第2話 バラバラに

バスから見える景色に何となく言葉を出した。

「知らない草原だぁ。」


律儀にマサムネは突っ込みをくれる。

「それを言うなら知らない天井だ、まあ、違うけど!」


ツッコミをくれたマサムネを放置して、状況把握のためにまず運転手に話を聞いてみる。


「それより、ここは?運転手さん、ここ何処ですか?」

「・・・わからない。私はいつも通りに走っていたんだ。そしたら前に霧が出てきて、気がついたらここに。」

「道間違えたんじゃないの?」

「こんな舗装されてない道路なんかこの辺にない。一体どうなっているんだ?」

混乱して固まっている運転手をおいて、俺達を含めた乗客達は一度外に出る。


俺は他の乗客達を見た。

1組の老夫婦と5人組の高校生の男子、三人の会社員の男性、三十路前後ぐらいの女性に10歳ぐらいの小学生の女の子が1人。


「ここは何処なんだ、取引に間に合わなくなるじゃないか!」

「携帯が使えない!くそっ、会社に連絡しないと!」

会社員の人達は仕切りに連絡を気にしているようだった。


「これって、異世界転移か?」

「まじで!うそ、ステータスオープン!ってでねぇじゃねえか。」

「本気にするなよ。」

「でも、どうなっているんだ?」

「まじで何処だよ・・・」

高校生達もテンションは上がってるようだが混乱もしてるな、当たり前か。


お年寄り二人は周りを見ながら話し合っているみたいだった、俺はこっそり聞き耳をたてる。

「ばあさんや、あのお山の形と位置で場所がわからんかね?」

「あのお山は飯縄山かね?奥のは戸隠連峰だとすると・・・あれま、場所はバスで走ってた辺りじゃないかね。」

「ばあさんもそう思うか、場所が同じとなると時代が違うのかね?」

「わたしゃの子供の頃でももう少し栄えていたよ。」

「なら、それより前か・・・」

うむーさすが地元のお年寄りは違う、となるとここがいつかになるが・・・


「そんな、どうしてこんな事になるのよ!運転手さん、一体何をしたの!」

三十路前後の女性が金切り声で叫ぶが、別に運転手さんも来たくて来たわけじゃないだろ。


俺は周囲を観察していると女の子が手を握ってきた。

「お兄ちゃん、私達どうなっちゃうの?」


俺は女の子を安心させようと優しい声で頭を撫でながら。

「大丈夫だよ、きっと何とかなるよ。でも、今すぐと言うわけにはいかないみたいだけどね。そうだ、自己紹介しておこうか、僕は土御門ヒロユキ、君は?」

「出浦優芽(ユメ)」

「そうか、ユメちゃんか。いつ帰れるかはわかんないけど、それまでよろしくね。」

「うん。」

不安なんだろう、泣くのをこらえながら、ギュッと抱きついてくる。


「ああ、ヒロユキくんに・・・うらやましい・・・」


「あっ、ミユキさん、この子はユメちゃんって言うみたい。ユメちゃん、この人はミユキさん、優しい人だから困った事があったら相談したらいいよ。」


ユメはジッとミユキを見た後、

「お兄ちゃんがいい。」

再度、ギュッと抱きついて来る。


「いやいや、女の子同士しかわからない事もあるからね。」

「お兄ちゃんじゃダメなの?」

「答えれない事もあるから。それに解決するまでは一緒なんだから仲良くしようね。」


「うん、わかった。ミユキさんよろしくお願いします。」

ユメは深々頭を下げる。

「う、うん。いいよ、でも、まずはヒロユキくんから離れようかな。」


「やだ。お兄ちゃんと一緒がいい。」

ユメは俺の手を握る。


「女の子があまり男の子にくっついたらダメなんだよ。」


「好きな人ならいいって、むしろ積極的に行きなさいって、お母さんが言ってた。」


「お母さん!まさかの肉食系!」

ミユキは驚きを隠せなかった!


そんな中、ふと、バスを見るとバスが動き出した。

乗っているのは運転手と三十路の女性だ。


「おい、待ちやがれ!」

会社員の男性が追いかけるが、バスは止まらず走って行った。

しかし、それを追いかけ、3人の会社員と5人組の高校生はバスが向かった方に走って行く。


「ヒロユキくん、どうしようバスがどっかに行っちゃったよ!」

ミユキは驚きにオロオロしている。

「まさか、置いて行かれるとは・・・しかし、これからどうするか?何処かで情報と路銀を得たいな。」

俺は冷静にどうすれば生き残れるか考えていた。


「ヒロユキくん、落ち着きすぎてない?」

「そう?起こってしまっているんだから冷静にならないと。」

「ミユキさん、考えるのはヒロユキに任せよう。こんな時には頼りになるヤツだからな。」


「マサムネ、お前こそ頼りにしてるぞ。そうだ、これを持っておいて。」

俺はカバンからサバイバルナイフを渡す。


「はあ?お前こんなの持ち歩いて居るのか?」

「もしもに備えてだよ。一本しかないから気をつけて使ってくれ。あと、ちょっときてくれ。」


俺はユメをミユキに預け、マサムネと二人で会話する。

「マサムネ、いざという時に・・・人を殺せるか?」

「・・・ヒロユキ、それを聞くと言う事は?」

マサムネは唾を飲む。


「最悪もあり得るということだよ。残念ながら手持ちの武器はたいした物はない、マサムネに負担をかける事になるけど。」


マサムネは覚悟を固める。

「・・・俺は武士の家の子だ、仲間の為に必要なら殺める事にためらわないと誓おう。」


「ありがと、必要なら俺も戦うけど、マサムネの方が強いからね。絶好生き抜こう。」

「おう!」

二人の会話を終えると、ガッシリ握手を交わす。


「お二人とも仲がよろしい事で。」

「お兄ちゃん、男の人となんて不潔だよ。」

「二人とも何を誤解してるのさ!」

漢の友情にあらぬ疑いをかけられていた。


マサムネとの話がまとまったので、この地域に詳しそうだったおじいさんに話を聞いてみた。


「おじいさん、ここがバスで移動していた場所と同じって本当ですか?」

「そうじゃよ、あのお山の形は間違いない。まあ、ワシラの全く知らない場所に同じ形の山があれば別かも知れんが、長年見てきたお山を見間違えるはずがない。」


「そうですか・・・」

「それより、君たちはこれからどうするのかね?走っていった若者達と同じようにバスを逐わないのかね?」

「うーん、あのバスに意味があればと思うのですが、それよりは善光寺に行ってみようかと。」

「なに?善光寺に?」

「ええ、善光寺は昔からありますし、もし、あれば保護を願えるかと。それにまだあまり離れていないと思いますから。」


「ふむ、よいかも知れんな。」

「どうですか、おじいさん達も行きませんか?」


「ワシラも向かうが何せ足腰が弱いからの、のんびり行かしてもらうよ。」

「それなら、僕たちも一緒に行きますよ。」


「いや、悪いだろ。」

「お気になさらず。困った時は助け合いですから。」

「ありがとう。」

「いえ、みんな。善光寺に向かうよ~」

俺の言葉にみんなが集まってくる。


「ヒロユキ、決まったのか?」

「うん、善光寺なら保護を願えるか、何か情報があるかもと思ってね。」

「わかった。じゃあ向かおうか。」

「それでだ、マサムネ、おばあさんを背負ってあげてくれないか?」


「いいぞ。」

「すまんね。」

「なに、気にするな。」

「若いのいいのか?」

「いいんですよ。それより名乗ってませんでしたね。僕は土御門ヒロユキ、こっちの筋肉が立花マサムネ、あと綺麗な女の子が三条ミユキさんで、可愛らしい女の子が出浦ユメちゃんです。」


「よろしく頼みます、ワシは海野三郎(サブロウ)でこっちが嫁の(タエ)じゃ。」

挨拶をかわした所で、寺に向かい進む事にしてた。


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