第17話

「どうして」

〈内部温度が上がってる。撃たれる度に、膨れ上がってるんだ。あいつ……光線を食ってるぞ〉

 エディの話を理解する前に、〈ミグラトリー〉から三射目が放たれた。スクリーンに蕾のようなグラフィックモデルが投影される。実物の飛翔体に光線が直撃すると、グラフィックモデルが倍の大きさに拡大された。実際の赤い光源も、大きくなったように見える。〈ミグラトリー〉から四射目が放たれた。

 食っている。そういうことか。確かにあれは光線を食らって成長している。

「〈中の連中(サークレット)〉だって、飛翔体の様子は観測してるはずだろう! どうして止めない!」

〈だから、人手を必要としないシステムなんだって〉フランシスだ。〈手がつけられないんだよ。きっと。あのプログラムの役目は隕石を砕くこと。自分の弾が食われてるなんて、想像もしてない。撃っても、まだそこにある。理解してるのはそれだけ。だから、撃ち続ける。破壊するまで。標的がまだそこに在るから〉

 あるいは、とマクスウェルがフランシスの言葉を引き継ぐ。〈他に手立てがないのかもな。もしくは、エネルギーを吸収されてるなら、破裂するまで喰らわせようなんて腹積もりで〉

「冗談をいってる場合じゃないだろう」

〈冗談であってほしいって、ぼくも思ってるよ〉

「〈サークレット〉には報せたのか?」

〈そうしたいところだがな〉とエディ。〈回線を遮断されてる〉

「突破しろよ。それくらい。天才なんだろう?」

〈妨害なら掻い潜れるが。物理的に断たれてるものをどうしろっていうんだ〉

〈落とすの〉とクレア。〈わたしたちで、砲門を止めるしかない〉

「撃ち合いだとか殴り合いだとか。……もういい加減疲れてこないか?」とマクスウェルが悪態を吐く。

〈今回に限っては、ぼくもお嬢様の考えに賛成だ〉とエディ。

 そう聞くや否や、クレアは〈スイマー〉の推進装置を吹かし、〈ミグラトリー〉の表面にぶっ飛んでいった。

〈エディ。わたしたちの視界に砲塔の位置を表示して。まだ展開してない砲門も〉

「本当にやるのか?」

〈被害の心配をしているなら、安心しろ。砲門の周りに人は配備されていない。済んだあとのことなら、遠慮は要らない。《ミグラトリー》がぶっ壊れたら破壊すべき隕石も、ぼくたちを追う組織も、裁く法律もなくなる〉

 スクリーンに映る〈ミグラトリー〉の外壁に無数の光点が打たれた。

 溜め息のあと、ぼくも光点が示す地点に向かう。クレアの〈スイマー〉と違って〈プロスペクター〉は碌な火器を積んでないから、採掘工具で砲身を叩き折るしかない。人手が必要だ。ぼくの責任で暴れ周りたいなら一つ手伝ってくれと通信を入れると、ネッドは喜んで引き受けた。

〈それで、あの《赤いの》の拡大が止まったとして、それからどうするの〉

 フランシスがいった。

〈そうだよ。それ。何の解決にもなってないんだぞ〉とマクスウェルが続く。

 砲門を破壊して周りながら飛翔体の様子を確認すると、確かに肥大化は落ち着きつつあるが、速度は一定を保っている。

〈打つ手は多くないし、あれだけ大きくなったものに通用するかは解からないが、試す価値がある手はある〉

〈回りくどい言い方ね〉とフランシス。

「いい渋ったって後戻りはできないんだぞ」

〈……《ファントム》をぶつけるんだ〉ぼくとフランシスが絶句したのを見て、エディはいい直す。〈飛翔体の横っ面に、《ファントム》をぶつけるんだよ〉

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