イギリスを出迎える準備は万端

 未来の後輩達が狂犬なのではと思わされて早数日。次はイギリスの学生達がやって来るため、これまた受け入れの準備をしなければならない。


 のだが。


 別の意味で準備している奴らがいる。


「宮代会長、中々気合を入れてるわね」


「そうですねお姉様」


 朝一番に登校している俺とお姉様の話題もそのことについてだ。

 お姉様の言う通り、まず半裸が準備万端だ。と言うのも、半裸は世界異能大会で接戦を演じたイギリスの対戦相手が来ると分かって以降、再戦しても再び勝てる様に、より一層気合を入れている。


「藤宮君もね」


「はい」


 そしてルーキー部門でイギリスのアーサーと死闘を演じた藤宮君も、ここ数日非常に集中している。なにせ結局アーサーはアーサー流剣術を一度も披露しなかったため、藤宮君は手加減していたアーサーにギリギリ勝っただけなのだ。負けず嫌いの彼は、次こそ本気を出させてやると意気込んでいた。


「北大路もだけど。ぷぷぷ」


「そ、そうですね」


 最後にもう一人、マッスルの準備も万端だ。団体戦に参加したイギリスのルーキーは、マッスルただ一人に敗れたと言っていい。それを考えると必ずマッスルを観察する筈だから、マッスルも情けないところを見せないよう、マッスルの準備を整えてマッスルがマッスルでマッスル!? だめだマッスルがゲシュタルト崩壊した! 邪神の俺ですら精神汚染が起こるなんてどうなってんだ! マッスルとは一体!?


「私の遊び相手にはなってくれるかしら?」


「どうでしょうねえ」


「ふふふ」


 お姉様がいつもの素晴らしいニタニタ笑いをされている。

 イギリスはバトルロイヤル部門でお姉様にも敗れているが、マッスルと違うところはイギリス、アメリカ、ギリシャの同盟を結んだうえで、ボコボコにされているところだ。マッスルはまだギリギリ彼らの理解の範疇だったから接触があると思うが、超越者であるお姉様に対しては、遠くから見ている程度かもしれない。


「む。おはよう貴明、小夜子」


「おはよ」


「お、おはよう北大路君、翼先輩!」


「ぷぷぷぷぷ。お、おはよう」


 噂をすればなんとやら。学園の正門でマッスルと、堕天使と天使の力を持った堕天使天使中性先輩こと翼先輩と出くわした。どうでもいいけどこの二人仲がいいな。よく一緒にいるところを見かける。


 ってそんなことはどうでもいい! マッスルのやつ、どうして冬服の上から分かるくらい筋肉が盛り上がってんだよ! 仕上げはばっちりなのか!? きもいぞ!


 うん? 翼先輩の体も……間違いない! 前から変だと思ってたけど、邪神流柔術後継者の俺の目はごまかせない! 体のラインが中性ではなく女性的な丸みを帯びている! ふーん。女性になったんですね翼先輩。なんでそうなったのかさっぱり分からんけど。


「また教室でな」


「じゃ」


「あっはい」


「ぷぷぷぷぷ」


 筋肉がきもいマッスル、相変わらず無表情な翼先輩と別れる。


 いや、ちょっと待てよ? そういや二人で飯食ってたなんて話を聞いた覚えがあるぞ? そして翼先輩は女性になった。よく一緒にいる。ここから導き出される結論はははははははははは。


 はべし!?


 ◆


「諸君おはよう」


 おはようございます学園長。うん? 気が付いたら教室にいたぞ。それになんか忘れてるような気がするが……まあ気のせいか。


「学園にやって来るイギリスの異能者だが、アーサーの弟子も含め主に異能大会に出場した選手達だ。色々因縁もあるだろうが、普段通りの学生生活を見せるように」


 妙に戦意を発しているクラスメイト達にゴリラが釘を刺した。

 そういや、団体戦で西岡君がキャプテンを務めたチームも、イギリスのアーサー率いるチームに敗れていたな。やっぱり我が一年A組とイギリスは結構因縁が深い。なんなら先々代アーサーであるコンスタンティンさん最後の教え子が3人もいるし。コンスタンティンさんから数日だけでも教えを受けたなんて、その道の人は血涙流して羨ましがるだろうな。


「それとだが、イギリスに限らず短期留学の話が幾つか持ち上がっている。引き続き英語の授業も気を抜かないように」


 戦意に溢れていたクラスメイト達が、まだ他にも来るのかとざわつき、付け足された余計な言葉に、うへえっといった表情になる。すいませんね皆さん。俺っちチート持ってるから楽しまくりでして。


「最後になるが、イギリスの生徒達も学園の訓練符を使う予定のため、一部が使用できない可能性がある」


 異能者の本分はあくまで対妖異だから、イギリスの生徒達が学園の訓練符を使用するのはごく当たり前のことだ。となると、世界でもオンリーワンな非鬼の蜘蛛君と、特鬼の猿君も見ておこうとなるのは必然だろう。特に半裸会長は、蜘蛛君が育てたといっても過言ではないことを考えると引っ張りだこになるはず。


 というわけで頑張ってね蜘蛛君! 猿君! あれ? 猿君からは気合の入った声が返ってきたけど、蜘蛛君からは返ってこない。おっかしいな。邪神通信は万全なのに。


 いや、分かったぞ。この前半裸が瞑想してイメージトレーニングを重ねていると聞いたから、きっと蜘蛛君も同じように集中しているに違いない。ごめんね蜘蛛君邪魔して。


 さーて、イギリスの皆さんには、我がブラックタール帝国をたっぷりと堪能して帰ってもらおう! 頑張ろう皆! えいえいおー!

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