来年度来る者達
学園全体が超忙しい。どうも半裸達四年生は、年末年始こそ実家に帰っていたようだが、それ以外はマジでずっと蜘蛛君と戦っているようだ。そんなやる気のある生徒達の教官を務めることが出来て、鬼教官蜘蛛君もにっこりしていることだろう。
そして在校生は、試験勉強で大忙しだ。座学はもちろん、実技のため学園中の式神符達と訓練場がフル稼働状態。特に来学期最終学年になる三年生達は、少しでもいい就職先を見つけるために、もしくは名家出身の者は、実家の面子を保つため、目を血走らせて勉強している。
勿論俺達もだが……。
「どうしてこの世には数学があるのかしら……?」
「ですよね橘お姉様……」
チーム花弁の壁の勉強会で、橘お姉様が呟いた言葉に同意する。
数学が人類を高みへ押し上げたのは間違いないが、それを俺にやらせるのは間違ってるぞ。普通に生活する分には、算数が分かってたら十分じゃん。いや、ほんと神の俺と相性悪いんだって。物理の公式が成立した時点で、神達は軒並み瀕死になったことだろう。
そして橘お姉様は、どうも前の数学テストで“もっと頑張りましょう”だったらしく、目が死んだ状態で勉強していた。
「航空力学は数学だよ」
「確かにな」
「乗るのと見るだけで楽しめるから、どう飛んでるかは必要ないわ」
そんな橘お姉様のモチベーションを上げるため、佐伯お姉様と藤宮君が飛行機の話を持ち出したが、飛行機が飛んでいる理屈は興味の外らしい。
とは言え、イギリスで行われる祭典に出席するため、もう一度飛行機に乗れることを密かに楽しみにされているらしく、飛行機への情熱は全く消え去っていないようである、
「って言うか、小夜子が真面目に勉強してるの珍しいね」
佐伯お姉様が珍しい光景だと、教科書を開いているお姉様を見ている。確かにお姉様は、刀剣集や最近は式神符のカタログのようなものを見ていることが多く、教科書は殆ど開かない。
「卒業して異能相談事務所をするなら、法律と会計に詳しくなる必要があると思ったのよ」
「ふーん……ちなみに相談所の名前は?」
「それは勿論、四葉異能相談所よ」
お、お、お姉様ああああああああああ! 俺っち鼻水が! ちーん!
「なるほどねえ。よしみでウチのグループから、詳しい人を紹介しようか?」
「あら、まだずっと先の話だけど、とりあえず名前を聞かせてもらっていいかしら?」
「名前? 大和さんだったかなあ?」
見てるか天国の親父。四葉異能相談所所長として恥ずかしくないよう、数学頑張るからよ。
◆
◆
◆
それから数日。
試験と言えば入学試験。ついに今日、我が同士である佑真君と美羽ちゃんが、入学試験を受けるため学園を訪れることになっている。
今日が試験のために休みだが、ちょっと試験勉強の息抜きに、それを覗くため学園に目玉を展開す……る。うん。西岡君が学園にいたけど、俺は何も見なかった。妹さんを一目見る以上の理由は存在しないだろうから、考えるだけ無駄だ。
おっと、未来の後輩達が続々とやって来た。いやあ懐かしい。俺の場合、親父の伝手で試験を受けようとしたら、よりにもよって異能学園だったからな。そして、お姉様、佐伯お姉様、橘お姉様が高級車から降りてきて……本当に懐かしい。
そんでもって、あの時のクラスメイトはお互い不干渉っぽく我関せずが多くて、入学してからバチバチやってたんだが……。
「あ? 上野じゃねえか」
「なんだこら遠野」
「佐久間ぁ」
「梶ぃ」
体験入学の時と変わらず、バッチバチにメンチ切りすぎだろ……一昔前のヤンキー世界のような有様になってるじゃねえか。俺らの代が黄金世代と言われることは確実だが、彼らは間違いなく狂犬世代だな。
「ああん?」
そんな中、物理的な電流でも流れそうなほどのメンチビームを放っているのが、一番小柄な少女である西岡君の妹さんだ。西岡君がこれを見たら卒倒……しないな。それでこそ西岡の女だとか言いそうだ。
「体験入学の時も思ったけど、ちょっと不安になってきた……」
「私も……」
そんな中、かつての俺のように場違いなところに紛れ込んでしまっているのが、我が同士の佑真君と美羽ちゃんだ。分かるよ二人とも。俺も常識人だから、最初は苦労したもんだ。
「試験会場へ案内します! 付いて来てください!」
案内係の教員がヤンキー達に声を掛けると、意外なことに彼らは素直に従った。これが田中先生だったら、どうだっただろうなあ。立派な人なんだけど、外見はすげえ頼りないんだよな。将来、田中先生がクラスを受け持つようになったら、臨時教員四葉貴明先生が手伝ってあげよう。
「ではこのダイスを振ってください」
出たな。忌まわしき基礎四系統の力を測定するダイスが。
50で一人前、70は超一流、80あれば単独者が持つ力相当と言われているが、人間形態では呪力しか持っていない俺は、四系統全部で0を叩き出してしまったのだ。
「霊力31!」
「魔力27!」
「浄力30!」
「俺の方が高かったな」
「くそがっ!」
「西岡美夏、霊力48!」
「ふっ」
次々と測定される力の強さだが、当然その強さでマウントの取り合いが発生する。っつうか西岡君の妹さん、大分すごくないか? 入学前の西岡君の霊力より勝ってるし。とは言っても、佐伯お姉様と橘お姉様は50オーバーだったけど。
でも残念だね未来の後輩達よ。実はそれ、単なる評価の一項目に過ぎないんだ。
戦いとは心技体の全てが揃ったものであり、異能の強さが戦術の決定的差なら、ゴリラや九州の爺さんみたいな今の古強者達は全員死んでいるだろう。彼らは自分達よりも、強大な敵を尽く打ち倒して、その名を轟かせたのだ。
バスケ選手がベンチプレスの値だけで競っても意味が無いように、戦士は異能の強さだけでは測れない。それ故、クラスメイト達も入学してから殆ど計測していないくらいだ。
んだが……。
「伊島佑真、霊力60!?」
「伊島美羽、浄力60!?」
流石に一年生が60を叩き出したら話は変わるなあ……。
未来の後輩たちが、ああ? んだと? とガラの悪い目つきで、佑真君と美羽ちゃんにメンチビームを放つが、当の本人達はやっちまったと言わんばかりの表情だ。
分かるよ。これくらい力を
「続いて式神を仮想的とした実技試験を行います!」
式神……まさか……。
「起動します!」
『今度こそ先輩の実力見せてやるううううう!』
や、やっぱり! キシャりと器用に足を上げて威嚇するようなポーズとともに現れたのは、自称先輩のニュー白蜘蛛君だ!
どうも体験入学で、佑真君達にボコられたのは、何かの間違いだったことにしたいらしいんだが……。
『あれ? 動きにくいような?』
ようなっていうか、実際動きにくいんだよニュー白蜘蛛君……なにせこれは入学試験と言いながら、実際は未来の後輩達の戦闘スタイルを見極め、入学した後にどのような指導を行うべきかを考えるために行われているのだ。
それに体験入学の時とは違い、入学試験は一対一で行われることもあって、ニュー蜘蛛君は最下級の小鬼よりはマシ? 程度まで大きく力を落とされていた。
『ちょっと待ってええ! ハンデマッチとか聞いてないいいいい!』
「【矛よ】!」
『ぬあああああああああああああ!?』
哀れニュー白蜘蛛君。彼はいきなり矛を持った佑真君と戦う羽目になり、なんとか抵抗するも、みるみるうちに体を削られていく。
俺と親父を打倒した逸話を取り込んで、実は対邪神兵器と化しているとんでもないニュー白蜘蛛君だけど、残念ながらその力は今何の意味もないし、なんなら使えない程弱体化していた。
『蜘蛛先輩に言いつけてやるううううう!』
ニュー蜘蛛君!? 確かに逸話を取り込めるみたいだけど、ヤンキー世界の雰囲気まで取り込んでしまったのかい!? セリフが舎弟の捨て台詞まんまだよ!?
『あーれー』
なんか急に気の抜けた言葉を最後に、ニュー白蜘蛛君は消え去ってしまった……。
「次!」
『今度こそ勝あああああつ! むっふん!』
佑真君の試験が終わり、再び式神符を起動されたニュー白蜘蛛君が現れたが、元気だねニュー白蜘蛛君!?
『あーれー』
だが駄目! ニュー白蜘蛛君は、未来の後輩達全員に敗れてしまった!
実際、俺の時も全員実技試験を楽々クリアしてたからなあ。俺除く。
「それでは入学試験を終了します!」
教員が試験終了を宣言した。
何度目か分からないけど懐かしいなあ。この後俺は、お姉様に招待されて桔梗家の車に乗り込み、結婚することになったのだ。でへへへへへ。
まあ、ちょっと桔梗家への挨拶はしくじったけど……今度親父と一緒に菓子折りもってお邪魔するか? しちゃうか? 叔父さん達も呼んじゃうか?
うん。今度の春休み、いいタイミングがお邪魔しようそうしよう。
そんでもって、お疲れ佑真君! 美羽ちゃん! 変身仮面同好会は君達が入学したその日に立ち上げるから、楽しみにしていてね! 新学期にまた会おう!
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