわけでもないのに気がはやいのぅ。君達こそ気をつけてな。戦国時代いつ死ぬかわからん世界じゃからの。無理はせんようにな。」
「はい。」
それから三日後、
俺達は出立となる。
「種清さん、お世話になりました。」
「うむ、気をつけての。」
「はい。みんな行こうか。」
「その前にだ、青海、伊佐挨拶をいたせ!」
「某は三好青海入道、巫女さまの警護を仰せつかった。」
「某は三好伊佐入道、旅の案内を頼まれておる。」
「「以後よろしゅう頼みもうす。」」
「彼らは?」
「紹介の通り貴殿たちの護衛だ、護衛もつけず巫女を送り出したとあれば、他の修験者達に顔向け出来んからな。連れていってくれ。」
「いいのですか?」
「かまわん、こちらこそ頼む。あとワシの倅も連れていってくれ。世間を知るのにいい機会だ、盛清挨拶致せ。」
「はっ、某は、出浦盛清と申します。この度巫女さまの手となり足となり奉公致す所存にて、どうか旅の同行をお許しくださいませ。」
「お、お兄ちゃん・・・」
ユメは不安そうに俺の手を握る。
「ユメちゃん、彼らに旅のお供を許してあげて、僕たちには助けが必要だからね。」
「うん、わかった。皆さん一緒に旅をしましょう。道中よろしくお願いします。」
「はっ!この命に代えましても!」
「ユメちゃん、よく言えたね。」
俺はユメの頭を撫でる。
「えへへ♪」
「種清さん、いろいろお世話になりました。この御恩はいつか必ずお返しします。」
「そのような事より巫女を頼む」
「はい、必ずや。」
「うむ、盛清、青海、伊佐、道中頼むぞ。」
「はっ!」
俺達は尾張に向かい出立した。
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