緊急……事態?

 しかしゴリラまで来てどうすんだよ。もうやって来ていた四凶は昇天しちゃったし、残ってるのは地下で封印されているけど、実質死にかけてる饕餮だけだぞ。


「源支部長ですな? 少し四葉貴明をお借りしてもよろしいですか?」


「うむ」


「ありがとうございます。来てくれ貴明」


「はい!」


 ほらきた。ゴリラが爺さんに断りを入れて俺を指令室から連れ出した。ここにやって来た途端、俺に何かやっただろうと目で聞いてきたから、こうなると思ってたんだ。お姉様を呼ばなかったのは、佐伯お姉様が1人になるからと配慮したからだろう。そして爺さんは、単に学園長が生徒から事情を聞こうとした程度にしか思っていない。


「話せる場所に連れて行ってくれ」


「はい!」


 話せる場所ってのはあれだろ。ようするに、誰も見てない聞いてない場所ってことだろ。俺を認識している奴がいれば一発で分かるから、そうならない場所を見つけたらいいだけだから簡単だ。


 要塞内の適当な場所にゴリラを連れて行く。


「ここなら大丈夫です」


「なにかやったか?」


 ほーら言うと思った。俺が色々首を突っ込んでる前提で話をしようとするんじゃねえぞゴリラ。優等生で首席の俺が何をやったっていうんだ?


「地下で封印されてる饕餮が普通に元気でして、自分の見立てでは今すぐという訳ではなかったですが、何かきっかけがあれば復活出来る様な状態でした。ですので先手を打って力を吸収したら、どうも四凶の概念自体を吸収しちゃったみたいで、他の奴らも弱体化しました」


 まあ首を突っ込んでやっちゃってるんだけどな。


 仕方なかったんだ。なにか切っ掛けがあれば暴れだす可能性があった以上、邪神流戦闘術を修めているこの四葉貴明が先手を打たないなんてありえない。邪神流柔術は後の先を取る業でも、物事の主導権は絶対に渡さん。俺は勇者を始まりの村で始末するタイプなのだ。


「そうか」


 俺の正論に頷くゴリラ。ふ、合理的阿修羅、合理羅はこういうとき話が早い。そう、俺は起ころうとした深刻な事態を防いだだけ。つまり俺は悪くない。っていうか、人の技術を聞くのはよくないと思ってるんだろうが、どうやったか聞くくらいはいいと思うぞ。まあ親父でも多分使えない、俺だけの権能だから内緒だが。


「来た理由は分かるか?」


 おっと。重要で、ある意味問題の質問だな。


「それがですね……内面を読み取ろうとしたら通用しなくて」


「なに?」


 これには流石のゴリラもびっくり。モニターでふらふらしていた四凶を見たとき、一体どうして揃ってやって来たのかと思って内面を覗き込もうとしたら通用しなかったのだ。異常だ。あんなにふらふらしていたくたばり損ないに、俺の力が通用しない? そんな馬鹿な。


 んん!? 邪神センサーに再び感あり! 総数と力……海の中からだからいまいち分かんねえ! ともかく妖異の大群が来てやがる!


「学園長! 海から妖異の大群! 総数及び戦闘力不明!」


「指令室へ急ぐぞ!」


「はい!」


 指令室へ駆け出すゴリラと俺だが、多分ゴリラも俺と同じことを思い出している筈。かつてアメリカ東海岸に上陸したハリケーンに連れられるように上陸した、深海海洋生物由来の妖異達がいた。その数およそ300。しかも普鬼がかなり混じっていたため、例え300だろうと侵略軍というに相応しい存在であり、アメリカの沿岸を蹂躙しようとした。未遂で過去形だ。偶々そこに居合わせた、たった一人の超力者に粉砕されたのだ。


 叩きつける雨と嵐と雷の日に、それ以上に吹き荒ぶ超力砲で。

 それ故に“一人師団”と呼ばれることになった男の手で。


 それはまさに嵐の中の決戦だったらしい。当時は異能が秘匿されていたため映像的な資料はないが、救援に駆け付けた者達は後年、口々にあの戦場にはハリケーンが2つあった。自分達は見ているだけどころか、見ているのも精一杯だったと証言する程だ。


 その後、秘密裏に妖異がやって来た原因を調査したが、元は深海にいた連中のため難航し、幾つかの仮説が出るに留まった。


 そのうちの一つに、大きなエネルギーに引き付けられたのではないかというものがある。そのハリケーンは当時史上最大クラスだったため、それが偶々深海にいる妖異達の住処の直上を通り、まるでチョウチンアンコウの光に誘引された魚の様にやって来たのではないかという仮説だ。尤も、通常のハリケーンや台風で深海の妖異が活性した案件は確認されていないため、非常に疑問符が付く仮説だったが、四凶のうち3柱が妖異の住処の上を通ったなら、活性化してやって来るには十分な刺激だったかもしれない。


 ウウウウウウウウ!


 再び要塞内でサイレンが響き渡る。どうやら指令室の感知網にも引っ掛かったらしい。


「数、800以上1000未満!」

「小鬼から普鬼まで満遍なく多数! 大鬼相当も確認!」


 指令室に駆け込むと、やって来た四凶がふらふら落っこちた時の緩んだ雰囲気はどこへやら。引き締まった表情でオペレーター達が報告し、他の職員も慌ただしく駆け回っている。


「独覚よ。ちと手伝ってほしい」


「勿論です」


 爺さんが戻ったゴリラに気が付き助力を要請して、ゴリラも重々しく頷いた。


「お主等も頼む」


「はい!」


「ふふ」


「分かりました」


 そして爺さんは俺達にも声を掛けてきたので、お姉様、佐伯お姉様と共に承諾する。学生だろうが推薦組にいる以上、妖異がやって来たなら戦うのは使命の一つだし、異能学園にいた時も手が足りないときは出撃してたんだ。ですよね田中先生。きっと田中先生も、俺達と暴走族を鎮圧した時のことを思い出しているはずだ。


 しかし実際のところ……。


 俺ら必要か?


「皆、使命を果たせ」


 急な事態だから短く号令を発する爺さん。


 ここには英雄と精鋭がいて、ゴリラを筆頭に四凶が来たと聞いても、援軍に来ることが出来るつわもの達が到着しているのだ。


 どうなるか火を見るよりも明らかだろう。


 ◆


「撃てい!」


 ほらね。まさしく、破壊が巻き起こった。

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