夜間見回り2 人の心

 ◆佐伯飛鳥


 真夜中前の繁華街。金、欲、酒。下手をすればドラッグ。そんなものが入り混じる場所は、妖異が発生する、もしくは好む場所であり、重点的に見回らないといけない地点で、ボク達以外にも複数の異能者が巡回している。


「案外平穏だよね」


「伊能市にいたら感覚麻痺しちゃいますよね」


 路上で喧嘩、怒鳴り声、警察の警笛の音が鳴り響こうと平穏と感じてしまうが、貴明マネの言う通り伊能市に慣れてしまったせいだろう。


 なにせ満月と新月の2度に渡って、ほぼ確実に妖異が湧き出る伊能市と比べたらここは平穏としか言いようがない。その内1回はベルゼブブだなんて大物に出くわしたから余計にだ。


「夜の繁華街に来たのは初めてだけど中々面白いわね」


 一方、小夜子は夜の喧騒が面白いようでニタニタ笑っている。なんだか、満月の夜の伊能市に出撃するした時以上に楽しそうだ。それは小夜子だけじゃない。


「貴明マネ、なんか足取り軽いよね。夜型?」


「え!? そ、そうですかね!?」


 貴明マネも弾むような足取りだ。と言っても彼は、伊能市で深夜に動員された時も似た感じだから夜型人間なのだろう。


「実際のところ、死ぬことも考えて腹を括れとは言うたが、街中は妖異が出やすいことが分かっておるから、徹底的に護符や結界で清めてある。まず出ることは無いのじゃ」


 分かってるんだから対処をするのは当たり前だと言う源支部長だけど、実家が企業だと、それが出来ない奴がいる事も実感するんだよねえ。


「よしお主等。ここからは激戦区じゃから気を付けるんじゃ」


 源支部長が激戦区という場所? 一体どれほど危ない場所なんだ……。


 ◆


 予想以上の激戦区だった。


「活法!」「活法!」「また活法!」「酔って寝てる場合か活法!」


「ぐべっ!?」「ぐぎゃら!?」「ごびゃ!?」「俺は正気に戻った!」


 貴明マネが、ぐでんぐでんに酔っぱらって寝ているサラリーマンらしき人達の背中をグイっと押して次々に正気に戻している。ボクも経験あるけどあれ効くんだよねえ。って、止める暇がなかったけど、あれ、煩い連中が見たら暴力行為とか言い出しそうだぞ。


「酒は飲んでも飲まれるな。至言じゃな」


「あれ、いいんですかね?」


「まあ緊急措置と言える範囲じゃろ」


 和装なため繁華街で若干浮いている源支部長に聞くが、まあ確かに自分で立てそうにもない連中に活を入れてるだけだから大丈夫か。とはいえ善意で動いている貴明マネとアホな連中は関わってほしくないが。そう、異能排斥派と。


「ねえお姉さん。俺らと遊ばない?」


 その意味のアホじゃないんだよねえ。声の方を見ると外見は木村君に劣らぬほどチャラいけど、彼にはない下卑た笑みを浮かべる男達がいた。声を掛けるなら小夜子にしなよ。まあ明日の朝日は拝めないだろうけど。


「悪いけど」


「すまぬが」


「現在我々は異能研究所九州支部で研修中の学生です! お引き取りください!」


 ボクがなにか言うより、そして源支部長が割って入るより先に、貴明マネが男達の前に立ち塞がった。前から思ってるけど、そういうとこポイント高いよ。ジェット婆の間に割り込んで怪我させてしまったのは、今も自分の弱さへの悔しさを感じる。


「げっ!? 異能者!?」

「逃げろ!」


 こいつらはゼロどころかマイナスだ。勝手に声を掛けてきて勝手に走り去るとはいい度胸してる。


「ありがとうね貴明マネ」


「いいえ滅相もありません!」


「連中、女を見る目があると思ったけどなかったわね」


「ひょとして慰めくれてる?」


「さあ?」


 貴明マネにお礼を言うと、なんと小夜子から慰められてしまった。これは隕石が降ってくるね。間違いない。


「全く最近の若い者は。儂は婆さんに手紙を送るとこから始めたというのに」


 源所長の呟きに、思わず貴明マネ、小夜子と目を合わせてしまった。純情か。


「妖異なんてものは存在しません! 全て恐ろしい異能者達が作り出した捏造です! 自分達は妖異と戦っているから必要なんだと言うための嘘で、テレビで映されているのも加工されているものです! 現に私達は一度も実際に見たことがありません! 貴方達もそうでしょう!」


 げんなりした。


 プラカードや横断幕で、異能者がいかに危険な存在か宣伝する一団がそこにいたのだ。


 ◆


 ◆ 四葉貴明


 あっはっはっはっはっはっはっはっはっは! ガチのマジで腹いてえ! 丑三つ時が近づいてるからテンション高い自覚はあるが、それにしたって笑える! 深夜の繁華街に来てまでご苦労さん!


「はあ……」


 溜息吐いてる爺さんが頑張ったから実際見る機会がねえんだよ! 最下級の小鬼の餓鬼ですら人間の腕を引っこ抜いて遊べるレベルなんだから、この爺さんが妖異が現れないようにするのに妥協するわけないんだよなあ!


「異能者は危険だ!」

「危険だ!」


 ああそうとも危険だとも! そんな小鬼ですら通常の異能者にとっては雑魚なんだ! ゴリラが言ってた異能者は戦車だって言葉は比喩でも何でもない! 確かに間違いなく危険だ! 異能犯罪者と異能者の全部を一括りにして、霊的国防戦力を排除しようとしているお前らと同じくらいにはなあ!


 あっはっはっはっ!


 ああなんと素晴らしきかな人間とは!


 あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!

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