人の心神の心

前書き

すいません。無能王子がランキング的にいい感じなので、こっちの投稿間隔が普段よりほんの少し空いてます。


 ◆



 ◆佐伯飛鳥


「ふむ、昼からは……」


 源支部長が研修予定が書かれた紙を見ている。


「支部の方はいいんですか?」


「構わん構わん。普段の決算は副支部長がやっとるから、儂は大雑把な指示を出したらいいだけじゃ。お飾りは楽でいいわい」


 しかし、源支部長から研修を受けられるのはありがたいけど、ついさっき大きな指示を出したから、てっきり陣頭指揮を執るかと思ったのに、どうもボクが思ってる以上に普段はお飾りのようだ。


「ああ、託児所じゃの」


 ◆


 次は九州支部に預けられている、異能を発現した子供達の相手をする。名家出身以外、大方の異能者はその力に目覚めるのは15歳くらいだと言われおり、ボクもそうだし学園長も力に目覚めたのも確かそのくらいだ。しかし中には才能が有って、光ったりするだけではあるものの、5,6歳から力に目覚める子達がいる。そういった子達は専門の場所で力の制御を教えないと、成長したら大惨事を招く恐れがあった。その施設が九州支部の中にあり、そこへ行くことになったのだけれど……。


「とう! 100万馬力!」


「おにいちゃんはやい!」

「あははは!」

「ひゃくまんってなに?」

「ばりきってー?」


「100万はすっごい沢山で、馬力はお馬さんの力だよ!」


 子供達に抱き着かれて埋もれている貴明マネが走り回っている。すっごい人気だ。


「子供には遊び相手が分るものなのね」


「その理論で行くとボク達、遊び相手として失格なんだけど」


「したことないもの」


「まあボクもそうだけど……」


 一方、ボクと小夜子には誰一人やってこない。確かに小夜子の言う通り子供と遊んだことないけど、ちょっとショックを受けている。


「まあそれに怖いんでしょうね」


 肩を竦める小夜子だが、付き合ってると優しさ……らしきものは感じるけど、かなり捻くれてる為それを子供達は怖いと感じているのかもしれない。


 ってうん?


「なんかその怖いってのに、ボクのことも入れてない?」


 あまりにも心外だ。この優しさ溢れる佐伯飛鳥を怖いとかありえ


「今年キレた回数は?」


「……」


 る……かも……しれないこともないかもしれない。


 いやあれは、ゴキブリだったりドッペルゲンガーだったり、ジャンヌと戦っていた時の空耳が悪いんだ。決してボクが切れやすいという訳ではない。そうに違いない。うんうん。


「あの人も結構激情家だけど、怒るのは自分じゃなくて人を思ってだから、子供も無意識に分かってるんでしょう」


 少し遠くを見るように、子供達に引っ付かれたまま駆け回る貴明マネを見る小夜子。これは……心配? でも確かに貴明マネが怒っていたのは、お婆さんが詐欺に会いそうだったからだ。


「まあ妻の私が言うのもあれだけど、あの人結構図太いのよね」


「あ、そう」


 一転してニタニタ笑い始めた小夜子。ひょっとして言葉は全然そうじゃないけど、のろけを聞かされた? いや本当に言葉ではそうじゃないけど。


「ねーねーおねえちゃん」


 その小夜子がニタニタ笑っているのに、ボク達の方へ女の子がやって来た。これは将来肝の太い大物になるね。なにせその強さを知っているからだけど、西岡や南條どころか源支部長ですら逃げ出す笑みなのだ。


「おままごとしよー」


 思わず小夜子と目を見合わせる。これは実戦や異能大会よりも難しい難題が降りかかって来たぞ。


 ◆



 ◆四葉貴明


「はいどうぞ」


「これは……どうしろと?」


「食べてる振りでいいんだよ」


 お姉様が女の子におもちゃのお椀を渡されて困惑して、佐伯お姉様が促している。な、なんて可愛いんだ。あ、子供達が群がってるから、霊力でデコピンが飛んでこなかった。後で連続デコピンされそうだけど。


「にいちゃんごー!」


「任せて! パワー!」


 お子ちゃま達にせがまれて若干スピードアップする。


 英雄に会えて、善人のおばあちゃんに会えて、無垢の子供達に会えて俺幸せ。まあちょっと詐欺師でケチが付いたが、現世の法で裁かれるのならそれでいい。俺は人間として生きてるんだから、恨まれている全ての人類を粛清しようなんて考えはない。まあ、閻魔として裁いたけど俺っち神だし。半神半人ってなんて便利なんだ。これぞダブルスタンダード。とはいえまた会ってプッツンしたら……その時はその時だ。


 そしてだからこそ、人が罪を犯さなくなるだろう地獄体験ツアーもやっていない。これまでお盆があった上で閻魔として現生に出たが、それでも死後の罪を気にしてないならそれはそれでいい。爺さんが悪い奴もいい奴もひっくるめて人だと言ったがその通り。俺が人類そのものを根底から歪ませるなんて誰も望んじゃいない。なにより俺と親父は無慈悲な邪神なのだから。


 いかん。これは邪神の面だな。やはり俺と親父が動かないことを想定して、蛇君を生み出したのは正しかった。


「空はこんなに青いのに、どうしては儂は引退できないんじゃ……」


 子供達と遊びながらちょっと自分を見つめてたら、空を見つめながら茶を飲んでる爺がいた。どうして引退できないもなにも、昔はあんな英雄として立ち振る舞ってたんなら、その昔からいる職員はお飾りでもいいからと引き止めるだろうし、あんたの兄貴もそりゃ無視するに決まってるだろ。邪神の俺より自己分析できてねえな。


 おっとまた思考が逸れた。


「ふはは。速かろう」


「あはははは!」

「きゃああ!」


 今の俺は邪心でも主席でもなく、子供達の相手四葉貴明なのだ!


 ◆


 ◆


「さて、単なる夜の見回りとはいえ、実戦が起こるものとしていなければならん。死ぬかもしれんと腹を括って見回るんじゃ」


 馬鹿な爺さんだ。これから妖異が現れていないかを確認するため夜の見回りに行くのだが、一瞬で恐らく英雄であった当時の心構えに戻り、そんな覇気と隙の無さで支部を歩き回ったもんだから、職員全員が背筋を正してるぞ。こりゃ生涯現役を強制されるな。

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