破曲

 やって来ました博物館。もうパンフレットを見ただけで圧倒されるな。なにせ太陽の沈まない国が集めてきた展示品なのだから、じっくり見るなら一週間は必要なレベルじゃねえか?


 そんな博物館だが、特に目を引く一角がある。


「これは……歴代の“アーサー”に関するものか?」


「だね」


 藤宮君の言葉通り、ズラリと並んだ剣や服、肖像画から写真まで、全てが“アーサー”の名を冠した騎士達に関わりのあるものだ。ここの説明によると、少なくとも大航海時代には、イギリス最強の霊力者は“アーサー”の名を送られていたようだ、そして彼らの所有物は異能が表に出るまで、隠された専門の機関が保管していたらしい。


「だが流石に武器や防具はレプリカだな」


「特級の力を宿しとるやろうからなあ」


 マッスルとチャラが、展示物には何の力もないことを話している。世界に君臨したイギリスの“アーサー”が使っていた武器、防具なら、当時で世界最強の性能を誇っていた筈。というか、昔の方が神代の匂いが残っている遺物を見つけやすいことを考えると、大分やばい物だから、そんなものは博物館に貸し出せないだろう。


「でも確か、歴代最強って言われてた先々代の剣は、単なる西洋剣じゃなかった?」


「はいそうです佐伯お姉様。先々代の技量でエクスカリバーとまで言われていましたが、特別な力は宿っていなかったようです」


「そりゃあとんでもない人だったんだねえ」


 佐伯お姉様がコンスタンティンさんのコーナーを見ながら、置かれてる剣を見ている。でも佐伯お姉様達は、そのとんでもない人にしごかれましたよ。


「やっぱりどこかで……」


 橘お姉様がコンスタンティンさんの写真を見て首を傾げている。


 だ、大丈夫だ。指導員コンスタンティンさんの顔は別人だから気づかれない。筈。


 しかし、コンスタンティンさんが、博物館に飾られている自分の写真と私物を見たらどう思うだろうか。くっそ嫌そうな顔をするのは間違いないか。


「ならこの剣だけは本物か?」


「いや、レプリカって書いてあるよ」


 常識人にこの剣もレプリカだと教える。

 本物は劣化しないよう特殊な処理が施されて、コンスタンティンさんの棺で共に眠っているから間違いない。おっと、これは殆どの人が知らない事だった。


「では12時にまた入り口で集合しよう」


「了解!」


 マッスルに敬礼して答える。

 展示品が多すぎるため、それぞれ見たいものが違うので自由行動することになっていた。


「じゃあ行きましょうかあなた」


「はいお姉様!」


 そして俺が一番見たいのは当然……ロゼッタストーン!


 いやあ、紀元前のエジプト物は格が違うから見たかったんだよなあ。しかし、妖異を吸い込んだ都市伝説のあるロゼッタストーンなのだから、俺も細心の注意を払う必要がある。


 という訳で、純度100%の人間形態でお姉様と一緒に、ロゼッタストーンさんの前立つ!


 清く正しい邪神です! あ!? 邪神て言っちゃった!


 清く正しく親切で気遣いの出来る、非の打ち所がない人間です!


 よし通れ!


 ちょろいわ。ロゼッタストーンはうんともすんとも言わない。所詮は都市伝説か。


 そんでもって、まだ色々見る必要があるから、いつまでもロゼッタストーンのコーナーにはいられない。次行ってみよう。


 だがまあ……。


 邪神と分かった上で俺を人間だと思ってくれたんなら……ありがとよ。


 ◆


 昼飯を食べるために一旦切り上げ、再び博物館を見学していたら、あっという間に夕方になっていた。


 やはり人類の歴史を集めた一大拠点だ。見るもの全てに感動してしまった。ちょっと……大分俺と相性が良すぎるのもあったけどな!


 今度はイタリアにも行きたい。ガリレオ・ガリレイ所縁の物品を見たら、テンション上がりすぎて気絶する自信がある。いや、イタリアだけじゃない。ギリシャや他にもたくさん行きたい国がある。ヨーロッパには、人類のステージを押し上げた奴が多すぎるんだよ。


 そんでもって明日の夕方、飛行機に乗って日本に帰ることになっている。そのため、観光できるのは明日の昼までで、その際は各自自由行動だ。


「明日、俺はプロテインとサプリの専門店に行く」


 ホテルで夕食を食べていると、マッスルが明日の予定を口にしたが、そんな店あるのかよ。ここアメリカじゃなくてイギリスだぞ。


「ワイはクロトーちゃん、ラケシスちゃん、アーちゃんのお土産をもう少し見に行くな」


 もう少し? チャラ男よ、もう大分買ってなかったか?


「ボクと栞もちょっと買い物」


「……ええ」


 佐伯お姉様と橘お姉様も買い物のようだ。しかし、若干橘お姉様がそわそわしているところを見るに……はっ!? 恐らく本場ドイツから流れてきた、テディベアを買いに行くのでは!?


「俺は親から、傘下グループの様子を見て来いと言われてる。全く。観光に来ていたはずなんだが、こんな機会じゃないと海外の様子を見に行けないからな」


 はわ、はわわわ……藤宮君は御曹司としての仕事があるらしいが、流石は藤宮グループだ。イギリスにも系列の会社が存在しているとは。


「私、明日の朝はスーパーに買い物しに行くから」


 流石は厚化粧だ。イギリスにまで来てセール商品を狙うとは、オバハンの鑑としか言いようがない。


「弟子のアーサーが、博物館に飾るアーサー一門の物品を持ってきてたのよ。そんで閉店売り尽くしセールしてる店を教えてって言ったら、天文台の近くに一店あるみたいだから、案内してくれるってさ」


 もうここまで来たら、どう突っ込んでいいか分かんねえよ馬鹿……。


「俺と小百合はデートだから」


「……」


 何気なしに言ってもそうはいかんぞ常識人。東郷さんの方見てみろ。顔真っ赤じゃん。


 さて、クリスマス直前で、最高一歩手前まで煮詰まってる日本の蓋を開けとくか。


 言っておくが嫉妬は世界を滅ぼせるぞ。


「私たちもデートだから。ね、あなた」


「はいお姉様!」


 そうだった。俺もお姉様とデートだった!


 よかったですね世界の皆さん。危うく日本の怨念が世界を滅ぼすところでした。


「ご馳走様でした」


 お腹一杯で僕満足。


 さて、今日も歩き疲れたから早く寝ないと。清く正しい邪神は、睡眠時間もまた正しいのだ。


 さあ! 明日は観光最後の日だ!


 地球最後の日にならないといいですねイギリスの皆さん! これが邪神ジョーク!


 ではおやすみなさい!


 ◆


 おはようございます! 地球最後の日なんて来る訳ないよなあ!


 それじゃあ今日も楽しんで観光しよう!


 最後の日じゃなければ! これも邪神ジョーク!


 ◆

 ◆

 ◆

 破局

 ◆

 ◆

 ◆


 ま、マズいマズいマズいマズい! 完全に親父が出て来ないといけない案件じゃねえか! 勝てるか!? いや、勝たないと冗談抜きに宇宙が消し飛ぶ!


「くそったれがあああああアアア! 第三形態変身んんんンンンン!」


 ◆

 ◆

 ◆

 ◆

 ◆

 ◆イギリスの警告


 緊急事態!緊急事態!緊急事態!


 場所は時計台! 天文台! 先々代“アーサー”の墓所! 至急急行せよ!


 “司書”達が遮蔽を見つけた!


 まだレメゲトンのページは盗まれていた!


 序列二十九位アスタロト! 序列三十二位アスモデウス!


 なにもかも出し抜かれた! ルキフグスの狙いは白き竜なのは間違いなかった! 問題は方法だ!


 未来と過去を見通すアスタロトと、天文学や秘術を修めたアスモデウスで、しかも両方とも竜に跨っている!


 恐らくルキフグスの奴は白き竜を死ぬ前の過去からか、最悪の場合、先々代に打ち勝ってイギリスを滅ぼした世界線の、赤き竜に勝利した白き竜を連れてくるつもりだ!


 なら狙いは三つ!


 世界で最も有名な時計の時計台! 時間の起点である天文台! ここで過去を観測して介入するつもりに違いない!


 そして先々代“アーサー”の遺体! これを辱めることによって、白き竜の死因を取り除き弱体化を防ぐ筈!


 何としてでも守れ! 万が一にも完全な白き竜が現れれば、ヒュドラ事件の再来になる! いや! ごちゃごちゃになった時間軸と歴史が、世界を滅ぼす可能性さえある!


 っ!?


 全イギリス異能者への動員令が発令された! これより我々は戦時体制に移行する!


 役割を全うせよ! 忠義を尽くせ! 女王陛下とイギリスに栄光あれ!


 ◆

 ◆


 その警告は少し遅かった。


 某所 先々代“アーサー”コンスタンティンの墓。


「死後100年近くありながら、霊力の残滓が作用して腐敗もしていないとは、本当に人間だったのか? まあいい。手早く燃やして、時計台へ向かわねば」


 コンスタンティンの墓を暴く禁忌を侵している、浅黒い肌を持ち髪は後ろに流れている男は、一見人間に見えて人間ではない。レメゲトンのページから生み出された、過去と未来を見通す力を持つとされるアスタロトだ。


 逆カバラの悪徳が契約している、オリジナルのアスタロトに比べて劣っているものの、それでも単に精鋭と呼ばれる者達では全く歯が立たない強力な存在である。その上、写本特有のメリットを持ち、もし打倒されてしまってもページは燃え尽きることなく、暫くの時間が必要だが再度使用できた。しかも、ページはアスタロトと全く別の場所にあってもいいのだから、使いやすさと言う点ではオリジナルより勝っているかもしれない。


 そんな悪魔は、強力過ぎた霊力の残滓で腐敗を起こさず、墓の中で剣を抱えて眠っているような、コンスタンティンの遺体を燃やすつもりだった。これによって白き竜の死因を取り除き、より完璧な状態で復活をさせることが出来るだろう。


 しかしながら……やはり劣化コピーは劣化コピーだった。いや、過去の白き竜を見るために調整されたからこそ、すぐ先の未来でなにが起こるかを見通せなかった。


 四葉貴明が以前イギリスに訪れた際、それはもう本当に単なる思い付きで、コンスタンティンの墓が暴かれた場合に自動的に発動する、余計なことをしていたのだ。


 遺体が、コンスタンティンが、アスタロトを……


 “アーサー”がブリテンに仇なすものをギロリと睨みつけた。




 ‐ブリテンの危機に


 アーサー王は


 蘇る‐


 イギリスの伝説




あとがき


貴明が常識人と東郷さんに五月蠅いのは理由があるので、もう少しお待ちください。

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