アーサーの対犬体験

 さて、流石の俺も邪神流飛行機操縦術は取得してないから、スマホで勉強する必要がある。お客様の中にパイロットはいませんかと言われて、手を挙げるのは誰だって考えたことのあるシチュエーションだろう。なんか、親父は前の世界で飛行機の運転免許所得してたらしいけど、大邪神が操縦する飛行機とか絶対乗りたくねえ。


 ふむふむ。え!? ファーストクラスより上のランクが存在するのか!? 値段は……げっ!? なんだこりゃ!?


「始まるようだ」


 おっといけない。藤宮君の声に我に返る。

 ここは訓練場の観客席で飛行機の中じゃない。これからイギリスの一年生徒と、我が帝国の誇る武術指南役、犬君が戦うのだ。そしてトップバッターはアーサーだから、藤宮君の目力が凄いことになっている。


『起動します!』


 英語で宣言した学園の教員の声と共に、ぼふんと犬君が現れた。


 見るがいいイギリスのルーキー達! 鎧甲冑を身に纏い、刀を握りしめたブルドッグの凶相を!


『な、なんだあれは?』

『ブルドッグがオリエンタルな装備を……』

『ええ……』

『可愛い……』


 あれえ? おっかっしいなあ。ルーキー達は犬君の凶相を恐れず困惑している。って最後に可愛いって言った奴! それ犬君には禁句だから! いや、英語だから犬君には通じてないか。


「バウバウバウ!」

『今誰か可愛いって言った気がするううううう!』


 通じてしまったあああああ! 流石は豆柴フェイスの時、可愛い顔って言われただけで恨み値100を叩き出した犬君だ! でも心の声は変わらず可愛らしいままだよ犬君!


「バウバウバウ!」


 そして怒りと怨念を込めた刀をアーサーに振り下ろした! 殺ったか!?


「バウ!?」


 あ、駄目だわ。犬君の刀は、アーサーの剣と打ち合うどころかいなされてしまった。今の犬君はあくまで学生様に調整されているから、ルーキー世代最強の剣士と言えるアーサーには剣の腕で負けている。これがベルゼブブの部下達をぶっ殺した、恩を返す者の足利義輝形態ならいけるんだけどなあ。


「バウ!」


『なっ!?』


 なあんていうと思ったか! 犬君は単なる犬歯、イントネーション間違った。単なる剣士じゃない! 犬士なのだ!


 そのままアーサーが犬君を切り捨てたが、それは犬君にあらず! 身代わりの術で丸太が……うん? 丸太じゃなくて豆柴の可愛いぬいぐるみが現れた……とにかく身代わりの術なのだ!


「バウ!」


 そして忍者姿になった本物の犬君が、アーサーの影からどろりと湧き出て、八つの手裏剣を投擲した! 勝った!


『くっ!?』


 うへえ。完璧に決まった不意打ちなのに、アーサーは手裏剣を全て叩き落した。やっぱ鍛え方が並みじゃねえわ。


『ニンジャだ!』

『ニンジャ!?』


 なんかイギリスのギャラリーが興奮しているけど分かりますよ。忍者がロマンなのは万国共通ですものね。


『臨兵闘者皆陣列在犬!』


 犬君は八犬士なのに、一文字多い九字護身法の印を結んだ! あれは……!


「分身の術!?」


 犬君が九犬に分身した!

 藤宮君、マッスル、常識人、チャラ男が席を立つ。彼らだけではない。観客席にいる男子生徒は殆ど同じだ。忍者がロマンなら、分身の術も当然ロマンなのだ。


『バウ!』


 九犬の犬君が短刀を逆手に構えて、アーサーに襲い掛かる!

 でもちょっと不味いよ犬君! 今の君は学生用の訓練符だから、分かりやすい弱点もあるんだ! 具体的に言うと、本体だけ影があるよ!


『そこ!』


「バウ!?」


 アーサーは全く惑わされず、影がある犬君に剣を振り下ろした。彼は藤宮君の四力結界のムラすら見抜けるのだから、影なんて分かりやすいものを見逃すはずがない。


「くぅん……」


 犬君のブルドッグフェイスがポンっと音を立てて、つぶらな瞳の豆柴フェイスに変わった。ま、まさか!?


「わん!」

『隙ありいいいい!』


 きたねえええ! 犬君きたねええええ! 突然元の可愛らしい豆柴フェイスに戻ったかと思うと、そのままアーサーに襲い掛かった! マスコット的な愛くるしさで、戦意を削いで不意打ちしたんだ! 朝倉宗滴も、武士は犬と言われようが勝てって言ったけど、そりゃあんまりだよ!


『はあっ!』


「くぅん……」


 だが駄目! アーサーに隙なし!


 アーサーは容赦なく、可愛らしい犬君の豆柴フェイスに剣を叩きこんだ!


 決着! アーサーの勝ち!


「ふ。どうやら俺のせいで、油断も隙も無くなったらしい」


「そうみたいだね藤宮君!」


 犬君が消え去っても油断していないアーサーを見て、藤宮君がニヤリと笑った。


 異能大会の決勝で藤宮君は、あの手この手を用いてアーサーに勝利している。そのためアーサーは、大会からそれほど経っていないが、戦う心構えを今一度鍛え直したのだろう。アーサーはその経験がなかったら、犬君の豆柴フェイスに剣を止めていたかもしれない。これにはライバルの藤宮君もにっこりだ。


 しかし、やはり流石はアーサー。犬君を軽くあしらうとは。


 え? どうしたんだい犬君? もっと強化してくれ? いやいや、学生用に調整された状態で負けただけじゃないか。それに君の恩を返す者の全力戦闘は普通に大鬼レベルだし、これ以上の強化は……いや、少し変わった方法で出来ないこともないけど、いい意味で表に出せない形態になるよ? だから結局訓練では使えない上に、人件費が嵩むからなあ。


 何でもいいからやってくれ? ふっ。その後先考えないの俺は好きだぜ。しゃあない、ちょっとやってみようか!


「ぷ……ぷ……ぷふ……」


「お、お姉様ああああ!?」


 そ、その前に過呼吸を起こしているお姉様をお助けせねば!


 ◆

 ◆


 よし成功だよみん!?

 や、や、やりすぎた! ここ日本だから知名度の補正でとんでもないことに!? ぎゃああああああ!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る