学園の風景1
変身仮面は……まあ、控えめに言って色々あれである。俳優は大根役者だったし、新たな世界を作りだしたり、死者を復活させる力を巡って戦う、ドが付くシリアスの中に急にギャグを入れてきたり、子供の時の俺でも、ん? と感じる設定の矛盾点が見られた。しかも低予算だったため、キャラクターのコスチュームやアイテムが壊れたら、修理されるのはリアル時間で一月以上掛かり、使いまわしの再生怪人もやたらと出てくるような番組だった。
そんな変身仮面だが一部では熱狂的なファンが存在する。勿論俺もその一人だ。それは偏に変身仮面と敵怪人のスーツアクターのお陰だ。予算なし、新アイテムなし、まともな脚本と役者なし。だがその無い無い尽くしで唯一の奇跡と謳われる、変身仮面のアクションシーンは凄まじいもので、わざとらしい手加減は一切存在せず、ちびっこ邪神の俺はテレビの向こうで本当の戦いが起こっていると思い込んでいた程だ。つうか今見てもそう思う。
ただまあ、ファンである俺ですら、それを全部台無しにしてしまうほど他が酷かったのは認めるところで、この学園でも同好の士はいなかった。今日この時までは!
「私は10話にちなんだ10回連続転回変身が好きです!」
「そうだね美羽ちゃん!僕もそう思うよ!」
同好の士にして未来の素晴らしい後輩である美羽ちゃんが、変身仮面の名シーンにして超迷シーンを推す。彼には邪神ポイント1000点をあげよう。満点は1000点だ。
「唐揚げには何かけるかな?」
「私は塩コショウを足します!」
「自分もです!」
談義は楽しいが、食事をしないといけないので唐揚げにかける調味料を尋ねたら、美羽ちゃんも祐真君も塩コショウを足すらしい。邪神ポイント1500点! あ、超えちゃった。いや、神聖塩コショウ教徒には正しくポイントを与えねばなるまい。
「僕は15話にちなんだ15回連続バク転ドロップキックが一番だと思うんです!」
「流石だね祐真君! 僕もそのシーンは一押しだよ!」
唐揚げを食べながら、今度は祐真君がお気に入りの超々迷シーンを推す。いやあ、2人のおすすめシーンは子供のころ何度も練習したもんだ。人間形態じゃ無理って結論になって、ベルゼブブとやった時のアバドンよりもさらに上の状態、ヨーロッパ全土をイナゴで覆いつくせるアバドン黙示録フォームでやり遂げたんだよなあ。うん。やはり彼らが入学したらすぐに同好会を立ち上げなければ。
「おっと、先輩らしいこともしないと。午後からは自由行動だけど、予定はあるかな?」
談義も楽しいが、そればかりに時間を使うことは出来ない。
体験入学生は午後からある程度自由行動を許され、簡易的な式神符の作成だったり、解呪、小鬼の訓練符に挑戦することなどが行える。
「一通り参加するつもりなんですけど……」
「その……」
はて? 妙に2人の歯切れが悪い。
「宮代戦闘会会長の戦ってる風景って見られますかね?」
祐真君が困った様にそう言った。
ははあん。親父が言うには、彼らは異能研究所で訓練したようだから関りが強いんだろう。そして異能研究所の職員から、超注目株の半裸の学生生活を見てきてくれとでも言われたんだな。それと藤宮君は、俺達が研修中に2回も異能研究所に行ってるから十分なんだろう。
「ぷぷぷぷ」
お姉様が世界異能大会で披露した、脳筋極まる半裸の姿を思い出したのだろう。いつもの素晴らしいぷぷぷ笑いあいてっ。でへへ。
しかし問題がある。基本的に体験入学生が見学したいなら、どこでも見学は出来るのだが、問題は半裸が対妖異の訓練をする場合、相手が蜘蛛君なことだ。特別な結界の中にいない限り、非鬼から上は雑多な者は立つことすらままならない。
もしもし蜘蛛君? そうです。頼れる先輩四葉貴明です。宮代戦闘会会長の予定知らない? 午後からは入ってない? ふむ、珍しいね。ありがとう蜘蛛君。ところでイギリスから人がやって来るけど、多分蜘蛛君も体験するかって話になると思うから頑張ってね。通信終了っと。
流石は蜘蛛君だ。イギリスから人がやって来ることを知ったら、凄い大きな反応が返ってきた。あれは間違いなく気合を入れてるな。そうに違いない。
「あ、大柳先輩」
「うん? 貴明か」
って、丁度いいところに、半裸の親友の大柳先輩が通りかかった。この人、テレポートできる傑物で、蜘蛛君がしょっちゅう取り逃がしてるみたいなんだよな。そして俺は、世界異能大会学生運営委員長として、戦闘会執行部と関りがあったっため、そこに所属していた大柳先輩とも面識があった。邪神は人脈を作るのが得意なのだ。
「体験入学生が、宮代会長の訓練風景を見たいんですけど、会長は午後どうされるか知りませんか?」
「ああ、体験入学生か。ならちょっとタイミングが悪いな。大会で典孝と接戦したイギリスの選手がいるんだが、どうも今度やって来るイギリス一行の中にいるらしくてな。次戦っても大丈夫なように、試合の時を思い出しながら、座禅組んでイメトレしてるから見ても全く面白くないぞ。まあそれでも見たいなら、午後も第八屋内訓練所の隅っこにいる筈だ」
「ありがとうございます!」
「あ、ありがとうございます!」
「おーう」
親切に教えてくれた大柳先輩に、祐真君と美羽ちゃんと一緒にお礼を言う。
ほぼ間違いなく、半裸がイメージしている相手は、大会中に霊力を完全に切って間合いに踏み込んだ、一見すると女性のようにも見えるイギリス選手だ。大会を通してみても、あれが通常部門では事実上の決勝戦と言えるほど、半裸はギリギリの勝利だったからな。
半裸め、普段以上に仕上げるつもりだな。そしてもう一人……。
「ありがとうございます貴明先輩!」
「いやいや!」
最上級生とコネがある俺に、祐真君と美羽ちゃんから感謝と尊敬の念が送られる。やはりコネと語学こそこの世で最強のチートだったのだ!
◆
さて、午後からは自由時間だったので、こっそり戦闘訓練場にやって来たのだが……。
『さあ! どんとかかって来なさい! むっふん!』
俺と同じく先輩風を吹かせてるニュー蜘蛛君が、きしゃりと叫びながら体験入学生を待ち受けていた。
か、かわいい……
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