未来の頼もしい?後輩達
まだ異能学園に入学していないとはいえ、今回やって来ている体験入学生は将来推薦組に入るのだ。実家の名家で訓練して、一族の補助の下で、最下級の小鬼程度とならやり合った者が多いらしい。
「午後は自由時間だが、体験入学生を見に行ってはだめだ」
「どうして見に行っちゃだめなんですか!?」
「人が溢れるからだ」
西岡君がゴリラにバッサリ斬られた。
そんな未来の後輩たちの雄姿を見るため訓練場に行こうと考えていたが、在校生の見学は不許可のようだ。まあ西岡君は少々極端だが、皆も大なり小なり興味があるから、それこそ見に来た人で溢れることになるだろう。
「それじゃあ行きましょうかあなた」
「はいお姉様!」
お姉様も暇つぶしに丁度いいと、体験入学生達を見に行くつもりのようだ。だからこっそり見に行こうそうしよう。
「なんか悪い事企んでないかい? 例えばそうだねえ。こっそり体験入学生を見に行くとか」
「え!? なななんの事ですか佐伯お姉様!?」
ゴリラが解散を告げ、項垂れている西岡君には悪いと思いながら教室を出ると、面白そうな顔をしている佐伯お姉様にズバリと切り込まれた。
「図星だねこりゃ。そういう面白い話には混ぜて貰わないと困るなあ」
はわ、はわわわわ。完璧なポーカーフェイスを決めてるはずなのに、佐伯お姉様は確信を深めたようだ。一体なぜ!?
「という訳で僕も行くよ。未来の後輩達の雄姿を見たくてね」
やべえよやべえよ……こっそり侵入するには第一形態の力を使う必要があるのに、あれは別名ボンレスハム形態って言えるくらいズドンとした体形になる。あ、あまりにも恥ずかしすぎるんだが……
ええいままよ!
◆
「な、中々個性的な姿だね。これが言ってた例の力かい?」
「はい……」
訓練場の観客席に座りながら、佐伯お姉様の視線に居た堪れなくなってしまう。注連縄だけに縄で締め付けられてるから、ボンレスハム体型のデブなんだよなあ。来年には痩せよう。
「とにかく、これで気付かれずに観戦できるんだね?」
「はいそうです!」
しかし、この恥ずかしい姿は、刀剣集を見ているお姉様と佐伯お姉様しか見ることは出来ないから大丈夫だ。
「小夜子は興味ある子いたかい?」
「男女の双子って言ったらわかるかしら?」
「ああなんとなく分かるよ。好青年と文学少女のペアかな?」
「ええそう。そのペア」
佐伯お姉様がお姉様に聞いた。
やはりお姉様が興味を持たれているのは、祐真君と美羽ちゃんの様だ。あの二人、俺の感覚が正しければ……。
「西岡の妹は別の意味で興味あるけど。ぷぷ」
「ま、まあ確かに」
お姉様が刀剣集を見ながら肩を震わせ、佐伯お姉様も同意した。俺も西岡君があれだけ妹妹と言ってたから興味がある。しかし、なんかよく分からんけど、妹さんとはすげえ話が分かりそうな気がするんだよな。
「あ、来ましたよ。祐真君、美羽ちゃん、西岡君の妹さんもいます」
どことなく邪神流やゴリラ流と相性よさそうだった西岡君の妹さんを思い出していたら、体験入学生達が訓練場にやって来た。
「おや、下の名前も知ってるんだ。お昼に話しかけた?」
「はい。変身仮面の話で盛り上がりました」
「アクションシーンの凄さで有名な?」
「そうです!」
佐伯お姉様の言う通り、アクションシーンはいいんだよなあ……アクションシーンだけは。
ってんんんん? 祐真君と美羽ちゃんに、西岡君の妹の美夏ちゃんが加わったぞ? ひょっとしてチーム分けされたのか?
「あら、一度にやってくれるなんて気が利くわね」
お姉様が刀剣集を閉じて、訓練場に視線を移す。体験入学生は最低限の人数でチームを組み、訓練符を相手にするようだ。
そして、体験入学生が相手に出来るほど、非常に弱く設定出来る式神符だが……。
『さあ! どんとかかって来なさい! むっふん!』
ぼふんと式神符から現れたニュー白蜘蛛君が、無茶苦茶先輩風を吹かせている。可愛い。でもニュー白蜘蛛君、彼らかーなーり強いかも。
「【大威徳明王の力をここに】!」
おっと、美夏ちゃんは西岡君と同じように、西方守護の大威徳明王の力を使うようだ。だが西岡君は靄のような大威徳明王を形作れるのに対し、美夏ちゃんは自身を強化するために力をその身に宿した。名家は基本的に霊力か浄力だから、どちらかとは思っていたが、彼女は霊力使いの様だ。
「【矛よ】!」
一方、祐真君は身の丈を優に超える矛を構え、一年A組の大半のクラスメイトよりも強い霊力を発している。やはり霊力使いだったか。
「【掛けまくも畏き伊弉冉の大神】」
そして美羽ちゃんは祓詞を呟き、ニュー白蜘蛛君が動きにくくなるようなデバフを掛ける。これは……浄力か。
基礎四系統最強の霊力を使う者が二人、支援では最高の浄力を使う者が一人。うーんこれは……。
『あれ? ひょっとしてやばい?』
綺麗なお目目を光らせながら呟いてる場合じゃないよニュー白蜘蛛君! 間違いなくやばいんだよ!
「てりゃああああ!」
「はあ!」
『ぬわわわわわわ!?』
美夏ちゃんが可愛らしい声に似合わず、その拳をニュー蜘蛛君の足に叩きつけたらドゴンと音が出た。そして祐真君はその矛の切っ先でニュー白蜘蛛君の足を切りつけると、ニュー白蜘蛛君は可愛らしい悲鳴を上げながら、残った足をがむしゃらに振り回して何とかしようとする。
『流石先輩って言われるつもりだったのにいいい!』
ニュー白蜘蛛君、そんな予定を勝手に立ててたのかい!? そんなこと言ってる場合じゃないよ!
「てりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!」
「せや!」
即席チームだから連携が取れないと考えた祐真君と美夏ちゃんは、左右に分かれてニュー白蜘蛛君の攻防の要である足を削り取ることにしたらしい。美夏ちゃんは両手でラッシュをかけ、祐真君は矛で危なげなく攻撃を続ける。
「でりゃあああああああああ!」
『そんなあああああああああ!』
そして動けなくなったニュー白蜘蛛君は、美夏ちゃんに渾身の力を込めた拳を頭に叩き込まれて……消え去った。
「ぷぷ」
ニュー白蜘蛛君の断末魔にお姉様が肩を震わせる。
ニュー白蜘蛛君、幾ら体験入学生用に調整されていても酷すぎる……とは言い難い。祐真君も美夏ちゃんも非常に戦い慣れしていたし、美羽ちゃんのバフとデバフは非常に洗練されたものだった。即戦力レベルと言ってもいい。
「これは来年、頼もしい後輩達が入ってくるようだね」
「はい」
佐伯お姉様の言う通り来年が楽しみだ。変身仮面の同好会も立ち上げないとだし、待ってるよ祐真君、美羽ちゃん!
「あんた強いわね! 私と勝負よ!」
「え!?」
美夏ちゃんが訓練場を降りず、びしっと音が出そうな勢いで祐真君を指さす。その瞳に宿っているのは闘争心だが、祐真君は訳が分からないといった様子だ。ひょっとして美夏ちゃん狂犬か?
いや、彼女だけではない。他の体験入学生も、やるじゃねえか。俺と今すぐ勝負しろと言わんばかりの表情になっている。まさかとは思うが……殆ど全員狂犬なのか?
「急に来年が不安になって来たよ……」
「僕もです……」
「ぷぷぷぷぷぷ」
思わず佐伯お姉様と目を合わせて同意する。こりゃあ来年も騒がしくなりそうだぞ。それはそうとお姉様可愛い。あいてっ。でへへ。
兎に角、未来の後輩達! 待ってるからね!
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