観光初日終了!

 夜になりホテルに戻ってきたが、いやはや流石は大英帝国の首都だ。旅行中に全部の観光地を回り切れないなこりゃ。


 そしてお土産はもう買った。一に紅茶、二に紅茶、三四が無くて五に紅茶の国だから、当然紅茶とお茶菓子だ。帰ったらお隣の村田さんにも持っていかねば。


「いやあ、ヨーロッパのクリスマスムードはすごいなあ」


「そうだね木村君」


 ホテルのレストランで夕食を食べていると、チャラ男がロンドンの雰囲気について感嘆し、俺もそれに同意する。年末年始が近いということは、クリスマスも近いということだ。ロンドンの街にはサンタ、イギリスではファーザークリスマスと言うらしいが、街に溢れていた。


 ついでに言うと、日本でも色々溢れているため、今の俺はスーパー貴明スリーになれそうだ。ん!? この念は、クリスマスが誕生日だったから、プレゼントとケーキを一緒に済まされて損した者達の念だ! な、なんて強力なんだ!


「明日は博物館だね」


「ええ。一日で終わるかしら?」


「無理かもねえ」


 上品に食事をされている佐伯お姉様と橘お姉様が、明日の予定について話している。明日行く博物館はとにかく広く、どこかのタイミングで切り上げる必要があるレベルだ。


 それにしても、ゾンビ達も一応名家に生まれているから、食事の仕方が上品だ。まずいぞ。邪神流テーブルマナー術なんてものはないから、俺だけドがつく庶民丸出しだ。幾ら四葉家に兆年の歴史があろうと、初代がビール飲んで机に突っ伏してるんだから仕方ないけど。


「冷静でいられないかも」


「それってどういう意味!?」


 食事の仕方が上品でも、東郷さんから突っ込みを受けた厚化粧の感性が変わるものじゃない。高価な物に囲まれて正気を失う可能性がある。


「星のダンベルが手に入れば、俺の死後に寄贈するんだがな」


「死後って言うことは使うのかよ」


「当たり前だ」


 一方、マッスルはもう片方の突っ込み役である常識人に呆れられている。だから、後世の考古学者が、誰が何のためにって真剣に発狂するんだよ! その答えが単なる筋トレなんだから尚更だ!


 しかし、死後に寄贈か。俺も学園に色々寄贈してあげよう。俺が死ぬまでに学園が残ってるならの話だが……かなり微妙だな。何と言っても、真の意味で俺が消滅することはほぼ無い。自分で死と定義した眠りにつけるが、いつでも起きられるだろう。なら、学園を保全する方向で……蜘蛛君に管理人をお願いして……遥か彼方から外敵がやってくるかもしれないな。人類の命への保険も寄贈しておこう。


「思ったより街に手練れが多かったわね」


「それは思った。やはり騎士の国と言うことなのだろう。詰め込まれた買い物袋を持っていた中年男性や、世間話をしていた女性も見事なマッスルの持ち主だった」


 ニタニタ笑いをされているお姉様にマッスルが同意した。


 流石は大英帝国の首都ロンドン。俺たちの様子を監視している調査員ではない、本当に単なる日常生活を送っている人間が、思いもよらぬ戦闘力を保持していることが多かった。なにせ異能学園に来ていた先代アーサーも、苦労性なお爺ちゃんにしか見えないのだから、全員が日常生活に溶け込むのは朝飯前なのだろう。


「どの程度だ?」


 手練れという言葉に、夕日を後ろに殴り合ってアーサーと握手するような関係を築いた藤宮君が反応した。


「準単独者……よりかは少し下だな」


「むう……」


 少し悩んだマッスルの答えに、藤宮君が何とも言えない顔になった。


 日本が異常なだけで、非鬼を一人で殺せる単独者には及ばない準単独者、更にそれよりもう少し下なら、世界的に見たら十分精鋭だ。そんなのが、奥さんに買いすぎだろと言いながら買い物袋を持っていたり、井戸端会議をしていたのだから、何とも言えない顔になるのは分かる。


「ご馳走様でした」


 皆と話しているうちに気が付けば完食。大変美味しかったです。


「流石に疲れたね」


「ああ」


 藤宮君が頷く。朝に到着して、そのままロンドンを観光する過密スケジュールだから疲れた。


「女子会を開催予定だったけどボクも眠い」


 それは佐伯お姉様も同じだったようで、目を擦っている。


「では解散と言うことで」


 全員の食事が終わるとマッスルが解散を宣言して、今日の一日は終わった。


 そして良い子はもう寝る時間だが、残念ながら学生として旅行に来ているので、お姉様と一緒の部屋にはいられない。俺は真面目なのだ。という訳で寝る! 皆お休み!


 ロンドンの皆さんまた明日!


 明日があれば! これが邪神ジョーク!


 ◆


 何事もなく起床! 当たり前だよな!


 さあ! 今日も楽しんで観光しよう!


 今日があれば! これも邪神ジョーク!
















 ◆唯一名もなき神の一柱


 だから、アレはルキフグスの契約者っていう人間が原因で現れようとしてて、人間に対処できる範囲だから、俺はなにもしないってば!


 え? じゃあこっちはどうするんだって?


 それも言ったけど行くだけは行くよ! 早口過ぎて何言ってる分かんねえんだけど! それと吸い込まれそうだからじっと見るのは止めて!

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