覗き見準備ヨシ!

前書き

設定ミスって、アメリカ校が蜘蛛君と初戦で戦った時、半分も残ってたんで全滅に変えてます。許してください(小声)




『ギギャアアアアアアアア!』


『すうううっ』


 蜘蛛君が吠えながら、イギリスの生徒達に突進する。それを迎え撃つため、優男が呼吸しながら全身に気と霊力を巡らせている。非鬼の突進を前にしているのに凄い集中力と胆力だ。流石は異能大会で、半裸とお互いに絶死の間合いを重ね合わせながら、尚も距離を詰めただけはある。


『ガアアアア!』


『っ!』


『ギ!?』


「足先を切ったぞ!」


 藤宮君が興奮して観客席から立ち上がる。

 なんと優男は、蜘蛛君が繰り出した鋭い足に串刺しにされるどころか、人一人分のスペースもない際どさで躱すと、そのまま足先を剣で断ち切ったのだ!


『ハアッ!』


 それを好機と見た他の生徒達も、蜘蛛君の機動力を奪うため足を集中的に狙う。


 ただちょっと、アプローチの方法がまずかった。


『ギギギギアアアアアアアアア!』


『っ!?』


 優男が、しまったと一瞬顔を顰めた。なにせ断ち切られたはずの蜘蛛君の足は、切断面から黒い泥が溢れ出し、元の形に修復されたのだ。断ち切ることを意識しすぎていた。浄力で焼き清めることを意識すれば、かなり修復に時間がかかっただろう。


『とにかく浄力だ! 浄力を使うしかない!』


 優男はすぐそれに気が付いたようで、仲間に対して浄力の必要性を説く。うーむ。やはり、一人で何でも出来るよう徹底的に育てられているようで、個々の能力もそうだが状況判断能力も高い。


「俺も浄力を伸ばすべきか……」


 藤宮君が、まず浄力がないと話にならない呪詛特化型を再確認して、今後の予定を考えている。彼は選択肢が多い分、人より考えることが多い。


『がっ!?』


 行けると思ったイギリスの生徒達が、即座に回復した蜘蛛君に迎撃されて場外になり、最後まで残っていた優男もぶっ飛ばされた。たった一つの思い違いで全滅してしまうのが非鬼の恐ろしさだ。


『訓練終了! 反省会をした後に昼食だ!』


『はいっ!』


 おっと、イギリスの教員が訓練を打ち切ったが、もう昼食の時間か。から揚げが俺を呼んでいる。


「あっという間に昼か」

「今日は何を食べようか」


 訓練終了の雰囲気を感じ取った周りの生徒達も、腹が減ったと食堂へ向かい始めた。


「じゃあボクらも一旦解散ということで」


「はい!」


 佐伯お姉様の号令で、我がチーム花弁の壁のメンバーとゾンビ共も解散する。から揚げから揚げ。


 ん?


「北大路君?」


「ああ。イギリスの動きを参考にイメージマッスルトレーニング中だ」


「あ、はい」


 観客席に座ったまま、目を閉じているマッスルを不審に思い声をかけたが……答えの意味は、とりあえずマッスルという言葉を消したら大体分かる。


「今日は何喰おうかな。魚でもいいし肉でもいいし」

「ワイ、ビーフオアフィッシュって言われてみたい」

「スーパーでいくらでも売ってるわよ」

「そういう意味じゃない……」


 他のゾンビ共は全く気にしてないし。毎日つるんでるんだから、もう慣れ切ってるんだろう。


「じゃ、じゃあごゆっくり」


「ああ」


 という訳で、マッスルは放っておいて訓練場を後にする。


 って騙される訳ないだろ。絶対なんかあるわ。でも興味あるけど、昼飯は食わないとなあ。邪神らしく規則正しい生活の俺は、出来るだけ朝昼夜と食べるように心掛けているのだ。


 でも見ちゃうんだな。


『チュウ!』


 お姉様特製式神、十二支の一つである偵察特化型のネズミちゃんが、お姉様の肩に立って敬礼している。このネズミちゃん、戦闘力が皆無の代わりに、見ること、覗き込むことが専門の俺ですら、気を付けていないと見失いかねないステルス性を有していた。そしてお姉様と視覚を共有できるので、カメラの代わりに活動できる。そう、筆記テスト中もげふんげふん。


 ただし、通常の偵察は今回危険だ。何と言ってもマッスルは、空気の揺らぎだとか、音がどうのこうので状況を把握できる馬鹿なのだ。下手をすればネズミちゃんの足音で、こっそり覗いていることがバレルかもしれない。そういう訳で今回は、俺のタールを使って作られているネズミちゃんを介して、お姉様にも俺が見ている視覚情報を送る。


 つまりマッスルにもカバーできない範囲があるのだ。具体的に言うと、定期的に地獄で仕事してる俺の分裂体がポップコーンと一緒に準備している、魔改造した浄玻璃鏡を用いての覗き見とかだ。しかも念には念を入れて、事が終わったであろうタイミングを見計らって過去を映し出すことにする。


 こうでもしないと視線が合いそうだからな。マジで。万が一過去を映し出した浄玻璃鏡でマッスルと目があったら、正気度が無くなる自信がある。まさか、筋肉とは過去、現在、未来を超越するのか? いやそんなまさか。ははは。はは。


 とりあえずネズミちゃん、昼飯終わったころにまたお願いね。


 ◆


 昼飯も食べ終わり、マッスルが翼先輩と一緒に歩いているところを確認した。


 翼先輩、堕天使の力を持ってるから欧米圏と相性悪いので、イギリスとあまり関わらないようにしているようだ。


 あの人、強さ的にも訳ありの中の訳ありなんだよな。死のイメージを叩きつける黒い羽根は健在だし、その真逆と言えるイカロスの羽を持ってる。更に基礎能力が完全に人間を凌駕しているものだから、全力戦闘をしたら半裸ですら一方的にやられるだろう。つうか、入学当初の鈍りに鈍ってたゴリラでも、今の翼先輩には勝てないかも。だが現在のゴリラはスーパーゴリラだから、恐らくゴリラが勝つだろう。


 まあそれは置いておいて、早速地獄でコーラとポップコーンの準備をした俺と視界を繋ぐ。


 浄玻璃鏡の過去再生スイッチオン!



あとがきを追記

話が進んでないですけど、マッスル視点にするための導入なんで許してください(小声)

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