空港での一幕 いざロンドン!

 ついに迎えた冬休みにしてイギリス旅行の日。


 うん。イギリスなんだから、やっぱり時計台は是非見に行かないとな。本初子午線の上に立ちたいから天文台もだ。流石大英帝国にして太陽の沈まない国。観光名所が多すぎて全く時間が足りない。


 おっといけない。ついパンフレットを見入ってしまった。キャリーバッグに詰め込んだ荷物を確認しないとな。


 枕よし! 旅行にマイ枕は必須だ!

 アイマスクと耳栓よし! 俺は気が細いから、飛行機の中で寝るとしたら必須だ!

 写真よし! 旅行だから当然必須!

 当然航空チケットもよし!


 その他諸々全部よおおおおし!


 そして服は12月のロンドンに合わせて重装甲のジャンパー!


「行きましょうお姉様!」


「ええ」


 薄い茶褐色のニット帽を被って、モコモコなジャンパーを着たお姉様超プリティーあいてっ。でへへ。


 これから俺とお姉様は、空港でチームの皆、ゾンビ達、そしてイギリス校と合流するのだ!


 ◆


 やってきました空港前。


「これが許可証付きのチケットになります!」


「確認致しますので少々お待ちください」


 空港前のゲートにいる係員にチケットを渡す。異能者は空港の敷地に入る前に、必ず許可証を提示しないといけない。もし無許可で侵入したらかなりの重罪になる。


「確認できました。良い旅を」


「ありがとうございます!」


 イギリスが保証して発行したチケットだから、俺とお姉様も全く問題なし。


 おっと、皆は既に敷地に入っていたようだ。


「おはようございます!」


「いやあ楽しみだねえ」


 機長がよく掛けているようなサングラスを頭に掛けた佐伯お姉様が、いつもの余裕ある笑みを浮かべられている。ジーンズと合わさりすげえカッコいい。


「……ええ。そうね」


 真っ白なマフラーを巻いた橘お姉様が、飛び立つ飛行機を感動したように見ている。普段の少し儚い様子はまるでない。


「空港も久しぶりだな」


 藤宮君の服装は普段から虹色を見ているせいで、黒を好むようになったため黒一色だ。そして異能に目覚める前はよく海外旅行をしていたようで、空港が懐かしいようだ。


「イギリスで作られたプロテインをイギリスで飲む。これぞ地産地消」


 訳の分からんことを言ってるマッスルは、半袖だから流石と言う他ない。お陰で見たくもない前腕筋を見せられている。


「クロトーちゃん、ラケシスちゃん、アーちゃんにお土産買わんと」


 訳の分からんことを言ってるチャラ男は、黄色のニット帽、ジャンパーの下は黒いセーター、白い手袋と、いつぞやのある意味完全装備だ。あれ脱げるのか?


「イギリスのチラシはここにおいてないの?」


 訳の分からんことを言ってる厚化粧は、普段以上の厚化粧で眩しい。ああなるほど。顔を防寒してるんだな。そうだと言ってくれ。


「これもデートって言えるのか?」


 訳の分からんことを言っている常識人は、普通の防寒着だから常識人と言うしかない。


「え? そ、そうかも」


 訳の分からんことに同意している清楚美人東郷さんは、普通の防寒着ぎぎぎぎぎぎぎぎゃばら!?


 うん? おっといけない。全員集合したんだから、イギリス校と合流してお礼を言わねば……いや、いい加減現実を直視しよう……常識人め、クリスマスは覚悟してろよ。ハッキリ言ってバレンタインデーとクリスマスの俺は、日本最強だと自信を持って言えるからな。しかし、今の俺はそうでもないかなあ。でへ、でへへ。


 ああ来た来た。イギリス校がバスに乗って空港にやって来た。


 降車し始めたので俺達全員が近づく。


『今日はありがとうございます』


『いやいや。寧ろあまり日を確保できなくて申し訳ない。異能者を管理しているところの頭が固くてね』


『いえ、感謝しています』


 招待されたのはマッスルだから、彼がイギリスの代表にお礼を言って、俺達全員が頭を下げる。


 招待したこと自体は俺達を調査するための筈だが、イギリスで異能者を管理している部署がいい顔をしなかったのは本当だろう。どこの国も、他国の異能者という戦車が、フリーで歩き回っている状況は嫌なのだ。


 だがどうして先代アーサーはお姉様をちらちら見てるんだ? お姉様ほど優しい人が、イギリスで何か騒ぎになるようなことをする筈ないのに。そう、俺もお姉様も、今まで数々の大事件を解決してきたのだから寧ろその反対だ。


『ではチェックインを済ませてしまおう』


『はい』


 教員の言葉にマッスルが頷いた。

 さあて! ついに我々は空港のロビーに足を踏み入れる!


「これが……空港のロビー……」


 旅行鞄を持った家族連れやビジネスマンが行き交うロビーに入った橘お姉様が、そうポツリと呟いた。気のせいか、ほんのりと頬が赤い気がする。


「意外な一面だ」


「そうでもないさ」


 普段とは全く違う橘お姉様を見た藤宮君が意外そうにしているが、橘お姉様と親しい佐伯お姉様が否定した。そういえば俺が以前、ゴキブリ退治のため橘お姉様の部屋にお邪魔したがことがあったけど、部屋にはクマさんのぬいぐるみが溢れていた。いけないいけない。俺はあの時何も見なかったんだ。


「問題がある。俺のマッスルは金属より硬いから、金属探知機に引っかかる可能性がある」

「ちょっと叩かせてくれ。ああこれは引っかかるな」

「あらへんあらへん」

「はいこれ。ロンドンのお勧めデートスポットをまとめた紙」

「そんな気を利かさなくていいから!」


 馬鹿達は普段通りの馬鹿だ。


 チェックインを終えた俺達は、保安検査場に移動したが、俺がここで引っかかる訳がない。全人類を呪殺できるような奴のどこに、引っかかる要素があるって言うんだ。


「次の方どうぞ」


「はい!」


 無害な邪神です!


 よし通れ!


 ほらね何の音もならなかった。大体、特別措置でイギリス校が持ち込んでる剣の方がよっぽど危ないからな。


「次の方どうぞ」


 さて、これでマッスルが通ったときブザーが鳴ったら、笑い死ぬ自信があるが……。


「鳴らないとは……つまり鍛え方が足りないということか」


 無事通過できて何よりだ。


 それより、ど、ドキドキしてきた。空港の敷地に入ったときは落ち着いてたけど、これから飛行機に乗るって考えたら……!


 いや大丈夫だ。まだ搭乗時間まで時間がある。それまでに落ち着こう!


 ◆


 ひっひっふー! ひっひっふー!


「貴明、大丈夫かい?」


「大丈夫です!」


 佐伯お姉様には大丈夫だと返事したものの、全く落ち着けねえ! だが飛行機に興奮するのは当然だ!


「栞も大丈夫?」


「……」


「駄目だこりゃ」


 現に橘お姉様は、佐伯お姉様の呼びかけが聞こえていないくらい、ガラス越しに飛行機を見ている!


「搭乗時間のようだ。行こう」


「了解!」


 藤宮君に頷く。

 イギリス校が搭乗口に移動し始めたので、俺達も飛行機に乗り込むぞおおおおおお!


 係員にパスポートとチケットを見せ、ボーディングブリッジってのを渡りいいいい!


 やって来ました飛行機の中だああ! ズラリと並んだ客席を見ただけでテンション爆上がり!


 だが……それにしても信じられねえ。こんな座席が一杯で、大勢の人間が乗り込んでる金属の塊が空を飛ぶなんて。やはりライト兄弟は偉大だった。


「やっぱりテレビ越しで見るのと、実際に見てみるのは少し違うわね」


「ですねお姉様!」


 お姉様も興味深そうに機内を観察している。そして偶然にも俺とお姉様の席は隣同士である。


 どうやらチケットを手配してくれた奴は有能みたいだな。


「……」


 なにせ橘お姉様の席は、窓際で翼が見える位置なのだから有能すぎる。そしてその完璧な座席に座った橘お姉様は、食い入るように窓から翼と外の光景を眺めていた。


「いいことを思いついたわ」


「ジェットエンジン付けてもボクは生身だからね」


「ふふ。どうして分かったの?」


「ふっ。慣れさ」


 お姉様に強化プランを提案された佐伯お姉様が、肩を竦めながら安全のしおりを確認している。


「ガムいるか?」


「サンキュー。一つ貰うな」


 藤宮君が常識人にガムを渡している。


「鉄分をとれば、金属探知機に引っかかるくらい鍛えられるのか?」


「その筋肉はどこへ行こうとしとるんや」


 マッスルのボケに、チャラ男が突っ込む。ボケだよな?


「なんか、アーサーが優子のこと見てた気がするんだけど」


「カルチャーショック受けてるだけだから、気にしなくていいわよ」


 東郷さんも、空港でアーサーがちらちら厚化粧を見ていたことに気が付いていたらしい。だがあれは男が女を見る目ではなく、純粋に興味があるから目で追ってしまった感じだ。


 お? 飛行機が動き出した!


 そしてゆっくりゆっくり滑走路に向かい到着。エンジン音が大きくなるにつれて、俺のテンションも更に上がっていく! 背中が背もたれに押し付けられ加速を実感する! そしてえええええ!


 ……飛び立った。


 見てるかライト兄弟。あんたらの翼はここまで来たぞ。

 見てるかニュートン。人は引力にこうも抗ってるぞ。

 人は、空に、そして宙に届いたんだ。


 ……そしてこのメンバーで向かうは、大英帝国の首都ロンドン!


 世界で最も偉大な都市の一つが俺達を待っている! 今、俺達が行くぞおおお!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る