学生のするべきことは学びである。断じて国どころか地球を救うことではない。

 学園中に殺気が満ち溢れている……。


 それは世界を崩壊させかねない力だ……。


 何故なら……ついに期末試験が目前に迫っていた!


「ここ日本んんんんんん!」


 巨大な図書室で英語の教科書という禁書を見てしまい、発狂してしまったシスコン西岡君。


 よくある話だが、名家出身の生徒は古典や古文については詳しくても、海外の言語にはさっぱりなことが多い。そのため、国際交流を理由に、今年から重点的に学ぶことになった英語に対して、推薦組の生徒の多くは殺気を放ちながら勉強する羽目になっていた。現に、実家至上主義者の南條君なんかも、しかめっ面で英語の教科書を開いている。


「うっせえ!」


 そんなシスコン西岡君に文句を言ったのは、彼の友人であるナンパ全敗野郎こと村上君だ。


 この男、肩身の狭い家を出るため色々努力しているので、座学の成績は結構よかったりする。その上実技も冷静に立ち回れて顔がいいのだから、足りないのは理性だけだ。いや、足りないって言うかゼロなんだけど。


 そんな座学において、名家出身でオールラウンドな村上君を凌ぐ、スーパーインテリが我がクラスには存在する。


「よきマッスルは脳を鍛え、よき脳はマッスルを鍛えるのだ」


「そ、そうなんだ……」


 持論を展開して常識人の東郷さんを困惑させている、マッスルこと北大路友治だ。


 趣味筋トレ、生き甲斐筋トレ、生命活動筋トレのこの男は、筋トレの休憩後は筋トレの論文以外にも普通の論文を読み漁り、勉学にも励むという筋トレインテリ中の筋トレインテリで筋トレ……また正気を失ってた!


 と、ともかく、俺が数学と科学の弱点を抱えているので、悔しいがクラスナンバーワンの筋トレインテリはマッスルだった。


「イギリスで忙しかったから、ちゃんと勉強しててよかったな」


「そうだね」


 そして常識人の狭間君とネクロマンサー東郷さんはまさに常識人なため、常識的な優等生だった。


 問題なのは馬鹿オブ馬鹿の二人だ。


「数式見ただけで頭痛がするんよねえ」


 数学の教科書を見ながら、頭痛を耐えているようなチャラ男だが、あいつは女神と密接な関わりがあるから数学が苦手。なのではない。単に数学というか勉強全般が苦手なのだ。


「歴史とかいいじゃん。大事なのは今よ今」


 そして、いいこと言ったと言わんばかりの厚化粧も同じだ。


 ただしこの二人、英語を話せる上、厚化粧に至っては単純な計算はとてつもなく早いので、得意な科目は存在する。


「普段はあまり煩く言わない両親だけど、勉強に関しては色々させられたね。まあこういう時は感謝してるよ」


「俺もだ」


 一方、我がチーム花弁の壁の佐伯お姉様と藤宮君は、大企業のご両親から勉強の大切さを説かれていたようで科目の弱点がなく、語学と数学に関しては大得意だ。


「古典と古文だけにしてくれないかしら」


 そして、俺と同じく数学と科学が大の苦手な橘お姉様だが、古典や古文の造詣はクラスの誰よりも深く、学園の教師からよく分からん免許皆伝を認定されているほどである。どうも、橘家の書庫には東西の古書が収められているらしく、橘お姉様はそれを読んで育ったようだ。


「必要ないのは勉強しなくていいから楽ね」


「いやまあ、確かに異能分野に関してはそうだろうが」


 異能関係の法律や経営に関する分野の教科書を開いているが、それ以外は完全にノータッチなお姉様に、藤宮君は苦笑気味だ。


 俺達異能者の本分は妖異に対抗することであり、基礎的な学問以外にも、妖異との戦い方、式神符の取り扱い、場合によっては占星術や暦学の知識も要求される。そういったものに関してお姉様は、日本どころか世界でも右に出る者がおらず、寧ろ教える側だ。


 安倍晴明の知識を伝授するなんて話があったら、日本中から最高峰の術者が押し寄せてくるのは間違いない。そんでもって、レベルの違いすぎる授業内容に絶望して帰ることになるだろうが。


「貴明、完全に手が止まってるね。本当に数学が苦手だ」


「はっ!?」


 肩を竦める佐伯お姉様の声で我に返る! 数学の教科書を開いてから、全く先に進んでいなかった!


「でも貴明は、数学と科学以外のトータルが凄いよね」


「いやあ。でへへ」


 佐伯お姉様に褒められて、つい照れてしまう。


 スーパーウルトラ首席、四葉貴明の明確な弱点科目は数学と科学だけである。入学当初は異能のこともちんぷんかんぷんだったが、たゆまぬ努力と生まれ持った邪な知識の応用でそれも克服していた。


 今では、俺が首席であることを疑う者はいないだろう。まあ、表立って実技で本気出せないから、クラスメイトの皆はまだ俺の実力を疑っているようだが……第四形態やるか? やっちゃうか? というのは流石に冗談! せめて第一形態だよな!


 そう、実技で思い出した。我々チーム花弁の壁とゾンビーズは、何故かマジの実戦に参加することが多く、しかも相手はヤバイ連中ばっかりだ。そのため同年代で比べると、間違いなく世界有数の修羅場を潜っている。


 逆カバラの悪徳だけではなく、九州支部の戦い、イギリス動乱といった、戦争そのものにだって参加している。そんでもって、満月か新月の異能市にも予備戦力として参加しているから、実技に関しては言うことなしだ。


 っていうか、よう分からん仙人から始まって今年ヤバすぎだろ。


 アドラメレク、ナヘマー、ベルゼブブ、ルキフグス、バアルは俺が地獄か永遠の奈落に叩き込み、お姉様はベルフェゴールごと賀茂光栄を消滅させた。そんでもってバアルの契約者はチャラ男が次元の狭間に送り込み、これは単なる勘だが、ひょっとしたらマッスルと翼先輩が消滅させたのってリリスかもしれん。


 じゃあもう逆カバラの悪徳、殆ど壊滅してるじゃん。


 そんでもって、宇宙で恐怖の大王とぶち当たり、九州じゃ世紀末と異能の否定する概念を宿した黙示録の獣。しまいにはイギリスで原初神達の力の欠片ときたもんだ。


 地球さん、冗談なしによく生きてますね。ちょっと脈が微弱かも……。


 いやあ、そう考えると俺ってなんて世のため人のため、地球さんのために頑張ってるんだ。これは邪神にあるまじきいい子ちゃんだな。来年度はもっと悪いことしよう。具体的には、ゲームのチート野郎が、ゲームを触る気すらなくなる呪いをばらまくとか。ふふ。我ながら恐ろしいことを考え付いちまった。


 おっと。また思考が逸れてしまった。とにかく今は、勉強あるのみ! えいえいおー!

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