迫りくる世界の危機
外にある職員用の駐車場から歩いて要塞に向かう。近づくとそのデカさが分かるな。本当に軍事的な壁の高さで、猿君並みの高さを誇っている。いやあ凄いなあ。お姉様が素晴らしいニタニタ笑いをされているのも当然だ。うん。お姉様の視線は要塞だ。そうに違いない。俺を見られている気がするが気のせいだ。なにせ心当たりがない。俺がしたのはちょっと摘まみ食いしただけなのだから……。
「源支部長お疲れ様です!」
「おはよう。異能学園の研修生と学園の教師じゃ」
「はい!」
爺さんが入り口の警備員に頷きながら、要塞の職員用の入り口に進んで、職員証の様なものを手渡した。しかも警備員は目視するだけでなく、なにやら職員証をスキャンする機械に入れて確認を取っている。
流石は霊的国防の要塞だ。本来なら俺達は入ることが出来ないが、代々の研修生は好意で要塞の中を見学し続けていた。つまり、半裸会長もここに来たことがあるという事か。なんか急に帰りたくなってきたな。大丈夫かここ? 汗臭くない?
「確認が取れました!」
「ありがとうの。さあ入るぞい」
確認作業は問題なかったようだ。ちょっとだけだが、爺さんがボケて保険証でも渡すんじゃないかと危惧していたがその心配は必要なかったな。そして爺さんに続いて、壁の割りに小さな入り口を通る。
「ようこそ由緒正しい九州支部へ。と言ってもなんもないんじゃが」
ここが本来の九州支部なのだが、饕餮襲来でぶっ壊れた後に事務機能は街中の県庁みたいな建物に移しているから、確かにここは爺さんの言う通り殺風景だ。この五稜郭の様な場所にあるとすれば、それは何かが入ってるコンテナや箱だったり、よく分からないごちゃごちゃした配線だったりだ。
だが
「なんかこう、空気が張り詰めてるというか……」
佐伯お姉様が首は動かさず、目だけを動かしながら要塞の中の雰囲気を感じ取っている。
「ふふ。最近暇と聞いていましたから、てっきり怠けてるかと思ってましたわ」
「精鋭しかおらんからの」
未だ素晴らしいニタニタ笑いのお姉様に対して、爺さんの腰が引けている。
要塞の中央と言えるような何もない場所に移動したが、すれ違う職員はどいつもこいつも油断ならない気配の持ち主で、暇している場所とは思えないような雰囲気だった。それに押されて田中先生もびくびくしてるが、あんたさっき英雄の気配全開だった爺さんに物申してたからな? それを職員に言ったら感心されるぞ。
うん? なんか頭の先から顎まで傷が繋がってる巨漢がやって来たぞ。やっぱり帰りたくなってきた。絶対堅気じゃないぞあれ。
「源支部長申し訳ありません! 電話が少し長引いてお出迎え出来ませんでした!」
「おお吉岡君、急にすまんな」
どうやら巨漢は吉岡さんという名前でこの要塞の責任者らしい。40代後半、どうも爺さんが現役だった頃にもいたようで、恐縮したように2メートル近い体を小さくして頭を下げていた。というか、全体的にこの要塞はベテランが多く、気難しそうな奴も爺さんには頭を下げていた程だ。
「研修生にちらっと見せに来たただけじゃから、それほど長居はせんから気にせんでくれ」
「それが少々問題があって……」
「うん?」
責任者の吉岡さんが言い淀み、爺さんが首を傾げている。
俺らも暇な要塞に詰めて、いつ来るか分からない妖異を待つようなことはしたくなかったが、どうやら何か面倒ごとの様だ。
「森山重工が開発した対妖異の戦闘ロボットはご存じですか?」
「うむ。ラジオで少し聞いた程度じゃが」
「森山重工と政府の役人が、実地試験をここでやらせてくれないかとしつこくて。それでついさっきまで電話を……」
「なに? ここでか?」
なるほど面倒だ。しかし分からん話でもない。ここは高い壁に囲まれて外から見え難く、油断ならない他国の目を気にする必要がないうえ、かつベテランの異能者も多いためアドバイスも聞けるだろう。そしてひょっとしたら雑魚の妖異との実戦を経験できるかもしれない。何より暇をしている場所だからな。
「儂から念を押して断っておく。饕餮が封印されている以上、不特定多数を入れる訳にはいかん」
「お願いします」
爺さんの力強い断言にホッとする吉岡さん。
だがここは饕餮が一応、そう、一応封印されている場所である以上、長時間別の組織の人間を入れる訳にはいかないのだ。まあ、今は下手すりゃ小鬼並みになってるけど。なんでかなあ。不思議だなあ。
「企業は前からしつこいんですか?」
「うん? いや、元々付き合いがなかった訳じゃないが、ロボットの目途が立った最近はよく電話が掛かって来るな」
佐伯お姉様の問いに吉岡さんが首を横に振る。こりゃよっぽどしつこかったみたいだな。
「後で抗議しとかんと。暇だろうが重要拠点じゃっつうの」
やれやれと首を振る爺さ!? 邪神レーダーに感あり!
「洋上からこちらにやって来る妖異を探知! 数は3!」
「戦闘力は!」
「た、貴明君?」
びしっと背筋を伸ばして報告すると、田中先生と吉岡さんはポカンとしているが、一瞬で爺さんが英雄の顔になって聞いてくる。そして佐伯お姉様は俺に慣れてるから顔が引き締まり、お姉様は素晴らしいニタニタ笑いのままだ。
しかし戦闘力か……これは……なんてことだ……。
「小鬼……ですかね」
「うん?」
「貴明マネ、小鬼が洋上から来てるのかい?」
今度は爺さんと佐伯お姉様もポカンとした。最低ランクの小鬼が飛行能力を持っているのは稀も稀だ。しかし、俺が感じるこの力……まままままさか!?
ウウウウウウウウウウウ!
警報のサイレン! 要塞の探知網にも引っ掛かったか!
「付いてくるんじゃ!」
サイレンが鳴った瞬間、爺さんが年寄りとは思えない速さで要塞の中へ駆け込み、逆に要塞の中からは次々と精鋭達が武器を持って出てくる。うーんマジで精鋭。長い事暇してたって聞いてたけど、動きに戸惑いが全くない。
そして俺達だけではなく田中先生と吉岡さんも爺さんを追って要塞の通路を駆け、多数のモニターやオペレータがいる、指令センターのような場所に辿り着いた。
「報告せい!」
「洋上から妖異が接近中! 数は3」
「式神からの映像出ます!」
爺さんの声に素早く反応したオペレーター達が反応し、モニターに映像が映し出された。
そこには……。
ば、馬鹿な……こ、こんなことが起こり得るのか? あり得ないだろう……。
それぞれ
犬
翼を持つ虎
人面虎足
禍々しい、恐ろしい、悍ましい。ありとあらゆる恐怖の形容を持つに相応しい邪なる柱達。
犬の名は
翼を持つ虎の名を
人面虎足の名を
中国神話に名高い悪神にして邪神。この地に眠る
その詳しい外見を3柱纏めて表すなら
貧相だろう。
「う、うん?」
ポカンとしているのは爺さんだけではなく、この指令室にいる全員だ。
「ぷぷぷぷぷぷぷぷ」
いや、お姉様だけは蹲って笑っている。ウルトラスーパープリティあいてっ。でへへ。
ともかく、貧相としか表現できない。それぞれ全長1メートル程。恐ろしい爪や牙はなく、体は痩せこけ、ふらふらしながらなんとか洋上を飛行していたが、今にも海に落っこちてしまいそうだ。
ひょっとしてひょっとするけど、俺なにかやっちゃいましたかね?
ひょーっとしてひょーっとすると饕餮を摘まみ食いした時、そっから四凶という概念全体を吸い取っちゃった?
……いやそれより、俺がここに来たとたんこれ? やっぱり菓子折り買っとくか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます