歴代最強にしてかつての頂点・先々代“アーサー”
『あ、そうだ! コンスタンティンさん! おまけで墓荒らしが来たら、貴方の魂が戻るようにしておきました! これでちゃちゃっとやっつけられますよね! いやいやお礼は結構ですよ!』
(あのトンデモ存在が言ってたのはこれか)
弟子に対して最後の修業を行い、未練を解消して眠っていた筈のコンスタンティンの魂は、自分の意識が急覚醒し始めたのを感じた。それと同時に、トンデモ存在と名付けた者が、何を言っていたかも実感する。
そのトンデモ存在こと貴明曰く、おまけの親切心で施されたそれは、コンスタンティンの墓が暴かれた際に魂を目覚めさせて、自ら墓荒らしを成敗出来るようにするというものだ。
(そんなことが出来るなら、最初から墓荒らしを消すなりなんなり出来るだろうに……妙なのに目を付けられたな)
コンスタンティンは、ズレた感性で死者の蘇生という禁忌を行われ、魂の状態なのに嘆息する。
(まあいい。墓荒らしは墓の主が退治するとしよう)
そして彼の意識と肉体は完全に合致した。
「なあ!?」
アスタロトが命を落とさなかったのは、奇跡としか言いようがなかった。
偶然、棺の中のコンスタンティンが、自分をギロリと睨みつけたことに気が付いた悪魔が、とっさに仰け反ると、先ほどまで首があった地点を剣が通り過ぎた。
(推定、最上位には劣るが大悪魔か)
コンスタンティンは冷静にアスタロトの力量を測りながら、先ほどまで自分が寝ていた棺から飛び起きた。
「馬鹿な!? なぜ!?」
アスタロトは混乱の極みだ。墓を暴いて遺体を辱めようとしたら、その棺の主が襲い掛かって来たのだから、悪魔が悪夢のような体験をする羽目になっていた。
(疑問を呈する暇があるなら殺せ)
コンスタンティンの意識的な時間では、つい先ほどまで弟子の先代に稽古をつけていたものだから、戦闘中なのに疑問の絶叫をしたアスタロトへ、ついつい心の中で教育的な指摘をしてしまう。
勿論すでに行動は終わっていた。
接近戦を得意とする、殆ど全ての異能者が敬服するだろう。
この一瞬の間で。
間合いも踏み込んだ。
最も刃が通りやすい線も
剣を振り終えていた。
「あ?」
首を切り落とされたアスタロトが呆然とした。
いくら突拍子もない奇襲をされようと、それでも名高い悪魔のコピーが、何もできず一方的に切り捨てられたのだ。
(これで死なんか)
しかし、コンスタンティンはアスタロトの命を断っていないことに気が付いた。
『舐めるなよ死体風情があああああああああああ!』
アスタロトが叫ぶと、体が首を取り込んでぐにゃりと歪み、特鬼に匹敵する悪魔としての真の姿を見せつけた。悪魔のアスタロトは、ドラゴンに跨り右手に蛇を持つという。
その恐ろしき姿を見よ。
アスタロトの頭は再び首から切断され、どんな名剣をもはじき返すドラゴンの頭は地面に落ち、毒をまき散らす蛇もまた、同じように頭が宙を舞っていた。
『え?』
宙を舞うアスタロトの頭が、更に縦に両断され呆然とするが、誰が悪魔の変身を悠長に待つというのだ。歪んだ肉塊から頭が出て来た時点で、その全てをコンスタンティンは切り捨てた。
『おぎ!? ぎぎっぎゃああああああああああああああ!?』
(まだ上があるだと?)
ここで初めてコンスタンティンは驚きの感情を覚える。完全に死に体である筈のアスタロトの体が、激しく痙攣して力が増し始めた。
(これは……よくないナニカだ。なら使うか)
その高まる力に嫌なものを覚えたコンスタンティンは、生前に理論上は出来ると判断して、一度だけ使用した己の切り札を切ることにした。
ほんの一秒未満だけ、当時間違いなく世界最強だったその力を。
復活したばかりで弱りに弱っていたとはいえ、白き竜をバラバラにした力を。
(十二剣発動)
一瞬。本当に一瞬だけ、コンスタンティンが十二人存在していた。
怨を返す犬が忍者となって使った分身の術を、子供の遊びに貶めるその業にして技。
人間ではないのではと思われていた霊力のみならず、生命力を全て注ぎ込んで編み出した、コンスタンティンと全く同じ技量の、同一個体と言える分身体が十一体。
『ぎ!?』
(消えろ)
そして本人を合わせて十二のコンスタンティンが、嫌なナニカの力で高まっていくアスタロトを同時に切り捨て分割し、圧倒的な霊力で完全に押し潰して消滅させた。
余力がなかった生前はこの霊力で押しつぶすことが出来ず、分割した白き竜を封印することになったが、結局白き竜が封印内で消滅したことを考えると、この業こそが実質的に白き竜を葬った十二撃だった。
圧倒的としか表現できない。いくら剣の間合いに最初からいたとはいえ、それでもアスタロトが一方的に敗れてしまった。
だが、コンスタンティンは……イギリスの誇る最強の代名詞なのだ。
彼こそが、その最強の名を冠しながら、なお歴代最強と謳われ畏れられた男。
先々代“アーサー”であった。
そして残念ながら、生前のコンスタンティンの死因はこの十二撃で生命力を燃やしたためで、彼は弟子の先代に看取られながら死去することになった。
が。
(あのトンデモ存在。俺に何をしたんだ?)
今のコンスタンティンの魂は、限界のあった生前とは少し違う。上限が減って先程の業はもう使えないが、それでも普通に活動できる状態が維持されていた。
「げっ!?」
「せ、先々代“アーサー”!?」
「また死者が復活したのか!?」
「奇跡の日からどうなってんだ!?」
コンスタンティンが自分の状態を確認していると、遅れて彼の墓を守ろうとしたイギリスの異能者達がやって来た。しかし、彼らが見たのはその墓の主が突っ立っている光景なのだから、驚くのも無理はない。
驚きで済んだのは、今年に入って大規模な実例があるからだが……。
「やっぱりな! この死にぞこないの馬鹿師匠め! またか!」
「うるさいぞアホ弟子。状況は?」
その異能者の中には、なにがなんでも師の墓を守らなければとやって来た、先代アーサーもいたが、ひょっとしてあの馬鹿師匠、飛び起きて自分で何とかしてるんじゃないだろうな? と疑っていたらまさにその通り。
余談だが、コンスタンティンの切り札は、生前の使用は確かに一度だけだが、死後は二回使用しており、その一度目は先代が受けていた。
「ルキフグスの契約者が、白き竜を過去か、あんたに勝った別次元から連れてこようとしてる! 狙いは時計台、天文台、それとあんた!」
「今代は?」
「別の場所でバエル、アガレス、フォカロルと同時にやりあって勝っとるわ! 今ロンドンに向かってる!」
「それでこそ“アーサー”だ。俺からも伝えることがある。特徴からアスタロトだと思うんだが、そいつを殺した。だがそれとは違う妙な力を感じた。全員に注意するよう伝えろ」
「分かった……今伝えた」
「よし。俺もロンドンに向かう」
「言っておくが、あんたが燃えでもしたら大事になるんだからな!」
「誰に言ってる洟垂れめ」
やるべきことは抜かりなく行う“アーサー”達だが、そのやり取りはまさにかつて、先々代が存命で、先代が若かりし頃そのままだった。
そして、ロンドンに“アーサー”が集う。
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