真百万文字記念。神曲・原初神の帰還
『■!』
異なる次元の侵略者である魚達が、自分達を待ち受けていた連中に突撃する。その濁流は、太陽系程度ならあっという間に埋め尽くし、全てを貪るだろう。
そして一匹一匹が、雑多な神を寄せ付けない強靭さを持ち、あらゆる次元を破壊しつくしてきた。
だが……哀れとしか言いようがない。本能でしか行動できない彼らは、相手がどのような存在かすら分かっていないのだ。
「変身っと」
ガコン、と歯車が動く音が黒い世界に広がった。その腕時計の針がぐるぐると回転し、零時零分零秒を指し示す。
一瞬、ソレが現れた。
惑星すら見下ろすその巨躯にも関わらず、各パーツは細かった。頭部、胴体、腕も足も指も、全てが黒く輝く長針と短針で構成され、関節部には歯車が回転している。そして背には、まるで後光のように一から十二の数字と、長針短針秒針が展開され、きっかり零時零分零秒だった。
まさしく機械仕掛けの時間神。
ソレこそが、異なる世界の至高の一柱。原初神“時間”であった。
『【
“時間”の後ろに展開されていた時計の零時零分零秒が、カチリと音をたて11時59分59秒に逆行した。
魚達の一部がごっそりいなくなった。およそ1億年前に誕生した魚達は、その1億と1日前に時間を戻され、自らの存在を保てず崩壊してしまった。
「……変身」
呟きと共に一瞬だけ音も、彼自身も消え去った。
一瞬、ソレが現れた。
真っ黒な暗黒の空間に、ハッキリと分かる白い人型の存在。黒という色すら消失させて、輪郭が浮かび上がったのだ。だが他には何もない。この空間だからこそ、なんとか人型に認識できるソレは、本来なら形がなかった。
まさしくなにもない虚無神。
ソレこそが、異なる世界の至高の一柱。原初神“無”であった。
『【無】』
その一言。たった一言によって、魚達はただ純粋に消滅した。そこに星を進撃しても傷つかなかった鱗は関係なく、ほんの僅かな抵抗すら出来ずに、言葉通り無となったのだ。
「変身する」
男の瞳から光りが瞬いた。幾つも幾つも幾つも。幾つも幾つも幾つも幾つも幾つも。幾つも幾つも幾つも幾つも幾つも。
一瞬、ソレが現れた。
必要性が無いため、今は星を見下ろす程度の大きさでしかない。だが、全身を光り輝かせているその光点の正体は、銀河だった。果ての果ての、その果てすらないと思えるほど、永遠に膨張し続けいる存在が、銀河をまさに星の数ほど内包して光り輝いていたのだ。
まさしく深淵である宇宙神。
ソレこそが、異なる世界の至高の一柱。原初神“宙”であった。
『【
流星という単なるプラズマで発光するするような、ちんけなものではない。言葉通り星の流れなのだ。だから星が、惑星が“宙”の体から生み出され、それが流れた。一、十、百、千、万、いやそれ以上の惑星が黒き世界に流れ出し、ぶつかり合い、魚達はその単なる質量衝撃と宇宙嵐に巻き込まれて何もできない。
魚達がどれほど宇宙を埋め尽くすと恐れられようと、それは単なる言葉遊びに過ぎなかった。真の宙の中にあっては、魚達は海に揺られる魚どころか、微生物以下でしかなかった。
「変身」
翁が陽炎と共に燃え上がった。
一瞬、ソレが現れた。
特に特徴はないだろう。惑星を見下ろす人型の火程度でしかない。色も深紅やおどろおどろしいものでなく、イメージしやすい暖かなオレンジだ。
だが秘めた概念が、あまりにも、あまりにも危険すぎた。
原初の火とは、古代の勇者が落雷や山火事から火を取り出したことでも、神々が与えたものでも、太陽でもない。世界誕生のきっかけ、
まさしく最初の火の化身である火神。
ソレこそが、異なる世界の至高の一柱。原初神“火”であった。
『
“火”の掌に火が燃え盛った。
勿論、そんな概念を宿していても、100兆とも1000兆とも言われるその火を行うには、“火”ですら相応の準備と、己を燃やし尽くす必要がある。それ故、生み出した火は手加減を重ねた
誕生の力なのに、もし現実世界なら地球が一瞬で消滅し、それどころか太陽系を燃やし尽くしながら、なお被害が広がる滅び火が解き放たれた。
指向性や方向性を持たせる必要など全くない。ただその火が現れただけで、魚達は霊核すら燃やし尽くされ、塵も残らず消え去った。
「原初神“混沌”は役目を終えていないけど、たまには復活してもいいよね! ってなわけで」
……最も動いてはならない存在が、にこやかにそう宣言した。しかし、偶には復活してもとは言うが、殆どその姿になったことはない。それなのに、同期の友人達と久しぶりに酒を飲んだご機嫌状態だったため、真の姿になろうとしていた。
「変身!」
その存在が黒い世界に溶けた。
一瞬、貴明の第四形態。カオスにしてカースのような、のっぺらぼうと細長い体を持つ漆黒の巨人。
ではない。
かつて竹崎に説明した、息子は一瞬最大出力なら自分に迫れるというものは、これもまた真実とは程遠かった。それはあくまで、“唯一名もなき神の一柱”になら迫れるというものだ。それ故に、他の原初神達の力の欠片も貴明の第四形態を、戯れている“唯一名もなき神の一柱”と誤認した。
ならばその真の姿とは。
そもそも、元からいたようなものだ。
『うーん小さすぎて……ああいたいた』
黒い
星の中の世界などという、ちんけで小さな小さな枠組みではない。
“時間”も“無”も“宙”も“火”も。それ以外も。
ありとあらゆる概念現象、全てなにもかもが内の中で存在するからこそ
ただそこに存在していた黒。全ての源にして世界そのもの。
まさしく無形であり有形の原初の神。
ソレこそが、“異なる世界を生み出した”至高の一柱。原初神“混沌”であった。
『ていや』
もう、権能とか技とかそんなものですらない。“混沌”からすれば手のひらを握る程度の動作。
黒い世界が質量を持って、残った魚を全て握りつぶした。
それで全ておしまい。小魚程度、態々“混沌”として相対する価値すらなかった。
「だから全員で行く必要ないって言っただろうが“混沌”。俺が一人でぱぱっと片付けたら、それで済んだじゃねえか」
「“時間”は分かってないなあ。折角原初神ジャーが全員揃ってるのに、一人で出動するとか許されざるよ」
原初神達が人の姿に戻る。
若干短気な“時間”に、“混沌”はこれだから駄目なんだと首を横に振る。
異なる次元からの侵略者達を捉えた原初神達は、これを迎え撃とうとしたが、一人行けば十分だった。それなのに“混沌”は、原初神が全員揃ってるんだから皆で行こうと提案して、魚達にとって悲劇が訪れたのだ。
「と言うことは、私がレッドでリーダーか。なにせ“火”だからな」
「“宙”はどう考えても黒のブラックだよな? “混沌”と被ってるんだが」
「じゃあダブルブラックで!」
「お前と一緒は嫌だ。泥なんだからブラウンとでも名乗ってくれ」
「ひどくね!?」
案外ノリがいい“火”と“宙”が、原初神ジャーとやらの担当を話し合う。だが“宙”は、口を挟んできた“混沌”に拒否と地味な色を押し付けた。
「そ、それじゃあ“無”はホワイトね! “時間”は……時間って何色? ブルー?」
「……」
「おいこら適当に言っただろ。っつうか、色当てとかどう考えても無理に決まってるじゃねえか」
気を取りなおそうと、“混沌”が“無”と“時間”に話を振るが、返って来たのはガン無視とツッコミだった。
「さあ、邪魔もいなくなったことだから、飲みなおそうブラウン」
「そうだな」
「俺ブラウン決定なの!?」
「なに言ってんだ。おら、早くいくぞブラウン」
「……」
「そんな馬鹿な!」
わーわー言いながら、原初神達は元いた“混沌”の自宅に移動する。
だがそれも明日までだ。彼らは再び眠りにつくのだから。
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