放課後の友人達

「えー。それでは再会を祝しまして、ボウリングをやろうじゃないか!」


「ふーふー!」


 佐伯お姉様が宣言すると、俺も口笛で盛り上げる。若干空気が漏れてるだけのような感じだが気のせいだ。上手くできる時とできない時があるんだよなぁ……。


 さて、我々はチーム花弁の壁は晴れて二年生に進級したことを祝うため、市内のボウリング場に訪れていた。


 主要産業の担い手は異能学園の学生さんです。状態なのがこの街であるため、学生向けの施設は探せばいくらでもあるのだ。


「……っ⁉」


 ぐふふふ。藤宮君、いきなり気が付いたようだね。


「なにが入っているかと思っていたら、まさかマイボールにマイグローブか⁉」


「いえす!」


 藤宮君に頷きながらバッグから取り出したるは、タールでも塗りたくってるのかと思うほど黒い我が至宝マイボールとマイグローブ!


「あれ? 去年はなかったよね」


「去年は準備不足でしたが、今年は実家から持ってきました」


 首を傾げられた佐伯お姉様に答える。


 去年も皆でボウリングをしたが、その時はうっかり持ち込むのを忘れていたのだ。しかし、今年は早くもその準備が実を結んだらしい。


「義父様と義母様も結構好まれて、ボールとグローブを作っているのよ。その影響だと思うわ」


「そうだったのね」


 橘お姉様に説明されているお姉様の言う通りだ。


 昭和のブームなんか過去の栄光になった時代に、ボウリングにド嵌まりした親父とお袋は、マイセットを購入する程だったらしい。


 そのせいか親父は邪神流ボウリング術なるものまで作り上げ、一時期はマジのガチでプロを目指そうかと思い悩むくらいに嵌まりまくっていたようだ。


 そんな二人なのだから、当然俺も言われるがままに定期的にマイセットを更新し続けているという訳だ。


 邪神に歴史ありだが……そんな歴史はない方が貫禄がある。


「さて……」


 橘お姉様が立ち上がってボールに手を伸ばした。


 多くの人間は橘お姉様の冷たい表情で誤解するが、実はこういった場では普通にノリがいい。


「栞の雪玉投法を見せてもらおうか」


「なんだそれ?」


「今考え付いた」


「そうか」


 佐伯お姉様と藤宮君の話を気にすることなく、橘お姉様は狙いを定めて投球!


 ピタリとレーンのど真ん中を転がる姿は、坂を下りながら大きくなる雪玉の如し! これが雪玉投法⁉


「あ」


 我がチーム全員の声が重なった。


 正面中央ど真ん中を貫いた雪玉は、よりにもよって両端のピンを残してしまったのだ! これはセミプロの親父でも困ってしまう状況!


「まだよ」


 しかし橘お姉様は諦めない。氷の様な眼差しをピンに向けて、第二球を発射!


「あ」


 再び重なる声。


 なんと橘お姉様は手元が狂って再び同じ軌道、つまりピンが残っていないど真ん中にボールを走らせてしまい、そのままむなしく虚空へ消えてしまった!


「次は誰だったかしら」


 だが流石は橘お姉様。何事もなかったかのように。いや、ストライクを決めたような自信満々の姿で次を促した。


 これには俺達も互いの視線を交差することしかできない!


「次は俺だな」


 何もなかったことにした藤宮君が立ち上がる。こ、この覇気はいったい⁉


「藤宮君の虹色投法が見られるね」


「佐伯お姉様、それは⁉」


「つまり今から見れるということさ」


「なるほど!」


 佐伯お姉様の言葉に納得していると、藤宮君の虹色投法が炸裂した!


 具体的にはガターに……。


 レーンの真ん中あたりで溝に嵌まったボールはぐるぐる回転しながら去っていく。


 思わずレーンが歪んでいるんじゃないかと身を屈めて確認する藤宮君だが、俺の見たところでは特に異常はないかなーって……。


「まあ次で全部倒せばいいだけだ」


 そ、その通りだね藤宮君! 応援しているよ!


「追い詰められて逆転勝利をする彼にぴったりの台詞ね」


「そうですねお姉様!」


 それにお姉様の言う通り、死力を振り絞って逆転勝利をするのは藤宮君の代名詞のようなもの! 必ずややり遂げることだろう!


 はっ⁉


「どうだ」


 や、やった! まさに藤宮君は逆転ファイターの名に相応しく、ピンを全て倒しきったのだ!


「なら僕の灼熱剛速球で続くとしようかね」


「燃え尽きないようにね」


「ふっ。いらない心配さ」


 貫禄たっぷりの佐伯お姉様が立ち上がると、お姉様からの声援を背にしながら構えを取る。こ、この闘気⁉ まるで陽炎のように揺らめいている!


「どっしゃあ!」


「ぷぷ」


 佐伯お姉様の非常に雄々しい気合の声と共に放たれたボールはまさしく火の玉の如き破壊力!


 ど真ん中に着弾!


 だがしかし!


 右端のピンだけが残ってしまい、かかってこいと佇んでいる!


「ふ。生意気な」


 佐伯お姉様はその太々しいピンに逞しい笑みを浮かべられると再び投球。


 こ、この軌道は間違いない!


「しゃあっ!」


 勝利を確信した佐伯お姉様の声と同時に、ピンは乾いた音を奏でるのであった。


「ではやりましょうか」


 次はお姉様ご出陣!


「小夜子つよつよ投法が見られるとは」


「ネーミングセンスがないわね」


 席に戻った佐伯お姉様が、橘お姉様からツッコミを受けていた。


 学園入学前のお姉様はこういった類の施設が完全に未知だった。しかし、去年度は佐伯お姉様と共に色々と訪れており、ボウリングも含まれている。


 そして神羅万象、五行相克に通じているということはボウリングにも……!


 お姉様の小さな手から放たれたボールは凄まじい気迫を放ちながら猛進し……全てのピンを吹き飛ばした!


 ストライク! バッターアウト!


「完璧でした!」


「流石だね小夜子」


「お見事」


「やるな」


 勝者としての笑みを浮かべられているお姉様を祝福する俺達。


 見てるかお袋。長期休みの時、お袋がお姉様にアドバイスをしていたのを俺は知っているよ。そしてお姉様がメモを残していることも知っている。その努力が今結実したのだ。


 さあて……。


 邪神、いきまーす!


「マイボールマイグローブ投法がついに……」


 佐伯お姉様の言う通り、マイボールマイグローブ投法が火を噴くぜ!


 角度ヨシ! ボールとグローブの感触ヨシ! 照明ヨシ! 全部ヨオオオオシ!


 初弾……発射!


 あ、いいんじゃね? マイボールは適度な角度が付いて真ん中に向かっている。いけるんじゃね?


 だんちゃーく……今!


「あ」


 や、やっちまったああああああ!


 橘お姉様と全く同じ状況! 両端のピンだけが残って俺を嘲笑う!


 不敵に吊り上がった頬! はたまた威嚇する牙! ぽっかりと空いた真ん中の空間が俺を誘っている!


 俺も! 俺も数多の犠牲者と同じ末路を辿るのか⁉


 否……!


「ふうううううう……」


 精神を落ち着かせ脳内で演算開始。最適な角度、速度、フォームを導き出す。


 やれる……俺ならやれるのだ!


「でやああああ!」


 次弾……発射!


 き、決まったか⁉ 見たところ完璧っ⁉


「い、行くなああああ!」


 わ、僅かにボールがぶれてしまった!


 思った以上に腕が鈍ってたんだ! ボールは完璧かと思われたコースから外側へ!


 あああああああああああああ! やめてえええええええええええええ!


 だが駄目! ガター!


「ぐすん」


 思わず崩れそうになりながら席に戻る。


 そして……。


 後半で一気に混戦となったボウリング大会勝者……!


「ふははははは!」


 佐伯お姉様!

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