幕間 西岡美夏の体験入学2
(今度は分かりやすい! なにせ戦闘訓練だ!)
いきなり妙な授業風景を見せられた美夏達だったが、次の授業は対妖異、対人間の戦闘訓練であり、非常に分かりやすく、狂犬美夏も心の中でここからが本番だと意気込んでいた。
(これは……! 世界異能大会の優勝トロフィー! 次は私が出て兄ちゃんすらもぶっ倒して優勝する!)
そんな美夏が移動中に見つけたのは、展示エリアで最も目立つ場所に置かれている、世界異能大会の優勝トロフィーで、特に目立っている戦闘会会長の宮代が勝ち取った通常学生部門のものだ。それを前に美夏は己が最強だと証明する決意を新たにするだった。
(でも桔梗の鬼子は勘弁!)
そして彼女は現実が見えている逞しい少女でもあった。
◆
一年A組と美夏達は訓練場までやって来た。
「体験入学生への模範試合を行う」
「はい学園長! 自分が立候補します!」
「西岡、お前はまず落ち着け……」
各生徒が式神符であったり、クラスメイト同士で対戦を決めている中、竹崎は腕を組みながら美夏達の勉強になるような模範試合を行うと告げると、それを聞いた美夏の兄である西岡康太が妹の前でいいところを見せようと立候補したが、竹崎はその明らかに異常なテンションの康太を窘めた。
「出席番号の初めと最後で行こう。伊集院と貴明、私が試合開始と言ったら試合開始だ。勝敗は場外で判断する」
「分かりました」
「はい!」
(四葉? 兄ちゃん達を差し置いて主席の? でもなんか兄ちゃんが言うには、クラスの委員長的な役割は完璧にこなしてるとかなんとか)
竹崎に呼ばれた伊集院和弘と、四葉貴明が訓練場に上がったが、貴明の名前を聞いた美夏は、兄から聞いた主席の苗字が四葉だと思い出した。そして相変わらず他のクラスメイト達は、貴明がどうして主席になったのかと首を傾げていたが、クラス委員長的行動は積極的にこなしていたので、まあとりあえずはいいかと思っていた。
(俺が貴明と? 何か理由があるのか?)
しかし、訓練場に上がった和弘は困惑していた。その理由だが、貴明は基本的に小夜子と固定ペアのようなもので、和弘と貴明が直接戦うことは初めてであり、しかも体験入学生がやって来ているいつもと違う環境と言う事もあって、何か理由があるのかと悩んでいたのだ。
「試合開始」
「伊集院君、これはきっと何か理由があってのことだと思う。そうですよね学園長」
「ああそうだ」
(やはりか)
貴明が掌を前に突き出して一旦和弘に止まるよう促し、竹崎に問いかけると、竹崎もそれに返事をしたものだから、和弘はその理由を聞こうと思い、貴明から視線を外して顔を竹崎に向けた。
「【四面注連縄】結界!」
「げっ!?」
(し、しまった! こういう奴だった!)
貴明の発した技の発動キーを聞いた和弘は、自分がどれだけ迂闊だったのかを思い知らされたがもう遅い。慌てて竹崎から貴明に視線を向けたが、既に彼の周りをぐるりと注連縄が囲んでおり、包囲が完了していた。
パンパン!
「伊集院場外。貴明の勝ちだ」
そして貴明が神社での作法である、二礼二拍手一礼のうち二拍手を行うと、和弘は訓練場の外に転移させられて場外負けとなった。
(一年生が転移!? いやそれより超実戦派だ!)
その光景を見た美夏は、貴明が極限られた者しか使えない転移を、短距離とはいえ行ったことに驚愕したが、試合が開始されたのに全く関係ないことを話して隙を作り出したことに対して、狂犬らしく超実戦派がいると感心していた。
「ぜーぜー……! しんど……!」
「伊集院、反省点は分かるな?」
「はい。学園長が試合開始と言ったのに、足を止めて相手の言い分を聞いた事と、相手から目を離したことです」
(大会でアーサーも、藤宮に何か話しかけられて隙を作っていたのに、それを失念していたなんて……)
「そうだ。相手の言い分は捕まえた後、牢の檻越しに聞けばいい。まずは無力化することが最優先で、例え私が外から口を挟もうと、一度戦うと決めたのなら部外者の言葉は後回しにしなさい。ちなみにだが貴明とは打ち合わせをしていない」
相変わらず四面注連縄結界を使うと強い疲労を感じる貴明が訓練場を降りているが、一方で和弘は自分の反省点を竹崎に報告していた。半年以上竹崎と貴明のやり取りを聞いている一年A組の生徒だから、今更先ほどの戦いが卑怯とは言わず、寧ろ慣れてしまっていた和弘は心の底から反省していたくらいだ。
(これが異能学園……!)
そのやり取りを聞いていた狂チワワ美夏は、これが異能学園かと感動していたが、他の体験入学生はは、え? これ単なる訓練試合だったよね? 普通は真正面から戦うんじゃないのと? ドン引きしていた。
「ぬううおおおりゃあああ! 大威徳明王よおおおおおお!」
(兄ちゃん凄いじゃん!)
一方、なんとしても兄の威厳を示さねばならない康太は、別の場所で本当に薄っすらとしたものだが大威徳明王を形作って上位の少鬼符を粉砕し、それを見た美夏は我が兄だけあって流石だなと喜んだ。
これで康太の兄としての威厳は守られたのだ。
しかし、その兄として最大の敵がすぐ傍にいた事には気が付いていない。
「こりゃ氷水ぶっかけないとだな……」
(あ、三郎の兄ちゃんだ……!)
究極の馬鹿となっている友人を見ながら溜息を吐く、貴明曰くイケメンナンパ全滅野郎こと村上三郎だが、美夏が彼を見た瞬間、ほんのりと体温が上がっていた。
実はこの男、とっとと結婚して肩身が狭い実家を飛び出そうと計画して、手当たり次第に女性に交際を申し込んでいたが年下は対象外で、名家同士仲がいい西岡家に遊びに行っても、美夏に対しては気のいい兄貴分であり良き遊び相手だった。そして美夏は三郎に仄かな憧れを抱いていたため、狂犬の姿を見せたことがなく、三郎が貴明に美夏の説明した時も、可愛らしい女の子という表現を使ったのだ。
哀れ西岡康太。彼がどんなに頑張っても、妹の注目は友人に向けられてしまい、果たして将来、美夏が三郎と結婚するなどと言い出した際に、自我は崩壊しないで済むのだろうか。それは邪神ですら知らないことだった……。
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