vsギリシャ 頂点たる色褪せない色
さあて、いよいよ試合の時間が近づいてきたが、今日の日程もタフすぎる。なんせ通常の準決勝と決勝戦をやった後に、バトルロイヤルの決勝までやるときたもんだ。余力の大事さを実感させるにしても、ちょっときつ過ぎやしませんかね?
「早く立て」
「おら行くぞ」
「しーん……」
マッスルの完璧コブラツイストを食らって粛清されたチャラ男が、膝をついてがっくりと燃え尽きているが、それを藤宮君と狭間君が立たせようとしている。ちょっとグレイエイリアンの両手を持つエージェントの写真のようだ。
『選手入場!』
おっと呼ばれた。さあ行こう皆!
◆
威風堂々と戦闘場に歩む我がチーム。その中でも特に目立つのは。
「あの……この位置はちょっと……」
1人だけしおらしく、借りてきた猫君の様になっているチャラ男だ。まあチャラ男にしてみれば当然なのだろう。こいつは今、試合前に皆が考えた完璧なポジションにいるのだが。
「ぷぷぷぷぷぷぷぷ」
そのチャラ男の引き攣った顔を見て、可愛らしく笑っているお姉様の隣。あいてっ。でへへ。
そして
「骨は拾ってやるわよ」
厚化粧のド真ん前なのだ!
「ワイ、消し炭になるんじゃ……」
よく分かってるじゃないかチャラ男。その素晴らしい位置にいる限り、お前が妙なことを考えた瞬間お姉様が素敵な笑顔を浮かべるだろうし、その後に厚化粧の魔法で消し炭になる、まさに完璧なポジション。
これで内に抱えた敵のことは解決した。相手は……モイライ三姉妹とマーズの子弟、アトラスだったかがいた。やっぱ勝ちに来てるな。他の6人も精鋭といった雰囲気だ。
だが! 権能使いのモイライ三姉妹は橘お姉様に無力なことを考えると、実質的な戦力は7人なのだ! これは間違いなく勝ったなガハハ!
「クロトーちゃん、ラケシスちゃん、アーちゃん……無力なワイを許して……」
チャラ男が自分を見つめている三姉妹に、詫びの言葉を発している。狭間君、佐伯お姉様、俺の目が合う。言いたいことは即分かった。やっぱり、事故ということで佐伯お姉様に誤射してもらうプランBを実行するか? マジで国際の学生大会で内に裏切り者がいるとか前代未聞だろ。
『試合開始!』
もうそれどころじゃない! 試合が始まった!
『おおおおおお!』
突進してくるアトラスと接近戦が得意らしい霊力者が複数!
「【超力壁】!」
「【四力結界】!」
「【ボルケーノ】!」
「【祓い給い清め給い】」
「【貪降雪這】」
それに対して狭間君が即座に超力壁を展開、一拍遅れて藤宮君の四力結界が発動した後、佐伯お姉様がその溶岩を解き放った! そして東郷さんがずっとバフを掛けた上に、橘お姉様の異能を貪る雪が上空でひらひら舞い始める! これぞまさに必勝パターン! 勝った! 異能大会編完結!
む!? 後方ではモイライ三姉妹が権能を行使しようとしている! しかあああし! 橘お姉様の神威と移動を断つ【
『【ホンノチョットダケカワルミライ】』
『【ホンノスコシウンガワルイイマ】』
って発動したああああ!? いやそんな馬鹿な張ったりだ! ですよね橘お姉様!?
「っ!? これは違う!?」
え!? 違うって何がですか橘お姉様!?
「いっくし!?」
佐伯お姉様が突然くしゃみをして、ボルケーノはこちらに接近してくるアトラス達とは明後日の方向に放たれた!
まさか本当に!? ボルケーノが当たる未来が、運悪く偶然発生した佐伯お姉様のくしゃみで逸れたのか!?
「権能ではなく異能だ! 自分の力だ!」
マッスルの言葉だが、一瞬意味が分からなかった。しかし! そうか! あっはっはっはっはっは! 彼女達は神話の、前世とも言える陽炎となったモイライ三姉妹の力を借り受けるのではなく、例え出力は弱かろうが自分達の! 人間の! 人としての力で戦っているのか! あっはっはっは!
ってまずうううううい! それなら確かに常世にいる神の力ではないため、それを遮断するはずの橘お姉様の神移断花が通用しねえ! 幸いなのは、やはり人としてその運命を操る異能を行使するのはきついようで、大会中に見せた程強力でもないし、なによりアトロポスの即死攻撃を発動できないみたいだ!
「木村君!」
チャラ男を呼ぶ。こういう時こそチャラ男の番だ! 権能みたいなもんにはお前が対処するんだよ! やらないと消し炭だから間違ってもがんばえー。とか言わないだろう!
「【モイライの姐さんた】え、自分の転生体が頑張ってるんだから受け止めてやれ? おっしゃる通り! なんですけど、消し炭にされそうで……」
こんの役立たずがあああああああああああああ! それこそ女神の方のモイライ三姉妹にコンタクト取っているみたいだが丸め込まれてやがるうううううう!
『おおお!』
そうこうしているうちにアトラス達が我がチームの一番外、藤宮君の四力結界までたどり着き、その槍の切っ先を叩きつけた!
だが。
『違う!? プラン破棄だ!』
アトラスが深紅の槍を虹に突き立てた瞬間、違うと言いながら飛び退いた。四力結界の硬さが違う? いいや、藤宮君とアトラスが戦った時とそれほど変わらないはずだ。
『精神的に一皮剥けてる! 崩せない!』
お前さん、本当に凄いよ。別に俺みたいな人の心に巣食う邪神でもないのに、槍を結界に一突きしただけでその違いが分かるか。
恐らく彼らのプランは、個人戦でアトラスがやったように、徹底的に四力結界にへばりつき、藤宮君の精神的疲労で発生した揺らぎの隙を突くつもりだったのだろう。しかし、数々の激戦を繰り広げた藤宮君は、一試合ごとに成長しているのだ。確かに四力結界の硬度はそれほど変わっていない。だがである。その精神はしっかりと成長していた。彼に一度通じたことが二度通じるとは思わないことだ。
しかし……おかしいことがある。その戦法はそもそも持久戦を想定しているはず。だが、橘お姉様の貪降雪這を考えると、それは悪手極まりない筈だ。現にゆっくりだが、あの全てを貪る白い雪が
『【ホンノチョットダケマキモドシ】』
は?
雪が上空に戻った?
「橘!」
「分からない!」
狭間君の原因を訪ねる短い声に、橘お姉様も端的に答える。
俺には分かる、
「時間軸に干渉して、時間を巻き戻しました!」
「っ!?」
戦いに集中していても、藤宮君達が驚きを隠せなかった。だが、そうとしか考えられない。あの異能を剥ぎ取る雪を異能でどうこうするには、もっと大きなものを巻き込んで間接的に対処するしかない。それがつまり、時間。そして過去。
アトロポス。思っていた。その人の運命を刈り取り即死させるという権能を扱える時点で、他の姉妹達とは違うと。だが、女神の権能ではなく人としての異能で、果たして時間軸に干渉できるものなのか?
だが完璧ではない。そんなことが出来るなら、そもそも速攻で藤宮君の四力結界が張られる前の状況にしたり、橘お姉様の貪降雪這の発動を巻き戻せばいいのだ。つまり。
「発動に溜めが必要で、戻せてほんの数秒! 疲労から連続使用不可能!」
『ふう……』
速攻での発動が出来ない。そしてため息をついて疲労しているアトロポスの様子を見るに、それほど何度も使えなんじゃないか?
だが、姉二人が厄介なことに変わりない。
「【ボルケーノ】」
『【ホンノチョットダケカワルミライ】』
佐伯お姉様のボルケーノの照準を狂わせているクロトー
『【ホンノスコシウンガイイイマ】』
『見えた!』
偶々偶然、アトラスが四力結界のムラを見えるようにしているラケシス。
まあそれは
「【四力大結界】!」
『ぐっ!』
密度を上げてムラをなくした四力大結界に防がれた。言ったはずだ。いや、言ってないけど、藤宮君に同じ手は通用しない。それはもうアーサーが成し遂げている。
それに時間だ。充分お話の時間を稼げた。
『おおお!』
再びアトラスや他の霊力者が四力結界に斬りかかる。寸前。
「うううごめんよぉ皆ぁ。やっぱり新婚旅行の金は男としてワイが出したいんや」
男らしいのか、らしくないのかさっぱり分からんチャラ男が前に出た。
『っ逃げろおおおおおおおお!』
アトラスが戦っている最中でも出さなかった鬼気迫る声で仲間に叫んだ。だがまあ不可能だ。
『なあっ!?』
『馬鹿な!?』
彼の仲間達はアトラスの声に反応して、
そして踏み込んだ場所は、
『おおお!』
唯一転ばなかったのはアトラスのみ。彼はその全てに見舞われようと、全く影響がないとばかりに大地を踏みしめ、再び四力結界に槍を突き立てる。しかし、その視線は四力結界を展開する藤宮君でも、超力壁を張る狭間君でもなく。
「ちょっき……あああああああやっぱりワイには無理いいいいいいい!」
最後の最後で優柔不断を発揮して頭を抱えるチャラ男。これをチャラ男と言わずしてなんと言うほどのザ・チャラ男。でもまあいいよ。一応三姉妹の異能を押さえ込んでるんならお前はもう用済みだ。
後ろにいる厚化粧にサムズアップする。今なら運命に介入されてフレンドリーファイアしたり照準が狂うことはない。やってよし。
「サンダー!」
「え?」
え? じゃねえよチャラ男。敵を前にして撃てませんとか、粛清されるに決まってるだろ。あ、女神に助けを求めても無駄だぞ。俺っち神だから分かるけどよ、連中面白いことが起こるならそれを見たいんだわ。なんなら橘お姉様とか、お前の権能をいつでも封じられる態勢だし。
「ちょ」
厚化粧に振り向き、自分が射線上にいたことに気が付いたチャラ男は、その言葉を最後にギリシャチーム諸共じゅっと音を立てて雷の中に消えていった。
『がはっ!?』
『ぐうっ!?』
『まあ』
『こうなるわね』
『うん』
戦闘場から叩き出されたギリシャチーム。
『勝負あり!』
「ぐえええええええええええええ!?」
と、汚い叫び声をあげながら倒れたチャラ男。
な、なんてことだ……ついに我がチームから犠牲者が! まあ誰も気にしてない。それに脱落するシステムじゃないから、次の試合にも出れるけど。
「ぷぷぷぷぷぷぷぷ……ぷぷぷぷ……うぷぷ……うぷ……」
そしてお姉様が犠牲となり掛けている! かわいいあいてっ。でへへ。
兎に角、これで俺達が決勝だああああああああ!
◆
◆
◆
「西岡達は敗れたか……」
観客席に座り、腕を組みながら戦闘場を見下ろす藤宮君。かっこいい。
「日本対決、というかクラス内対決になったら、それにこしたことはなかったけど」
同じく腕を組んでいる佐伯お姉様。かっこいい。
「……」
冷静に観察している橘お姉様。かっこいい。
「ぷ……ぷ……」
まだ立ち直れていないお姉様。かわいい。あいてっ。でへへ。
「ワイがなにをしたって言うんや……」
馬鹿。
「お、そうだな」
その馬鹿をあしらう突っ込み。常識人だ。
「え? ちょっと待って。報奨金貰えるの?」
今更なことを言い始めた厚化粧。馬鹿。
「い、今更気が付いたの?」
まさに俺と同じことを言っている東郷さん。なんて常識人なんだ。
俺達の視線の先には、敗れてしまった西岡君率いる1年A組チームがいた。そしてその対面には当然、勝者。つまり、至高の座を巡って我々と戦う。
『イギリスチームの勝利!』
アーサー率いる、恐るべき使い手が集う騎士団の姿があった。
その迸る闘気、まさに万全だろう。
一方こちらは万全ではない。
「調整はどんな感じ?」
「かなり無理してこの日に合わせたからな」
だが。
「カーボアップも不十分だ」
そんなものは関係ない。
◆
あとがき
副題、頂点たる馬鹿
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