観光???

前書き

建物の固有名詞は扱いが微妙みたいでぼかしてます……





 バスでやって来ましたロンドン郊外の天文台。かつての本初子午線を通る、世界で最も有名な天文台の一つだろう。現在では別の国際基準が設けられてちょっと違う場所を通っているが、それでも本初子午線と言えば昔のグリニッジ子午線だな。


 そして俺達がいるのは、そのかつての経度0度0分0秒の真上にして世界時の基準。ある意味で世界の中心にいると言って過言ではない。


 そう言えば、親父は現在、過去、未来の全てで同時に存在しているようだから、本初子午線の上にズラっと並んでいると言えるのでは? 正気度が無くなるから、これ以上考えるのは止めておこう。一人でも世界は持て余してるのに、そんな大量の親父がいれば今度こそ胃の剣は死ぬだろう。


「プロテイン摂取のゴールデンタイムはここで決められたのか」


「そんなわきゃないよ」


 断じてマッスルがいるプロテイン世界の基準ではない。佐伯お姉様が突っ込まなかったら、そのまま納得してしまっていたが……。


「天文台ねえ。藤宮のとこは宇宙開発とか旅行の部門あるのか?」


「いや、流石に無いな。話自体は何度かあったようだが、簡単に手を出せるものじゃないと、その度に見送っているようだ。それは佐伯のところも変わらないだろう」


「その話し合いがあったってだけで引いちゃうんだけど……」


 常識人が雪が降っている曇り空を見上げながら、大企業の御曹司である藤宮君に質問したが、その答えに東郷さんが引いている。た、確かに宇宙開発に参入するかの話が持ち上がるだなんて、藤宮グループも佐伯グループもヤバすぎる!


「星でできた宝石が付いた指輪とか隠してそうじゃない?」


「そんなことは……無い……とも言えないかしら?」


「でしょ?」


 何かを探るように天文台を見ている厚化粧の言葉に、橘お姉様が言葉を詰まらせた。これだけ歴史ある国の天文台なのだから、何かの秘術で生み出した、星でできた宝石が付いた指輪が隠されていてもおかしくない。


「その指輪があったとして、どうするつもりなんやろ……」


「だよね……」


 小声で話しかけてきたチャラ男に頷く。今の厚化粧の目は、半額シールを見つけようとするオバハンの目だ。万が一それが存在して見つけた日には、国際問題一直線になるだろう。


「作ってあげましょうか? 星でできた宝石が付いた指輪。お金はいらないわよ」


「パス。持ってるだけで命を狙われそうな、ヤバいのでしょ」


「あら。どうして分かったのかしら」


「その顔よ」


 ニタニタ笑いをされているお姉様の提案を厚化粧が即断った。

 安倍晴明は占星術師として七星剣を再鋳造した上、お姉様は星の力を持っているのだから、星でできた宝石を作ることくらい朝飯前だろう。そして厚化粧が言うように、世界中の裏社会が血眼になって追い求めるような、力を秘めている一品になるのは間違いない。


「……ちなみにだが星でできた」


「ダンベルは無理ね」


「そうか……」


 何かを思いついたマッスルが最後まで言い終わる前に、お姉様はきっぱりと断言した。星でできたダンベルとかなんで必要なんだよ。もし作り出されたら、後世で世界中の考古学者が発狂するぞ。


「じゃあ写真を撮ろうか!」


 一通り天文台を見終えて、ここでも集合写真を撮ることにする。


 当然、全員がグリニッジ子午線の上に立ってだ。


 カシャリ。


 また一枚、アルバムに収める写真が増えた。

































 ◆


 イギリス某所 某諜報機関


『君に対して、機密指定の情報が一部解除された。これは本当に極限られた人物しか知らないため特に注意するように』


『はっ』


『実のところ、組織内ではルキフグスの目的はある程度推測が出来ているが、私が話す前に君の推測を聞こうか』


『はっ。ルキフグス自身はルキフゲ・ロフォカレとして魔術書【赤い竜】にその名を記載されています。そしてバエルだけではなく鰐に乗ったアガレス、水を司るフォカロルのページを奪取したことを考えると、目的は伝説において水の中で“赤き竜”と争っていた“白き竜”の封印を解いて、コントロールすることではないかと』


『うむ。では機密指定の情報を伝えよう』


『はっ』


『白き竜はな、先々代アーサーに封印された数年後に、封印内で力尽きて消滅している。元々無理な復活で弱り切っていた上に、“アーサー”の名前に負けたことが止めになったようだ。つまり、封印を解除しようにも、白き竜はどこにも存在しないのだ。別に機密指定されている、白き竜の封印地と封印の解除方法も嘘だ』


『……罠ですか? イギリスを混乱させようとする者達が、白き竜の封印を解除しようとするのは目に見えている。だから敢えて消滅したという事実を隠して、封印について探し出そうとしている者を見つける、と……』


『そうだ。これはかなり上手く機能してな。東側のみならず西側諸国が送ってきたスパイも引っかかった。彼らは宝物だと思っている情報を持ち帰り、我々はそれを持ち帰った組織、人員をリストにまとめて、今も秘密裏に監視している。まあこれはいい。今重要なのは、ルキフグスの計画が前提からして不可能ということだ。しかし……』


『しかし?』


『ルキフグスと思わしき人間が、偽の封印情報にアクセスしたことも確認が取れているが……ここからは長くこの世界にいすぎた老いぼれの勘だ。あまりにも状況が我々手の中で収まりすぎる。封印を解こうとやって来たルキフグスを確実に仕留めるため、今代アーサーを含め手練れが出撃することになっているが、これは奴の計画の内なのではないか?』


『陽動? 真の目的は……警備が薄くなったタイミングを狙い、イギリスの中枢を襲撃することですか?』


『いや、違うと思う。それは大混乱するだ。もっと、もっと何か恐ろしい企みが蠢いている気がしてならない……君も気をつけていてくれ。悪魔とは、繊細に行動することもできれば、時に馬鹿げたほど大胆なことをしでかす連中なのだと』


『はっ……』

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