学生らしい青春の一幕?

「諸君おはよう」


 おはようございます学園長。ついに期末テストですね。


 やつれてたのが元の調子に戻ってよかったです。試験中も調子悪そうだったら、天国じゃなくて痛風針山地獄にいた親父を現世に呼び戻して、慰労の飲み会をセッティングしようと思ってたんですけど、その様子じゃ大丈夫そうですね。


「確認だが、前回と同じように、指定した科目の座学テストではカンニングが許可されている。私に気づかれないよう上手くやりなさい」


 流石ですね。情報収集をするならなんでもありの精神、僕は好きですよ。ただ前回も心の中で言わせてもらいましたけど、学園長の目を欺いてカンニングするのは、チャラ男でも厳しいってことですかね。


 でも俺はなんとか見えている。後は恐らくマッスルも、空気の流れの空白だとか音の反響とか訳の分からん理屈で気付いているだろう。これまた前回のテストと同じように、天井でぶら下がっている偵察特化型式神符、ネズミちゃんの存在を。


 お姉様は今回、出来るだけご自分の力でテストを受けられるようだが、カンニングが許可されている情報の科目などは規則に則っるらしい。


 いやあそれにしても、我が血液タールとお姉様の業で生み出されているだけあって、ネズミちゃんはマジで見えにくい。あ、そうだ。ちょっとネズミちゃんの感覚と同調する。うん。ゴリラからは認識されていない。ゴリラからは。


 マッスルからは認識されていた。やっぱあいつ、マジのガチでヤバいわ。物質界で捉えられない存在とかいないんじゃないか?


「それでは朝のホームルームを終える」


 おっと、マッスルのことはどうでもいい。重要じゃない。それよりもテストだテスト。いっちょ頑張りますか!


 ◆


 妖異に関する基礎的なテスト終了!


「は? 最初の選択問題の答えはAだろ?」


「いや、Bだ」


「俺もAなんだけど」


「私も」


「引っ掛けだから、ちゃんと教科書見てみろよ。ほらBだろ?」


「げっ!?」


「うっそお!?」


 テストが一つ終わった後のお約束、正解確認が学園中で行われている。


 分かるよ皆。赤点取ったら、春休み返上で補習だものね。実家に春休み赤点取って帰れないとか、口が裂けても言えないだろう。それが名家なら尚更である。その緊張感を誤魔化す為に安心感が欲しいのだ。


 まさにテスト中独特のソワソワ感!


 だがしかあああし! パーフェクト首席の俺には当てはまらない! さっきのテストも、分からないことなど一つもなかった! 大体人の負の念から生み出されるような妖異と、恨みや呪いってのは根っこが同じなのだ! だからこそ、連中の基礎的な知識など俺には楽勝も楽勝! あ、俺が妖異ならこうするなと思ったらそれが正解だからなあ!


「……ふむ」


 そして、我がチーム花弁の壁の皆は、そんな緊張感を誤魔化す必要などなく、次のテスト科目に対して、最後の確認を行っている! これが場数を踏んでるって奴だな!


 それは俺も同じ!


 はっはっはっ! このまま全部満点だあああああ!


 次は数学だけど……!


 ◆


 こ、これは!?


 俺の臨時家庭教師、ガウス先生とオイラー先生が、俺の頭に無理矢理詰め込んだ数式のお陰で分かる、分かるぞ! 現代知識も一瞬でアップデートしてたし流石です先生方!


 これで100点間違いなし!


 この調子で次の科学も頑張るぞ!


 ◆


 こ、これは!?


 俺の臨時家庭教師、ニュートン先生が、俺の頭に無理矢理詰め込んだ科学知識のお陰で分かる、分かるぞ! 現代知識も一瞬で理解してたし流石です先生!


 これで科学も100点間違いなあああああああああし!


 ◆


「四葉貴明入ります!」


「うむ」


 なぜか今回の実技テストも、出席番号の最後からだったので、トップバッターとして気合を入れて訓練場に足を踏み入れる。多分、俺とお姉様の素晴らしい実技の光景を、一番最初に見たかったんだろう。


 そんでもって今回の実技試験はちょっと変わってる。


 相手の式神符の強さを自分で選択できるのだ。


 これによって、自分が対処出来るギリギリを見極める必要が生じる。勿論、単に小鬼を選択して確実に合格するのもありだが、評価点は大したものにならない。


 逆に背伸びして大物食いを狙って返り討ちにされても、彼我の戦力を見誤ったと言うことで減点されてしまう。ただ、それは直接的な戦闘力を持っている者の話だ。東郷さんみたいな浄力者はただひたすら生き延びることでも構わないし、狭間君なんかは千日手に持ち込んだら勝ちみたいなものだ。


 そして単に、均一で上位の式神符に高得点がある訳ではなく、あくまで現時点での生徒個人個人の実力を基準にして考えられている。


 得点の基準がゴリラの主観になるため、テストでするなという話になるかもしれないが逆である。まずゴリラが単なる生徒の戦力把握を誤る訳がないし、テストの点がかかっているからこそ真剣に悩むのだ。これを経験してないと、卒業後にいきなり身の丈に合わない妖異の討伐に参加して、殉職する事態が起きかねないので必要なことだった。


 ってな訳で、首席である俺様の相手は当然んん!


「貴明、式神符の指定は?」


「特鬼でお願いします!」


「分かった」


 俺の宣言に頷いたゴリラが、揃えられた式神符の中で特に厳重に保管されている、猿君の式神符を取り出した。


 世鬼の蛇君は胃に剣に保管されているので、俺に相応しい相手はこの学園の頂点、猿君をおいて他にいない! まあ、フルパワー蜘蛛君はそれを凌ぐんだが、その状態になると学園の結界が、蜘蛛君の呪詛に耐えきれず溶けちまうからな。そんでもって、天敵のニュー白蜘蛛君は論外である。


 それ故に猿君を打ち倒して、首席の座を死守するのだ!


「では起動する」


『『『グオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』』』


 ゴリラが猿君を起動したけど、最初っから阿修羅状態どころか、ぶち切れ状態の赤と青の炎を纏った状態だ……。


 あ、あれ? 猿君もしもーし? 確かに阿修羅状態の猿君こそ真の特鬼だけど、青と赤の炎を纏って不死性を得ている本気状態の猿君は、特鬼の中の特鬼だよ? そこらへん分かってる?


 え? 戦いに出し惜しみをして痛い目を見たから、手を抜くとかありえないって? ああね。お姉様がゾンビ共と遊んだ時に猿君は呼び出されてたけど、本気を出すのが遅れてマッスルに殴られまくったものね。


『【善悪無道ぜんあくむどう死地七道】しちしちどう!』


 猿君の六腕の武器全てが俺に振り下ろされる。


 力に善悪はなく、天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道を加えた己のいる死地こそが第七の道であると宣言した、無の力が……。


 ならば六道を救おう。


 第二形態アバター限定解除。


「【オン・カカカ・ビサンマエイ・ソワカ】」


 人類人話具現具象でも、人類人話無形無消でもない。


 敢えて言うならば。


 六道輪廻求生救生ぐせいぐしょう


 ◆


 ◆


 ◆


 猿にとってある意味で好機だった。例え自分を再誕させた貴明であろうと、戦える機会があれば戦うのが修羅道の化身なのだ。


 それ故、最初っから己の全力を叩きこもうとしたのだが……。


『グギャ!?』


 修羅と再誕してから、初めて猿の三面が悲鳴を上げた。


 あれだけはまずいのだ。


 例え阿修羅と因縁のある怨敵帝釈天が現れようと、その憤怒の力で襲い掛かる猿でも、あれだけは……。


 貴明の前に連なって現れた、彼の膝ほどしかない小さな六つの……お地蔵様だけは。


 お地蔵様、即ち地蔵菩薩。弥勒菩薩が現れるまで仏のいない時代において、六道の人を救う菩薩とされる存在である。


 つまり、修羅道の化身である猿の絶対的な天敵と言っていい。


「【求生救生・六道六地蔵】!」


 生を求める者や、六道の者達を救うための光が六地蔵から溢れ出した。


『ガアアアアアア!?』


 本気の本気なら耐えられたが、訓練用の式神符として制限状態で現れている猿は、その柔らかな光に抗うことができず……訓練場から消え去った。


「実技試験終了」

(邪神とは……いや、深く考えるのはよそう……)


 霊力者の頂点である権能使いと言うより、まさに権能そのものを見た竹崎は、邪神の定義に疑問を覚えながらも、深く考えることを止めた。深く考えると、必ず竹崎の胃痛の原因、唯一名もなき神の一柱にぶち当たってしまうので賢明だろう。


 そして実技試験の終了を宣言するが、点数は勿論満点である。



 ◆


 ◆


 ◆


(貴明は殆ど満点ときたか)


 テストも終わり、学園長室で生徒達のテスト用紙を採点していた竹崎は、貴明の成績を見て腕を組んで考え込む。


 貴明は前回のテストでも、座学は数学と科学以外はほぼ満点だったのに、今回はそれを含め全て満点か、ほんの僅かに失点しているだけだった。


 その上、これまた前回の実技試験では白蜘蛛に敗れていたものの、今回は特鬼に圧勝したのだから、言うことがなかった。


 とは言え、数学と科学はテスト用に最適化されていただけで、現在は脳がオーバーヒートを起こしており、次の日にはきれいさっぱり忘れることになるので、なんの実りもなかったが。


(北大路は……)


 そして、貴明が密かに首席争いのライバルと目していた北大路友治だが、この男、実はとんでもない弱点を抱えていた。


(小鬼を討伐するための、最小限度の人員と装備を答えよ)


 竹崎は、妖異に関するテストで生徒の油断を誘うため、最初の一問だけサービス問題を設けていた。


 大体の答えは、四系統最強の霊力者一人と、偵察用の式神といったもので、これは正解扱いだ。少し捻くれている貴明は、戦いに最小限度はないので、効率を無視していいなら、動かせる単独者全員と米軍最新鋭の偵察衛星と記載しており、サービス問題なのでこれも正解扱いになった。


 そして友治なのだが……。


(北大路は……霊力者とプロテイン……なぜそうなる。呪いの対処法、自分の筋肉なら効かない……それは客観性のない予想で主観だ……)


 そう、この友治、理屈や方式がきっちりしていることに対しては強いのだが、自分の主観が入るような問題になると、途端に主観が最優先の筋肉式回答を披露してしまうのだ。


 しかも、前期テストも似たようなことを記載して、竹崎に注意されているのにこれなのだからどうしようもない。


 そのため、基礎教育や決まったことを答える科目では満点に近くても、考察や推測、予測を述べるような異能分野では、急にふわっとしたことを回答するので、トータルの成績では貴明が上回っていた。


(そうなると、来年の首席は……)


 他にも飛鳥と雄一は、一般教養と実技では非常に好成績だったが、やはり異能の世界に入って日が浅いため、今回はその座学の科目が足を引っ張っていた。


 また、栞は数学と科学で、なんとか程々の点数を取ることが出来た。が、元々戦闘力を重視する性質だったため、実技が満点に近くてもトータルではまあまあの成績に納まった。小夜子に至っては、座学ではいくつか真面目にやったがそれだけである。


 それ故、座学、実技、普段の授業の加点を総合して計算すると来年度の首席は。


(引き続き貴明か)


 前期試験の数学と科学、実技が足を引っ張ったためギリギリであるが、貴明は自力で首席の椅子に座ることに成功したのであった。

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