後輩

 お昼休み中に大きく動く。


 偉そうにできる二年生となったからには、下級生に対し理不尽な押しつけをしなければなるまい。ってな訳で早速、一年生のエリアに行こう。そうしよう。


「裏番として後輩達の様子を見に行きましょうか」


「ですねお姉様!」


 どうやらお姉様は今年度の方針を決められたようだ。


「美夏ちゃんに会っておこうかね」


「おう。そうしろそうしろ」


 ナンパ全敗野郎こと村上君に頷いている西岡君だが……気のせいか? 俺の邪神ゴーストが知らないことは幸せだと囁いている気がする。


 まあいい。村上君は狂チワワの西岡君の妹さん、美夏ちゃんとよく遊んでいたようで付き合いが長く、それもあって顔を見に行くようだ。


「んあ? 貴明と小夜子も一年に用があるのか?」


「実は体験入学で仲良くなった後輩がいるんだ」


「へー」


「中々面白いわよ」


「そ、そうか……」


 行き先が同じになった村上君と、廊下で一年生について話す。


 しかし、お姉様がいつもの素晴らしい笑みを浮かべると、その一年生も可哀想にと言いたげな引きつった顔になった。解せない。


「一年生の首席は西岡君の妹さんだっけ?」


「ああ。単純に才能だけなら、兄貴の康太よりあるんじゃねえかな。まあ、その康太も美夏ちゃんが見てる時だとシスコンパワーアップをするんだけど……それはともかくとして普通の代ならずっとトップ争いだろうな」


 村上君との話を続ける。


 どうも今年度の首席は美夏ちゃんらしいが、あれだけの狂犬っぷりで生まれが武闘派の西岡家ともなれば、そこらの名家の同年代では歯が立たない程の実力を持っているのはある意味当然か。


 しかし、目的の人物である佑真君と美羽ちゃんが首席じゃないとなれば、入学試験でやっぱり手を抜いたか、なにかしらのストップが入った可能性があるな。


 それにしても村上君、やけに普通の代を強調したね。まるで俺らの代が普通の代じゃないと言いたそうだ。はははははは。HAHAHAHAHAHAHA。


「こっちも面白い兄と妹よね。西岡の未来は明るいと言われてるでしょう?」


「その面白いに含まれてる意味が俺の想像と違う可能性があるから、素直に頷くことができねえ」


 お姉様の言葉に対して村上君は妙な反応を示して天井を見ている。多分、ねじが外れたシスコン的な面白さだと思うよ村上君。


 おっと。あの後ろ姿は狂犬チワワちゃんだな。目的の佑真君、美羽ちゃんは……別のところか。


「それじゃあ僕達はこれで」


「了解。おーい美夏ちゃーん」


「え? あ、三郎の兄ちゃんんん!?」


 後ろから声を掛けられたチワワちゃんが反応したが、お姉様を認識した瞬間に一歩踏み出した足が慌てて止まった。


 それに対しお姉様は素晴らしい笑みを向けられたが……あ。見つけた! 我が親愛なる後輩の佑真君と美羽ちゃんの後ろ姿だ! 親父がなんかやらかしてないかは怖くて聞けないが、早速囁きかけるとしよう。


「変身仮面です。変身仮面同好会を立ち上げる時が来たのです。今、すぐ、ナウ」


 気が付かれないように忍び寄り、背後から囁く邪神流囁き術を発動! 相手は話を聞いてしまう!


「探そうとしてました!」


「今、すぐですよね!」


 な、なんて可愛らしい後輩なんだろう。


 びくりと反応した佑真君と美羽ちゃんは、どうやら体験入学の時に俺が誘った変身仮面同好会の話を覚えていたらしく、俺を探していたようだ。


 ああ、素晴らしきは変身仮面。大根役者、矛盾だらけの設定、やたらとドシリアスの時にギャグを挟む悪い癖、纏めきれない監督、かつかつの予算。それら全てを帳消しにするアクション俳優よ見ていますか?


 あなた達のアクションのお陰で、僕は素晴らしい後輩と出会うことができました。


「久しぶりね」


「お久しぶりです!」


 そしてお姉様に対して、二人の後輩は背筋を伸ばして挨拶をする。


「少し見ない間に中々鍛えたわね」


「いやあ、なんと言うか……」


「色々な式神と戦ったと言いますか……」


 更にお姉様はいつもの素晴らしい笑みで佑真君と美羽ちゃんを称えるが、その二人はどこか疲れ切ったような表情になる。


 はて、この親愛なる後輩が疲れた表情をするなんて、よっぽどの修練だとは思うが話したくないようだ。なにがあったんだ?


 まあそれはいいか。


「早速申請にレッツゴー!」


「はい!」


「行きましょう!」


「ふふ」


 ルンルン気分でスキップする俺、佑真君、美羽ちゃん、そして微笑むお姉様。


 なんと変身仮面はお姉様も見て、本当に常人かしらと首を傾げるレベルなのである。


「うん? 貴明に小夜子? 新入生とどうした?」


 事務所に行くとゴリラがなにか打ち合わせをしていた。


 しかしよく聞いてくれた。


「体験入学の時に変身仮面のことで盛り上がりまして、同好会の申請をしにきました」


「変身仮面? アクションが凄まじいあれか?」


 知っとんのかワレェ!


「なにかの拍子でちらりと見てな。それに異能研究所がスーツアクターは異能者ではないかと騒いでいたが、結果は常人だったから余計に記憶にあった」


 く、詳しく聞きてー! 変身仮面の中身は常人だったのか! でもそれであの動き!? 余計に変身仮面の沼に落ちそうなんだけど!


「忙しいからそこまで見る時間はなかったが、怪我をしないように動きながら、あれだけ鬼気迫る演技ができるのかと感心したものだ」


 分かってるなあゴリラ! あんたも変身仮面同好会名誉会員にしてあげよう!


「他は……まああれだったが」


 分かってるなあゴリラ……って見たら誰でも分かるよな…。


「それは置いておこう。後輩ができたからには教え導くのも先輩としての役目だぞ」


「勿論です!」


「うむ。それではな」


 分かってるよゴリラ。例え常世の果ての果て、底の底に落っこちようが引き戻して、先輩としての威厳を見せつけますとも。


「二人は海外からの留学生が来ることは聞いた?」


「はい。凄い有名な人達ばかりですよね」


「びっくりしました」


 同好会に必要な書類に記載しながら、佑真君と美羽ちゃんに今年の一大イベントの話を振る。


 だが新入生が入学初日の昼休みに、留学の話を入手することができるだろうか? ひょっとして胃に剣がぶっ刺さった組織で聞いてたかな。


 どうも我が愛すべき後輩は異能研究所の秘蔵っ子的なポジションのような気がする。その組織のトップに、お宅の秘蔵っ子はうちの親父と関わりがありますよと囁いたら、一発で泡を吹いて倒れるだろうが。


 そもそも認識しただけでアウトな神とか、どうやって対処すればいいんだろうな。


 あいつは危険だから対処しましょうって会話をぼかして、アレはアレだからアレしましょうって表現しても、親父は認識して笑うだろう。もし異能研究所がそれに気が付いているなら、その結論を導き出した時の顔は可哀想で見ていられない程だったに違いない。


 まあでも、俺と関わりがあるって程度では、精々が昼飯食ってる最中の気軽な報告で終わるだろう。なにせ俺は親父と違い真面目で大人しいいい子ちゃんだからな。現に地球さんを救ってるし。うんうん。証明完了。


 そしてチーム花弁の壁とゾンビーズの合同チームはイギリスで世のため人のために戦ったから、いい子ちゃんの集団ということにもなる。


 よし! そんなことを考えている間に書類が完成! 俺、お姉様、佑真君、美羽ちゃんが名前を記載して、事務員さんに受け渡す!


 ここに! 変身仮面同好会が結成されたのだ! わーっはっはっはっ!


 ついでに二人は一際面倒な連中の対処研究会にも誘っておこう。そうしよう。


 あ!? 今、唐突に俺様の脳細胞が活性化した!


 異能研究所と関わりのある佑真君と美羽ちゃんが、色々な式神と戦って疲れているってことは、まさか!? まさかあああああああ!?


 ……佐伯お姉様……橘お姉様……無力な邪神を許してください……。

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